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「あー……、麺類、かな。麻婆豆腐も……」
「あっ、麺! 私、あれがいいな。あれ」
とっさに名前が出てこず、私はシュッシュッシュ、と何かを削るジェスチャーをする。
「刀削麺か?」
尊さんに言われ、私はうんうんと頷く。
「そう! それ! 食べてみたかったけど、機会がなかったので」
「じゃあ、刀削麺のある店を探しましょうか。他の中華は大体あると思うので」
「いいですよ」
その提案に亮平は大人しく従い、尊さんがスマホでお店を検索したあと、三人でお店のあるほうへ歩き始める。
「こうやって二人で中華街に来るって事は、兄妹仲はいいんですか?」
尊さんが笑顔でぶっ込み、私は思わず横を向いて「うわぁ……」と顔を強張らせる。
亮平は少し黙っていたけど、苦しい言い訳をする。
「悪くはないと思います」
すっごい微妙な答えだな。良くはないのは確かだけど。
「そうですか。さっき朱里さんに電話を掛けた時、お兄さんが電話を切ったんですよね? お取り込み中だったんでしょうけど、邪魔してしまってすみません」
尊さんの切り込みが凄くて、私は変な汗を掻いていた。
この人、平和的にやっているようで、めっちゃ怒ってない?
さっきは『家族仲を壊すつもりはない』と言ったし、本当にそのつもりはないんだろう。
でも『ギリギリのところを攻めないとは言ってない』と態度が語っている。
亮平も尊さんの攻めに感じるものがあるようで、言葉を慎重に選んでいる。
「……兄妹で大切な話をしていたので。運転中だったのもあり、つい」
「そうですか。ちなみに何を話していたのか、お聞きしても?」
目当てのお店についたけど、順番待ちがあるので、私たちは待ちながら会話する。
「……朱里からある程度聞いているんでしょう? 僕たちは血が繋がっていないので、普通の家族より関係が複雑なんです」
「ええ、聞いていますよ。お兄さんの醸し出す距離感が少し苦手という事も」
尊さんの言葉を聞いて、私は敵陣に入った将棋の駒がひっくり返った様子を思い出した。
尊さんはゆっくりと着実に、亮平を追い詰めている。
亮平はそれを聞いて諦めを感じたのか、溜め息をついたあと、ぶっちゃけだした。
「あなた、分かって言ってますよね? 『性格が悪い』って言われませんか?」
「ははっ、嫌ですねぇ……。そう見えますか?」
「見えますよ。若くてイケメンで部長なんて、純粋無垢とはいかないでしょう」
……おや、いつかの尊さんと同じ事を言ってる。分かる人には分かるのかな。
亮平は中華街の景色を何とはなしに見ながら言った。
「嫌な男だと思うなら好きに罵倒してくださいよ。二人にとって俺は邪魔者なんでしょうから」
亮平はとうとう自分の事を〝僕〟というのもやめ、本心を露わにする。
それを聞いた尊さんは、少し考えてから言った。
「最初に朱里からあなたの話を聞いた時、『魅力的だから気持ちは分かる』と思いました。……でもあなたは迫り方を間違えました。女性に『気持ち悪い』と思わせるやり方じゃあ、継兄という立場もマイナスにしかなりません」
尊さんも〝朱里さん〟というのをやめ、本音で話している。
亮平は溜め息をつき、私をチラッと見る。
「……俺は最初から朱里に好かれていませんでした。『可愛い、仲良くなりたい』と思っても、彼女は心を開いてくれなかった」
そう言われ、私は思わず口を挟んだ。
「だから、亮平が美奈歩の嫉妬心を考えていなかったからじゃない」
私の言葉を聞いた尊さんは、上村家の大体の状況を把握したらしい。
「連れ子同士って複雑ですよね。仲良くなれる家庭もあれば、ギクシャクしたままのところもある。歩み寄ればいいんでしょうけど、分かり合えない時もある」
「あなたに分かるんですか?」
亮平に疑うような目を向けられ、尊さんは意味深に笑う。
「私は婚外子で、腹違いの兄は本妻の子です。その辺りの事情は、上村家のご家族とお会いした時にすべて話すつもりでいます。今言いたいのは、私はすべてに恵まれた存在ではない、という事です」
予想外の言葉を聞いたからか、亮平は黙り込んだ。
「だから亮平さんが朱里に複雑な想いを抱く気持ちを、ある程度理解します。私だっていきなりできた〝家族〟に魅力的で年齢の近い異性がいたら、どう接したらいいか分からず戸惑ったでしょう」
思いのほか尊さんが歩み寄ったからか、亮平は距離感を図るように遠くを見て、何か考えていた。
「亮平さんは、朱里の事を一人の女性として愛していますか?」
穏やかに尋ねられ、亮平はしばらく黙ったあと答える。
コメント
2件
あからさまなセクハラちっくな感じを高校生の頃に家でやられていたら気~狂うわ。朱里ちゃんよく我慢したね。😖
正確悪いよ〜🤣朱里ちゃんもやだったんだもん🤣 でもね違うんだな〜亮平くん!話せばわかるよ。撃沈されるまで後どのくらい?🤣