同じころ、ホテルの従業員寮の一室。
律はベッドに腰を下ろし、手元のメモをめくっていた。新しく覚える業務内容が増え、文字はびっしりと並んでいる。
だが、今日はどうしても集中できなかった。
頭の片隅に、研修生の姿がちらついて離れない。
桜坂華。
財閥の令嬢という立場を鼻にかけているわけでもなく、むしろ不器用で空回りばかり。
正直、面倒な相手を押し付けられたと思った。
けれど――昼休みに必死にメモを取っていた姿が、妙に心に残っている。
「……意外と、やる気はあるのかもしれない」
ぼそりと呟き、律は手元のメモを閉じた。
疲労が一気に押し寄せて、彼はそのまま横になる。
目を閉じても、令嬢の不器用な笑顔がふと脳裏をかすめた。
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