コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕はいつも一人ぼっちだった。大好きな料理でしか毎日を満たせないちっぽけな存在。正社員になりたい、この店で働きたい。店長の笑顔が心に突き刺さったまま、名無しの権兵衛の空っぽな人生は続いていく。
「おはようございます」
「ひよりちゃん。仕込み頼んだよ。九時開店ね」
「加賀美は?あいつまたサボりですか」
「今日は有給休暇。たまには羽根伸ばさなきゃ、ね?」
「はい」
ビストロ・サル。僕の唯一の居場所。将来の夢はオーナーシェフになる事。
「大丈夫。僕が側にいる。僕が側に……」
道端に咲いたタンポポが語りかけてきた。どうしようもない日々……今日も大忙し。その時。
「日下部ひよりだな?」
「あの、CLOSEの看板が見えなかった……」
「貸せ」
作務衣を着た一人の男が隣のキッチンに立った。誰?変なヤツ。
「通報するぞ」
「警察でも俺を止める事は出来ない。天の道は何時だってNo.1」
「誰だお前?」
男は言った。
「俺は天の道を行き、総てを司る男。天道総司」
「帰れ」
「魚の捌き方は料理との対話だ。調味料はほんのスパイス。最後に真心を忘れるな」
「……」
「食べるという文字は人が良くなるってな。憶えておけ」
「お前!何様のつもりだ」
男は食器のスプーンとフォークを使って手際良く調理を進める。沈黙の間……
「出来たぞ!まかないのメニューに加えろ」
「お前……」
「包丁の握り方も勉強しろ。食の神はお見通しだ」
「あの……もう開店ですよね?」
「い、いらっしゃいませ」
「俺がやる。お前はこれを作れ」
サルOPEN。人で溢れ返る店内に加賀美新の威勢の良い声がこだまする。
「いらっしゃいませ!ウチのひよりシェフはミシュラン三ツ星ですよ」
「ほう。面白い奴だ。お前も働け」
「遅いぞ加賀美!給料天引きな」
制服姿にエプロンを着た新は忙しそうだった。
「なあ……あいつ誰だ?新人のアルバイトか?」
「僕が知るか」
「加賀美とか言ったな。ZECTに案内してもらおう。俺が仮面ライダーだ」
ひよりが不思議そうに天道の横顔を見る。新は咳払いをする。
「おい!一般人も居るんだぞ、何で組織しか知らない事を……」
天道は人差し指を指し空を仰ぐ。窓の外にカブト虫のドローンらしき物体が彼を待っていた。
「人気者は忙しいな。ひより!あとは任せたぞ」
「ちょっ……サボるなよ!!」
「警察」
「あの……おすすめは?」
客がてんでわんやだった。天道はバイクで駆けていった。カブトゼクターが付いてくる。
「まだまだだな。みっちり修行だ。ZECTは俺が潰す」
ゼクターが笑った。東京タワーの真下で停車した天道は背後の気配に気付いた。ワームだ。
「七年前の傷跡か……お婆ちゃんが言っていた。世界の中心は天の趣くがまま 」
ワームが脱皮した!天道は腰のベルトを後光に射す!
「変身!!」
仮面ライダーカブト!真っ赤なボディーに重厚なマスクドフォームが降臨する!
「小手調べだ。クナイガン!」
市民は既に避難済み。三体のワームが高速移動で攻撃する!
「クロックアップか。青臭い」
キャストオフ!!カブトが叫ぶと同時にベルトのゼクターが光り輝く!!
「カブトフォームの初陣だ」
バトル・ファイト開始!!クナイガンを片手に次々とワームが倒れていく。ゼクトルーパーと走行車が到着する!
「あれは…… 」
「そのままだ。岬、データの入力を。加賀美は?」
「アルバイトから切り上げるべきでは?」
「LINEを送れ」
天道がとどめを刺す!爆発と共に衝撃が走る、他意は無い。
「すみません!遅くなりました!」
「彼は何者なの?」
「我々と同じチーム……それとも」
「仮面ライダーカブト!一緒に世界を救ってくれ!!」
天道とZECTが対峙する。夕暮れ時の斜陽が彼等を包み込んでいく。
「俺は俺のやり方で戦う。ゼクターは渡さん」
「正体を見せなさい!」
ピストルを向けられる。突然の霧。
「運すらも俺に味方する宿命。健気な妹が帰りを待っている。ワームの弱点は脱皮前だ、会議で話せ」
「貴様!ゼクターは我々の物なんだぞ、返せ!」
「断る」
消えた。何が起こったの?奇跡!?ミラクル!?新は先程のサルに居た男を影にダブらせた。
「あいつなら何か知っているかも」
「加賀美君」
七年前の事件。ワーム襲来。ZECT結成の秘密。物語は動き出す。
「お兄ちゃん、ただいま!」
妹の樹花が元気に帰宅した。
「おかえり。宿題が終わったら三時のおやつが待ってるぞ。今日は杏仁豆腐だ」
「うん、楽しみー!」
天道総司。ゼクターに選ばれし資格者。仮面ライダーの運命はカブトの意思のままに。
「日下部ひより……か」
太陽は沈まない!!