テラーノベル
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美咲は、その夜ずっと、眠らなかった。良規の寝顔を、何時間も見つめていた。
触れたら壊れてしまいそうな、かつての恋人の顔。
過去も、狂気も、痛みも、すべてを共にしてきた、唯一の存在。
–––「このまま、永遠に2人でいられたら……それが、私の幸せのはずだったのに……」–––
だけど、あの夢の中の“少女の声”が、頭から離れなかった。
–––本当にそれでいいの?その愛が、ただの“依存”や“支配”でしかないってわかってるのに?–––
美咲は自分の指先を見つめた。
かつて、彼を縛った鎖を締めた指。
彼の首を撫で、涙を舐め、そして同時に、逃げ道を閉ざした“罪の指”。
「ねえ、良規くん……」
眠る彼に話しかける。
「もしも、もう一度、生きられるなら。良規くん、私のことを、また好きになる?」
彼は眠ったまま、答えない。
だけど美咲には、分かっていた。
このまま、ここに閉じ込めておくのは、罰だ……。
彼が望んでいたのは「愛」だった。
けれど、今ふたりがしているのは「共依存」だ。
––––––––—-「私が、終わらせる」–––––––––––
闇の中で、美咲は“扉”を見つけた。
奈落の奥、黒い血のような湖の向こうに、一つだけ光る白い扉があった。
まるでそれは、罪を背負った魂にだけ開かれる“出口”。
「良規くん……」
美咲は彼の手を引いて、その扉の前に立った。
『どこに行くんだ……美咲さん……?』
「ねぇ、良規くん。あなた、もう一度だけ生きて……。」
『えっ……?』
「生きて、私のこと忘れて。そして、誰かと普通の恋をして。平凡な朝を迎えて、ちゃんと死んで。そんな“未来”を、あなたにあげたいの……。」
良規は美咲の手を強く握る。
『ふざけんなよ……。そんな未来、要らない!俺は、美咲さんと地獄にいる方が幸せなんだ』
「それは私の我儘を、あなたが受け入れてくれてるだけ。本当の愛って、そうじゃない……よね?」
彼の目に、涙が浮かぶ。
『美咲さん……。』
「愛してる。でも、このまま一緒にいても、あなたを苦しめるだけ。だから、私が“終わらせる”の……。」
美咲は、彼の手に“鍵”を渡した。
「これを持って、行って。扉を開けて、戻って。生き直して。」
『そんなこと……できるわけない……。美咲さんを1人にして……。』
「違うよ。私は、あなたを独りにしないために、ここに残るの。永遠にここで、あなたを愛して待ってる。あなたが生ききって、また死んで、戻ってくるまで……。」
良規は泣き崩れた
『嫌だ……行きたくない……行きたくないよ……泣』
美咲は彼の額に口づけた。
「ありがとう。私を、見つけてくれて」
そして、彼の背中を、そっと押した。
白い扉が開いた……。
まばゆい光が差し込む。
その中に、良規の姿が吸い込まれていく。
最後に見えたのは、涙を流しながらも、微笑む美咲の顔。
そして扉は、静かに閉じた。
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