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19 - 【死後の世界編】第3話 「終わらせる愛」

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19

2025年08月07日

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美咲は、その夜ずっと、眠らなかった。良規の寝顔を、何時間も見つめていた。


触れたら壊れてしまいそうな、かつての恋人の顔。

過去も、狂気も、痛みも、すべてを共にしてきた、唯一の存在。


­­–­­–­­–「このまま、永遠に2人でいられたら……それが、私の幸せのはずだったのに……」­­–­­–­­–


だけど、あの夢の中の“少女の声”が、頭から離れなかった。


­­–­­–­­–本当にそれでいいの?その愛が、ただの“依存”や“支配”でしかないってわかってるのに?­­–­­–­­–


美咲は自分の指先を見つめた。

かつて、彼を縛った鎖を締めた指。

彼の首を撫で、涙を舐め、そして同時に、逃げ道を閉ざした“罪の指”。


「ねえ、良規くん……」

眠る彼に話しかける。

「もしも、もう一度、生きられるなら。良規くん、私のことを、また好きになる?」

彼は眠ったまま、答えない。

だけど美咲には、分かっていた。

このまま、ここに閉じ込めておくのは、罰だ……。


彼が望んでいたのは「愛」だった。

けれど、今ふたりがしているのは「共依存」だ。


­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­­­–­­—-「私が、終わらせる」­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–­­–


闇の中で、美咲は“扉”を見つけた。

奈落の奥、黒い血のような湖の向こうに、一つだけ光る白い扉があった。

まるでそれは、罪を背負った魂にだけ開かれる“出口”。


「良規くん……」

美咲は彼の手を引いて、その扉の前に立った。

『どこに行くんだ……美咲さん……?』

「ねぇ、良規くん。あなた、もう一度だけ生きて……。」

『えっ……?』

「生きて、私のこと忘れて。そして、誰かと普通の恋をして。平凡な朝を迎えて、ちゃんと死んで。そんな“未来”を、あなたにあげたいの……。」


良規は美咲の手を強く握る。

『ふざけんなよ……。そんな未来、要らない!俺は、美咲さんと地獄にいる方が幸せなんだ』

「それは私の我儘を、あなたが受け入れてくれてるだけ。本当の愛って、そうじゃない……よね?」

彼の目に、涙が浮かぶ。

『美咲さん……。』

「愛してる。でも、このまま一緒にいても、あなたを苦しめるだけ。だから、私が“終わらせる”の……。」


美咲は、彼の手に“鍵”を渡した。

「これを持って、行って。扉を開けて、戻って。生き直して。」

『そんなこと……できるわけない……。美咲さんを1人にして……。』

「違うよ。私は、あなたを独りにしないために、ここに残るの。永遠にここで、あなたを愛して待ってる。あなたが生ききって、また死んで、戻ってくるまで……。」

良規は泣き崩れた

『嫌だ……行きたくない……行きたくないよ……泣』

美咲は彼の額に口づけた。

「ありがとう。私を、見つけてくれて」

そして、彼の背中を、そっと押した。


白い扉が開いた……。

まばゆい光が差し込む。

その中に、良規の姿が吸い込まれていく。

最後に見えたのは、涙を流しながらも、微笑む美咲の顔。

そして扉は、静かに閉じた。

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