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イザリスさんは、引き込まれるくらいに優しく微笑んでいた。
大きな瞳には慈悲と慈愛が込められているような、その目を細めて……まるで女神様みたいに綺麗な人の、やわらかな――。
――く、くちびる?
********
「んんっ! ちょ、ちょっと。何するんですか」
随分と顔を近付けてくるなと思っていたけど……。
「んふふ。いいじゃない。あなたを見てると、な~んか、いじ……コホコホ、可愛がりたくなるんだものぉ」
「今いじめたいって言いかけましたよね?」
「そんな話し方やめてよぉ。キスした仲じゃん?」
「か、かかか勝手にしたんじゃないですか!」
「もぅ。ウブねぇ……ほんとに魔王様と、毎晩してるのぉ?」
「し、しりません!」
「隠さなくてもいーじゃ~ん。それに全部知ってるわよぉ。あの御方、性欲つよつよだもん。抱かないワケないじゃない? ホントは私が隣に居たかったのになぁ……」
急にションボリとした顔をされて、イザリスさんも好きだったのかと胸が痛む。
「え、そ、それって……」
「まぁまぁ、いいじゃないそんなこと。今はあなたが側にいるんだからぁ。嫉妬はしちゃうけど、本気でいじわるしたりはしないのよ? だって、二番でも三番でも私は構わないし~」
「え、ええええ? そ、そういうのなんですか? ま……魔族って、やっぱり割と自由なのかな。独り占めとか、魔王さまに嫌われちゃうかな」
「かーわいぃ! 大丈夫よ、二人で決めることだから。サラ。あなたが嫌なら断ればいいし、お相手をするのが大変だと思ったら、あなたから提案してもいいのだし」
「そ、そうなんだ……」
「うんうん。その時は、絶対に私を候補にしてね? 私も大好きなんだもの」
――えっちが、とかじゃないわよね?
「いま、ちょっとだけ失礼なこと考えたでしょ」
「えっ。い、いや、その。……うん、ちょっとだけ」
「まぁね、こんな格好だし? でも、私も魔王様ひとすじよ? 人間で遊ぶときはね、美味しいものをご馳走になったあと、ベッドで夢を見させておしまい。魔力操作でそういう夢を見せてあげれば、現実との区別なんてつかないから。チョロいわよぉ」
「おぉぉ。そ、それで生気を吸い取る的な?」
「えぇ? まさかぁ? 人間なんてほとんど魔力持ってないのに、取るものなんてないわよぉ。王都で遊ぶお金とか、美味しいものを食べたいとか、そんなご利用目的よね。サラにも夢魔の魔法、教えたげよっか」
「ええ~…………ぅうーん。やめとく」
「そっかそっかぁ。――あ、解析おわったっぽーい」
「ん? かいせきって?」
「あなたの魔力、ぶっちゃけ暴走しかけててさぁ。大変だったわよぉ? も~のすごい魔力量なんだもの。魔王さまに付き合えるワケよねぇ、私だったら……毎日なんてぜぇっっったいに無理。イキ狂って死んじゃうかも? すごい幸せなんだけど、ねぇ……一日でも大変だもの」
「な、何の話なのよ。聞いてる方が恥ずかしいじゃない」
「アハハ。とにかく、もう大丈夫だから。辛かったわね。まだ幼いのに、優し過ぎるとたくさん傷ついてしまうもの。でも、もう平気。それにあなたの願いは、どっちも叶えてもらえてるはずよ。原初の神々は、お優しいから――」
**
「起きて。サラ。起きないとこのままぁ……いっぱいキスしちゃうわよぉ?」
――耳がこそばゆい……。
「ほらぁ。みみたぶ噛んじゃう~」
「ひゃあっ!」
耳に……舌を入れられた感触と、そしてほんの今、耳を甘噛みして舐められた。
「あーあ、起きちゃった」
ほんとに残念そうね。顔近いままだし。
「もっと普通に起こしてよ。こんなの、へ、ヘンタイじゃない」
「え~? 女同士もいいものよぉ?」
この人、隙あらばキスしようと……赤らめた頬で、ほんの少しだけ口を開けて……魅了されそうなえっちな顔で迫ってくる。
「ぃ、いい、いい。そんなのはいいってば!」
なんとなく、少しくらいならいいかもしれないと思わせる……これも夢魔の魔法かもしれない。
「ちぇ。抵抗されちゃった」
「や、やっぱり魔法かけようとしてたの?」
「だってぇ。さっきは即落ちだったんだもん。ぐっすり眠れたでしょ?」
――あれ?
そういえば確かに……寝てた。ベッドの縁に座ったままで。
「あ。キスされたとき?」
でも、寝心地はとっても気持ちよかった。
……たとえば、目の前の。
たわわな二つの温もりに、頭を挟まれていたような。
「せーかぁい。さすがにその魔力だと、才能もハンパないわねぇ。本気で嫉妬しちゃう」
「むぅぅ。油断ならないわね」
違う……この人も――イザリスさんも私のために……心を砕いて、癒してくれてるんだ。
「まぁまぁ。ほら、魔王様が心配して私をお呼びなされたんだから。元気になった姿を見せてあげなさいな」
「なんか、急にお姉さん……」
「そうよぉ。私の方が、当然おねーさんよね?」
……私に合わせて、いたずらな言葉を選んで元気付けようとしてくれている。
「うん……。その、ありがとう……ございます」
思い返すとなんだか照れてしまって、口調が戻ってしまった。
「も~、せっかく仲良しな感じだったのに、またその感じに戻っちゃうのぉ?」
「う、ううん。ごめん。えーっと、その。何て呼んだらいいかな」
イザリスさんは、なぜかそこで照れながら言うものだから、そのはにかんだ笑顔で一気に、大好きになってしまった。
「リズって呼んでよ。でないと、聞こえないフリしてやるから」
私も、泣き腫らした顔だけど、素直に微笑んで答えた。
「うん、わかった。……リズ、大好き」
「ちょ、それは反則でしょぉ?」
顔を真っ赤にしたリズに、そのあと魔王さまが戻るまで……たわわなそれに顔をむぎゅむぎゅされ続けた。