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レモン
ふわねこカラメル
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真言寺くんの腕が、私の腰に回された瞬間だった。
「佐々森さん……もう大丈夫。僕が全部、守りますから」
その低くて甘い声とともに、彼の胸にギュッと抱きしめられた。広い胸板の温もり、規則正しい心臓の音、ほのかに残る昨夜のワインとイチゴのような甘い香り。羽毛布団の中で、私の体はすっぽりと彼の腕の中に収まっていた。恥ずかしさと安心感が混じり合って、頭がぼうっとする。
「……真言寺くん」
小さく名前を呼んだ瞬間——バンッ!ノックもなしに、ドアが勢いよく開け放たれた。
「はい、はい、はい、はい! 朝の抱擁はそこまで! 離れた離れた!」
明るく甲高い声が部屋中に響き渡る。驚いて私は体をビクッと震わせ、慌てて羽毛布団を胸元まで引き上げて隠した。真言寺くんも一瞬体を硬くし、私を抱きしめていた腕を素早く離した。ドアの前に立っていたのは、黒いキャミソールワンピースを完璧に着こなした、巻き毛の美しい女性だった。肩まで流れる艶やかな黒髪に、赤い唇が印象的。スタイル抜群で、歩くだけで華やかなオーラを振りまいている。
「あの方は……?」
私が掠れた声で聞くと、真言寺くんはため息混じりに答えた。
「……僕の姉です」
「お姉さん……」
私は布団の中で小さく縮こまった。女性——真言寺美穂さんは、にこやかに手を振りながら部屋に入ってきた。片手には、綺麗にクリーニングされた私の昨夜のワンピースと下着が、丁寧に畳まれてかけられている。
「子猫ちゃん、おはよう! 狼くんに食べられなくて良かったわ〜!」
彼女は明るく笑いながら、ベッドの横まで近づいてきた。長い巻き毛を軽く揺らし、いたずらっぽい目で私と真言寺くんを交互に見つめる。
「美穂よ、よろしくね。弟が世話になったみたいでごめんなさい。昨夜は相当酔ってたみたいね。苦しそうだったから、勝手に着替えさせちゃった」
私は顔が真っ赤になるのを感じながら、必死で布団を握りしめた。
「え……あ……おはようございます……あの、すみません……」
真言寺くんはベッドの上で上半身を起こし、姉に向かって少し苛立ったような声を出す。
「姉さん、ノックくらいしてよ……。タイミング悪すぎる」
「タイミング? あはは! 弟くんが朝から子猫ちゃんをギュッギュッしてるの見たら、放っておけないでしょ?ほら、服。綺麗にクリーニング済みよ。シャワーも浴びておいで。朝ごはん、もう準備できてるから」
美穂さんは私の服をベッドの端にそっと置き、ウィンクを一つ飛ばした。
「子猫ちゃん、かわいいわね。地味めって聞いてたけど、こうして見るとすごく愛らしいじゃない。真言寺の血筋の男が本気で落とそうとしてるんだから、覚悟しなさいよ?」
「姉さん!」
真言寺くんが珍しく声を荒げて制止する。
耳まで赤くなっているのが、なんだか新鮮だった。私は布団の中で小さくなって、「ありがとうございます……」とだけかろうじて絞り出した。美穂さんは満足そうに笑い、ドアの方へ踵を返しながら最後に一言。
「ゆっくりでいいからね〜。でも朝ごはんは冷めないうちに食べに来て!今日はフルーツたっぷりのフレンチトーストよ。イチゴ多めで準備したから、弟の好みに合わせておいたわ」
ドアが閉まる直前、彼女は振り返って小さく手を振った。
「じゃあね、子猫ちゃん。これからよろしくね〜」
バタン、とドアが閉まった後、部屋に静けさが戻った。私はまだ布団を胸に抱えたまま、隣の真言寺くんをチラッと見た。
「……お姉さん、すごい人……」
真言寺くんは深くため息をつき、私の頭を優しく撫でながら、照れくさそうに微笑んだ。
「ごめん……姉さん、いつもあんな感じなんだ。でも、悪い人じゃないよ。ただ、弟の彼女候補を見ると嬉しくて、つい……」
「彼女……候補……?」
その言葉に、また顔が熱くなった。彼は私の手を布団の上からそっと握り、甘く囁いた。
「うん。僕の本気、ちゃんと伝わってるよね?」
朝の陽光が降り注ぐ豪華なベッドの中で、私は恥ずかしさと甘いざわめきで胸がいっぱいになった。真言寺家の朝は、予想以上に賑やかで——そして、甘く、危険な予感に満ちていた。