テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
本屋さんは私のセレクトでカフェが併設してある店舗にした。コーヒー好きなのでついつい何かにつけて カフェとセットにしてしまう。
現地集合にしたので私は早めに行きお勧めの本の確認や面白そうなものがあるか下調べをした。
そうこうしていると絃さんがもちろん待ち合わせ時間よりも早くやって来た。
「由布ちゃんお待たせ!今日も早く来てたの?
そんなに早く俺と会いたかったのかぁ。そーか
そーか!」
「もーそんなんじゃないですよ…半分当たってるかもですけどね!フフッ」
少しそんな返しも出来る様になっていた。
そして早速いちばんお気に入りの本の所に行くと 「読んだことあるかもしれないけど…」と
“梶井基次郎の檸檬”を指差した。
絃さんはもちろん知っていて気になってはいたが読んだ事がないそうで即決で”檸檬”を手に 取った。
他も2、3冊お勧めしたがまずは一冊買い、
又今度一緒に選んで欲しいと絃さんは言うのだ。
本屋さんは好きなので大歓迎だがこうやって今後何回か会ってしまって良いのかどうか一瞬頭をよぎった。
でも本を選んであげるだけなわけだから特に気に病む事もないかと持ち前のネガティブ思考には至らなかった。
そして併設のカフェでお茶をしながら選んだ本について話しをした。
ネタバレにならないようにしながら私は梶井に対する思いや檸檬を初めて読んだ時の衝撃を話した。
話したというより語ったといった感じだろうか。
それを笑顔ではあるが真剣に聞いてくれていた絃さんにまた一つ心の中の風船が大きく膨らんでいた。
私はそれに気が付いていたがどうせ割れるだろう風船なのだから自分で気が付かないふりをした。
そしてやはり今後心の中の風船を気になりながら生活していくとしても派手に割れる事なく、
自分の手で小さな穴を開け少しずつ少しずつ気が付かないうちに空気が抜けて風船が小さくなりやがてなくなってしまう様に仕向け様と思っていた。
やはりあってはいけない絃さんを思う風船は実際私の心の中心にドカッと膨らんで鎮座しているのだから。
そんな事を思っていると突然絃さんがこんな事を言い出した。
「そういえば由布ちゃん、俺のこと名前で呼んでくれた事一回もないよね。名前呼ぶの恥ずかしい? 呼んで欲しいな〜」
(まったく、私の方は絃さんを思う風船がどうだのこうだの神妙な面持ちで考えているのに、名前呼んでくれだと…私の心の中は風船が大きく鎮座してるのに、名前呼ぶという高いハードルなんか入る余地はないのですよ!)と心の中で叫んでいた。
実は私も何回か名前を呼ぶことをトライしようとしたが無理であの…とかちょっと…とか言ってしまっていた。
「あ、もう少し待ってください…多分次会う時には 慣れてきて呼べると思うので…」
「そうだよな、無理にでなくていいけど名前呼んでもらえたら嬉しいからさ。親しくなれた気もするし。次の時呼んでもらえるの楽しみにしているよ!」
次会う時の宿題を出されてその事で頭がいっぱいであった為、 気にならないと言えば嘘にはなるが絃さんの言う”親しい”の意味がどういう事かは考えない事にした。
そしてまた次会う迄私は気が気でなく過ごすのであった。
コメント
1件
読ませていただきました📖 「風船」の比喩がすごく胸に刺さりました。由布さんが自分の気持ちを風船にたとえて、割れる前にそっと空気を抜こうとする…その慎重さに、彼女の優しさと怖さの両方が詰まっているなって。 絃さんが「名前呼んで」って言い出すタイミングも絶妙で、ああ、この人、本当に由布さんのこと好きなんだなと。でも由布さんは「親しい」の意味を深く考えないようにしてる…そのバランスがリアルで、続きがすごく気になります🤍