氷の巨人を殺した後も各地で悪魔や厄介そうな奴を殺して回っていたが、服の内側でスマホが揺れているのが分かって動きを止めた。
「蘆屋か?」
『うん。そっちは大丈夫?』
「あぁ、問題ない」
『それは良かったけど……今、結構ヤバいことが起きてるみたい』
「何だ?」
ヤバいことと言えば、既に結構ヤバくはあるが。
『今回のテロの、恐らく本命……栃木県で発生した結界』
「結界?」
『結界。外からは中の様子も殆ど分かんないって。そして、悪魔の反応が五つ。五体全員、最近の悪魔事件で最大級らしいよ』
「……なるほどな」
栃木に悪魔が五体。それも最近の中で最大級なら侯爵より上ってことになるな。
「アンタらはどうするんだ?」
『悪魔の反応は全部結界の中から出てきてないらしいから、結界の外で待ち構えるって感じ。結界の中がどうなってるのか確認できないし、結界の位置も街中じゃないから焦って突入する必要性も薄いって』
「ハンターの動きは分かるか?」
『詳しくは分からないけど、協会主導で積極的に何かする感じはないね』
「個人で動く可能性はあるってことか?」
『分かんないけど、結界の中に一級の竜殺しが居るって話は聞いた』
一級か。悪魔五体を相手に勝てるレベルなのかは分からないが……まぁ、一応行くか。
「分かった。こっちの知ってる情報は、新潟の氷の巨人は死んだってくらいだな」
『へぇ、何かしたの?』
「さぁな」
そう言って、俺は通話を切った。栃木で発生した結界……これか。調べれば直ぐに出たな。急ぐとしよう。
「ッ!」
転移を発動しようとした瞬間。後方から炎が迫った。
「誰だ、アンタ」
炎を回避し、それを放った男の首筋に剣を突きつけた。ローブを纏った男のフードが風で剥がれ、ニコニコと気持ち悪く笑う顔が見えた。
「いや、アンタ達か」
一人じゃない。気配は多い。
「私達が誰か、という問いですが……ソロモン様を崇める忠実なる信徒、その他にはありませんね。以前は下らぬ神を崇めていましたが、偉大なる支配者ソロモン様が私たちの目を覚まさせてくれたのです」
なんだ、こいつら。洗脳でもされてるのか?
「……魔術による洗脳の痕跡は無さそうだが」
「ふっ、ふふふっ! 洗脳……随分、面白いことを宣いますね。何も与えぬ神と、力を与える王。どちらを崇める方が正しいかなど、考えれば分かる話でしょう? 私達は洗脳などされておりません。純粋な信仰ですよ」
なるほどな。元から崇められていた神とすげ変わったのか。
「それで、何だ?」
「足止めですよ。あぁ、勿論私達を無視して逃げても構いませんが……その場合は、無辜の民が代わりに死ぬだけということです」
ソロモンの手勢なら、本当にやるだろうな。
「……あの結界は何だ?」
「あぁ、アレですか? ソロモン様の配下が勝手にやっていることらしいですが……竜殺しが死ぬのはソロモン様にとっても得が大きいとのことで、それを阻止できそうな貴方のことを足止めに参ったのです」
竜殺しが結界内に居るって話だったが、そいつを殺すこと自体が目的なのか。こいつの話が本当なら、だが。
「それは……このテロ自体はソロモンの仕業だよな?」
「いいえ、ソロモン様の配下が復讐などという下らない理由で勝手にやっているだけですよ。ただ、これもソロモン様の手の平の上であることを考えれば……ある意味、ソロモン様の為したこととも言えますね」
やけに簡単に喋るな。情報を隠す気は無いか、全てが出鱈目かのどちらかだが。
「質問は時間稼ぎになる以上、好都合か?」
「えぇ。ただ、あまり関係ありませんね……貴方には、ここで死んでいただくので」
男が言うと、瓦礫の中からぞろぞろと似たようなローブを着た奴らが出て来た。
「アンタこそ、死ぬ覚悟は出来てるのか?」
傷付いた街。ここら辺に人は居ない。戦闘になるなら、殺すことになる。
「ふふふ、我らが王の為なれば」
「そうか」
瞬間、男の首が飛ぶ。先ずは一人だ。
「ソロモン様の為にッ!」
「為に、何だ? アンタは死ぬだけだ」
飛び出して来た男の首が飛ぶ。
「死ねぇぇえええええッ!!」
「練度はそこまで高くないな」
また首が飛ぶ。大した手応えも無い。こいつら以外には……誰も居ないな。一気に終わらせよう。
「『雲散霧消《イヴァニシュティン》』」
俺の体から、雲のように濃い霧が広がっていく。
「あまり良い死に方とは言えないが……恨むなよ」
広がる霧のようなそれは、俺を囲むローブ共の体に触れると、その肌に馴染むように溶け込み、その部分を消滅させていく。
「ぐ、なァッ!? 何だこれはッ!」
「そ、ソロモン様ッ! お助け下さいッ、どうかッ!!」
虫に食われるように少しずつ外側から消滅していく肉体。霧と同化した体は感覚を失っていき、痛みはそこまで感じないだろうが、恐怖はあるだろう。少しずつ、自分の体が消えていくんだ。
「……これで、終わりだな」
一瞬にして霧の街となったこの場所も、一分も経たずに元に戻るだろう死体一つ残すことなく。
「――――なァに、終わったみたいな感じ出してるんですかァ?」
頭上。現れたのはボロボロのローブに首から十字架をかけた男。その手には錆びた剣が握られている。
「こんな霧、このロザリオがあれば効かないんですねェ」
男はニタニタと笑い、錆びた剣を俺に向けた。
「特別に教えてあげましょゥ。この剣で斬られた者は錆びて死にます。例外はナシですよォ!」
男は一方的に告げると、俺の懐まで踏み込んで剣を振り上げた。
「そうか」
だが、遅い。幾ら強い武器を持っていても、当たらなければ意味は無い。
「ぐ――――ォ」
剣を回避し、男を真っ二つに切断する。ロザリオごと左右に分かれた男は、霧に呑まれて消えていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!