テラーノベル
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竜馬はザッとジェニの資料を流し読んだ、そして三浦のここ半年の営業成績に目が止まった
「君がこれほど利益向上に頑張っているのに、彼の営業成績から見て、それほどいいヤツとは思えないんだが?」
竜馬にじっと見つめられ、ジェニは沈黙に耐えかねて言った
「そ・・・それは・・・その・・・これからだと思います、あなたは会社の収支しか見ていないかもしれないけど、私は従業員の生活と家族を見ているのよ、彼は子供が・・・」
「結果的に会社の収支が人々の生活と家族に影響するんだぞ?」
「それはそうですけど!」
ジェニはムッとして言った
「いくら僕でも、人員削減チームの決定した事項を簡単に撤回することは出来ないよ、彼らの仕事を信頼していない事になる、この書類をチームに提出しておこう、タイムリミットだ、君の割り当て時間は過ぎた」
彼はファイルを持って立ち上がり、早くもドアへ向かっていく、ジェニは慌ててタブレットをブリーフケースに押し込み、小走りで彼の後をついて行った、胃がキリキリする
「それじゃ困るんです!あなたには発言権がおありじゃないですか!あなたが一言おっしゃってくださればいいんです、せめてあと3ヶ月、三浦君に猶予を下さい!彼は先月子供が生まれたばかりなんです」
「だったら尚更頑張るべきだろう!」
二人はジムから彼のオフィスへまでエレベーターに乗った、ジェニはさっきまで彼の視線を一身に浴びていたのに、今ではオフィスの一部になった気分だった
彼は艶消しの金属パネルにもたれて、スマートフォンを巧みに使い、ジェニのことなど無視して、目の前のことにすっかり集中している
エレベーターのドアが静かに開いても、竜馬はスマホから目を上げただけだった、彼の髪はすっかり乾いていて、さっきまで重いバーベルをかち上げていた野性的な男性は、すっかり消え都会的で、洗練された大会社のクールなCEOが現れた
竜馬のオフィスの階にエレベーターが開き、ズンズン歩く、竜馬に最後の一撃か何か出来ないかジェニは必死で考え、彼の後を着いて行った
その時、社長オフィス前で、誰かが大声をはり上げているのが聞こえた
「アイツは俺達の生活をめちゃくちゃにするつもりなんだ!首切り社長をここへ出せ!」
ジェニは驚いてその場に固まった!叫んでいるのは三浦だった、竜馬はすぐに三浦の元へ歩いて行った
「社長は今手が離せません!予定にない来客は何度来ても無駄です!」
鉄の秘書江藤さんが立ち上がって怒りを露にして、三浦に立ち向かっている
「アイツと話をさせろ!」
三浦は大汗で顔をギラギラさせている、酔っているのだろうか・・・かなり興奮している
「三浦君!!」
ジェニが三浦に駆け寄ろうとしたら、竜馬がジェニの腕を掴み、自分の後ろに下がらせた
「キャッ」
「僕に何か用か?」
竜馬が三浦の前に歩み出て、自分の背中にすっぽりジェニを隠す、そして手でジェニに下がるように合図した、三浦の注意はすぐに竜馬に向けられた
「お前!!」
三浦が竜馬に指を突き付ける
「お前が俺たちを破滅させようとしてるんだ!」
「僕は君達を破滅させるつもりはないっっ!!君が広告マーケティング部営業課の三浦君だね?」
竜馬の威厳のある、そして丁寧な物腰に、虚をつかれたのか・・・三浦は目をパチクリさせた
「お・・・俺は・・・その・・・俺の名前が解雇者リストに載っていると聞いた!首になったらどうやって家族を養えばいいんだ!訴えてやる!」
眉の汗を拭いながら彼は言った
「解雇者リストはまだ決定していない、今社内で流れているのはすべて噂だ!しかし、もし解雇されるとしても、君は退職金の支給対象者だ、メビウス社の再就職支援プログラムと、職業資格訓練を受ける権利が君には付く!」
さらに竜馬は落ち着いた声で続ける
「それに政府の失業保険6か月分と、受給手続き方法の説明会も開催される、僕が君を決して破滅などさせない!!」
竜馬の一喝に辺りはシンと静まり返っていた、鉄の秘書が鋭い眼で静かにこの光景を見守っている、おそらく三浦が暴れた時のために、警備員を呼ぶタイミングを見計らっているのだろう
ジェニの心臓がバクバクし、膝の震えを止められない、三浦はしばらく竜馬と睨み合っていたが・・・やがてガクンッと肩を落として呟いた
「それでも大変なことにはかわりない・・・」
竜馬はうなずいた
「ああ、大変だとも!しかし沢山の人がこういう状況をチャンスに変えて来た!君の雇用が危ういかどうかは後でちゃんと人員削減チームから聞かないとわからないが、男で父親なら、君自身でこの変化をチャンスに変えれることは出来るはすだ!!」
「フン・・・どうなることやら」
三浦はあきらめ顔でヘナヘナとその場にしゃがみこんだ
「君なら出来ると信じている!」
竜馬はキッパリ言い切って、三浦に手を差し伸べた、二人は暫く見つめあった、三浦は差し出された手をじっと見つめた、だが・・・やがて意を決したかのように、竜馬の手をガシッと握って立ち上がった
「まぁ・・・やってみるよ・・・その、騒いですいませんでした・・・」
「うちの資格訓練プログラムのカウンセリングをぜひ受けてくれ、良い資格が沢山揃っている、君はまだ若い、若いというだけでも色んな選択肢がある!」
色々納得して、三浦がオフィスから出て行くと、ジェニが凝らした息を吐き出した
―ああ・・・なんとか騒ぎを起こさずに済んだわ・・・―
竜馬はジェニに視線を向けた
「彼は酒を飲んでいたぞ!よくあんな風になるのか?」
ジェニはギクリとした、認めたくはないが、竜馬が間に入ってくれるまで、少しだけジェニは三浦の自暴自棄な態度に恐怖を感じていたのだ
彼はよくその気性の荒い性格から、仕事が上手くいかなかったら、すぐに怒鳴ったり、ものに当たったりする
藤子は彼が営業でさぼっていた所を何回も目撃していて、そんな彼を冷静に見て、仕事面ではもっと手厳しくした方が良いとジェニに意見していたが
それでも、荒れていない時の彼は、良い性格の好青年だと自分に言い聞かせてきた、実際ジェニは父が死んでから、彼を持て余して、どう指導すべきか悩まされていた
そんな荒れて、喧嘩腰だった三浦を、竜馬はあっという間に落ち着かせてしまった、竜馬の手腕には驚かされた、ジェニの前に立ちふさがってくれたが、もしも三浦が暴れていたらどうなっていただろうと思うとゾッとする、きっとジェニ一人では解決できなかっただろう
以前に、神崎広告代理店の忘年会で、呑み過ぎた三浦が暴れて、お店に迷惑をかけた時のことが思い出された
竜馬が守ってくれたという事実に、ジェニの心は動揺していた、頭の中は大混乱だ、今までこれほどハッキリと自分を守ろうとしてくれた人がいたかどうか思い出そうとしても思い出せなかった・・・
確かに、父も兄も、仕事の面では何かと助けてくれたが、ジェニの身を守るために躊躇なく立ち上がってくれた人など、今まで一人も思い出せない・・・さらに竜馬はジェニに言った
「君は辛い立場だな・・・もし役員や他の社員に、今日みたいに何か言われたら、必ず僕に報告するように、君は今回の件に何の責任もない」
「こ・・・こういうことは・・・あまりない事だから・・・基本、神崎のみんなは良い人よ」
ジェニが俯いたまま言う
「君の「良い人」はさっきの件であまりあてにならない」
さらに、竜馬がジェニの顔色を伺う
―どうしよう・・・彼の顔がまともに見れない―
その時、ぐいっと竜馬に手首を掴まれて、彼はジェニを引き寄せ、耳元で囁いた
「僕は君を誰にも傷つけさせない、いいか!今後こんなことがあったら必ず僕に言え!、僕が全てなんとかする!」
彼はそう言って社長室に消え、その後、すかさず江藤も社長室に消えた
コメント
1件
ジェニの立場の辛さと、竜馬の絶妙な手腕がすごく伝わってくる回でした…! 三浦さんが酔って乗り込んできた時、ジェニの前に立ちはだかって「僕が全てなんとかする」って言い切る竜馬、めちゃくちゃ頼もしかったです。あの場面でジェニの心が揺れたのも納得。この二人の距離、これからどう縮まっていくのか楽しみです!
#溺愛
桜咲かな
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