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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ベルが何気なく呟いた縄張りがなければ造れば良いじゃない。その理論は私にとって歓迎すべきものでした。
シェルドハーフェンは十六の区画に分かれていますが、どこも大勢力が治めているか群雄割拠の二つのみ。完全にフリーな区画は存在しないのです。
何処に手を出しても熾烈な縄張り争いに巻き込まれるだけであり、他の組織が統治していた場所を新しく統治するなど面倒が多くメリットも少ない。ならば自分で造ってしまえば良い。荒唐無稽ではありますが、縄張り争いに興味がない私からすればそれが最適解でした。
さてシェルドハーフェンは帝国の裏社会。様々な犯罪者だけではなく、身寄りを失った子供や行く宛の無い人々も多数流れてくる場所でもあります。
そんな人々は結局犯罪に走るか巻き込まれるので治安は悪化の一途を辿るのみ。ならば、そんな人々の受け皿になるような場所を新しく造ろう。それが私の計画です。
幸いにして『大樹』は日々成長を続けその恩恵として周囲は肥沃な土壌となり、それらが動植物を育み豊かな大地を築き上げています。
もちろん農園として広大な区画を農地にしていますが、それでも有り余るほどの土地があります。
人員的な問題でこれ以上の開墾は現段階で不可能であるとロウから報告を受けていますので、これを有効活用することにしました。
まず最初に、農園周辺を流れる清らかな川を中心に居住区とすべき区画を設定します。農園へと続く道を敷いて、その両側に家屋を並べていく方式です。区画整理が簡単なんですよね。
で、その為には更なる人員が必要になるのですが、これはあっさり解決しました。
マクベスさんが戦闘部隊の内に工兵部隊の設立を視野にいれていたので、これらの街道整理や家屋建設は工兵候補者による格好の訓練内容となるのだとか。
工兵部隊は借金まみれになったドワーフが大半で、その工作技術は目を見張るものがあります。小柄な私よりずっと小さいのに力持ちで手先も器用となればどうなるか。
私が取り敢えず居住区を設定して道の普請を要請した僅か三日後、農園内部と居住区予定地を縦横無尽に走る綺麗な石畳の立派な道が完成していました。幅も馬車二台が優に並べるほどの広さがあります。いや、驚きました。石材なんか何処から持ってきたのかな?
「農園近くに良い石が採れそうな山がありましてな、石切場を試験的に建設していたのです。まさかこの様に役立つとは思いませんでしたな」
ロウはそう話ながら笑っていました。ううむ、知らなかった。ですが、近くで良い石材が手に入るならば町の建設も早くなります。
次に居住区の家屋の建設を始めます。ここは帝国らしく石材を用いた二階建ての頑丈な家屋を設計してそれを道に沿って建設していく予定です。ですが、流石に家をたくさん造るとなれば工兵部隊だけでは数が圧倒的に足りません。ではどうするか。足りないなら増やせば良いんです。ついでに雇用も生まれますからね。
「と言うわけで、職に溢れた建設業を生業にしていた同族さんは居ませんか?」
早速ドルマンさんに相談してみると。
「そんな都合の良い話があるわけないだろう。だが、俺みたいな外れ者も居るんだ。そいつらに声をかけても良いが、雇えるのか?」
「もちろん、それに良ければそのまま住んでいただいても構わないとお伝えください」
「相変わらず気前が良いな、嬢ちゃん。手紙を出してみるが、まああんまり期待しないで待っててくれ」
もちろん期待して待つに決まってますが。とは言えこれには時間がかかるでしょう。ただ待つだけではなく、人員の募集を行うため私は『ターラン商会』へと向かいます。
何故か?流れ者に仕事を斡旋しているのは、『ターラン商会』だからです。
相変わらずドピンクな本店でマーサさんと会談します。
「今月も結構な数が流れてきてるわよ。近代化に伴う帝国鉄道計画だったかしら。その線路建設で強制立ち退きが増えてるみたいね」
近代化による弊害ですね。そして住まう場所を追われた人々がシェルドハーフェンに流れ込み、『ターラン商会』を頼る。
「農作業、或いは建設業に経験がある人を募集しています。待遇はいつも通り、上限は取り敢えず二百人まで」
「いきなり二百人とは随分と景気が良さそうね?シャーリィ。今度は何を始めるの?」
期待に満ちた目を向けてくるマーサさん。
「縄張りを、地盤を自分で造ろうかなと思いまして」
「何をどうすればそういう結論になるのかしら?」
「余計な柵や手間を省きたいだけですよ。今回の件で地盤の必要性を痛感しましたし」
エルダス・ファミリーは十六番街を支配するからこそ、幹部一人でもあれだけの動員が出来たのは疑う余地もありません。対抗するには此方も地盤を築いてより強固かつ強力な力を手に入れなければなりません。
「あははっ!町作りをする裏社会の組織なんて聞いたことがないわよ!相変わらず突拍子もなくて、見ていて面白いわ」
「見ているだけで良いんですか?マーサさん」
商売のチャンスですよ?
「借りもあるし、資材なんかを格安で仕入れてあげるわ。その代わり、町が出来たらうちの支店を建てさせてね?」
「支店ではなく本店を建てたいと思うくらい素晴らしい町を造りますよ」
「あらそう?なら、楽しみにしてるわね」
『ターラン商会』と契約を結び、私は再び農園へ戻りました。
先ずは完成した道に沿う居住区、下水道などの整備が必要です。人員増加の目処も立ちましたし、さてどうしようかな。
『帝国の未来』に記されている画期的なシステムの導入も検討したいし……悩むなぁ。
「町作りの構想を練るのは構いませんが、先にやって貰いたいことがあります」
建設現場をぼんやりと眺めていると、シスターが声をかけてきました。
「何でしょう?シスター」
「明日にでも六番街へ向かいなさい。目的地はカジノ『オータムリゾート』です」
「むっ、今回手を貸してくれた大組織ですか」
「そうです。そこのボス、リースリットに話を付けています。彼女と会ってきなさい。貴女にとって有益なら協力関係を築けますよ」
「それは、嬉しい誤算ですね。繋いでくれるんですか?」
「私に出来るのは紹介するだけです。後はシャーリィ、貴女の力量次第ですね」
それなら、シスターの顔を潰さないようにしないと。
「分かりました、早速明日向かいます。護衛はベルとルイを連れていけば良いですかね?」
「ベルモンドは避けなさい、元とは言えエルダス・ファミリーの関係者です。護衛はルイスだけにしなさい」
「分かりました」
六番街を仕切るギャンブルの女王、どんな人なのか今から楽しみですね。
交差する姉妹の運命は少しずつ交わろうとしていた。