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真紅に染まった空。月すら昇らぬ永遠の夜。
2人が堕ちた世界には、時間という概念が存在しなかった。
それでも、2人は確かに“生きて”いた。
死んだはずの肉体で、心で、指で、互いを確かめ合いながら。
「良規くん……ねぇ、こっち見て」
『美咲さん……』
彼女の声は、甘く、けれどどこか壊れかけていた。
熱に浮かされたように笑い、涙を流しながらキスをせがむ。
「ねぇ、私が居ないと生きていけないって言ってたよね。ここでも、言って?」
『言うよ……何度でも。美咲さんがいなきゃ、俺は死ぬ……。』
「ううん、違うよ」
美咲は笑いながら、彼の首に両腕を巻きつける。
「“美咲がいなきゃ、死ねもしない”って言って?」
『……美咲さんがいなきゃ、死ねもしない』
「ふふっ、ありがとう」
その笑みは幸福だった。
だが同時に、どこか“狂気”の匂いも孕んでいた。
2人の時間は、愛と憎しみを絡めた“罰”そのもの。
愛している、だから壊したい。
壊しても、捨てられない。
まるで、互いの心臓を握りしめながら生きているような感覚。
ある日、美咲がふと呟いた。
「ねぇ、この世界で、永遠に一緒って……幸せなのかな……。」
『美咲さん……。』
「ねぇ私、ふと思ったの。このまま“永遠”が続いたら、良規くん……いつか、私に飽きたりしない?」
『しないよ……できない……。』
「でも、そう言ってた人たちが、わたしを裏切ってきた。お母さんも、元彼も、職場の人も。“ずっと一緒にいる”って言ったくせに、皆、離れていった。」
美咲の瞳が揺れる。
「良規くんは、どうして違うの?」
『違うんじゃない。……俺は、美咲さんと同じだからこそ、美咲さんの傍にいるんだ。』
「えっ……?」
『俺も誰かに捨てられて、生きる意味を失った。だからこそ、美咲さんを“手放す”なんて発想自体ありえない。』
「……っ、そう、だよね」
ふたりの影が重なる。
抱きしめ合うその姿は、まるで……
共に沈んでいく双子の星だった。
だが、その夜。
ふたりの“永遠”に、綻び(ほころび)が生まれた。
夢の中に、“誰か”が現れたのだ。
それは、白い服を着た小さな女の子。
顔は見えない。
だが、声だけは聞こえた。
–––ねぇ、美咲……本当は気づいてるんでしょ?–––
「……なにを?」
–––この世界が、“本当の死”じゃないこと。2人はまだ、“終わってない”こと……–––
美咲は戸惑う。
「ここが、わたしたちの地獄じゃないの……?」
––– 違うよ。ここはまだ、“境界”なの。愛という名の業を、最後にどう裁くか……それを決める、最後の審判の場所–––
「……そんなの、もうどうでもいいよ。私は、良規くんと一緒なら、それで……」
–––本当にそれでいいの?その愛が、ただの“依存”や“支配”でしかないってわかってるのに?–––
美咲は、目をそらした。
–––ねぇ、美咲。もし、本当に彼を愛しているなら……“終わらせてあげる”のが、本当の愛なんじゃない?–––
「……っ。」
目を覚ますと、良規が隣で静かに眠っていた。
美咲は、そっと彼の頬に触れた。
––––––—-「“終わらせてあげる”……」–––––––––
ふと、涙が一粒こぼれ落ちた。