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黒星
21
#シリアス
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その安心が、最大の致命傷だった。
間近に迫った彼女の唇が、冷酷な弧を描いて動く。
「さっさと死んで」
──パンッ、と乾いた衝撃が世界を揺るがした。
瞬間、腹部に焼け付くような熱い衝撃が走った。
遅れてやってきた凄まじい痛みが
波となって全身の神経を突き抜け、視界が一瞬で鮮血の赤に染まる。
「あ…あぁ……」
見下ろすと、彼女の手にあるナイフが俺の腹部に深く突き刺さっていた。
引き抜かれた刃の隙間から、ドクドクと赤黒い血が溢れ出す。
冷たいタイルの床に滴り落ちる液体の音が、耳元で異様なほど鮮明に響いていた。
言葉にならない声が喉の奥で泡立って消える。
膝の力が完全に抜け、立っていることさえできなくなった。
体がバランスを崩し、ゆっくりと後ろへ倒れ込んでいく。
視界が回転し、ビルの隙間からのぞく星のない夜空が遠ざかっていく。
(嘘だろ、俺…ここで、死ぬのかよ……)
薄れゆく意識の淵でそう呟いた時には、もう何もかもが遅すぎた。
視界は急速に暗転し、深い闇へと落ちていった───
◆◇◆◇
それからどれほどの時間が経ったのだろうか。
次に目を開けたとき
俺の目に飛び込んできたのは、眩い蛍光灯の光と、見慣れた先輩ホストの悲痛に歪む顔だった。
「はぁ…はぁ……っ!俺、刺されたんじゃ…っ!?」
咄嗟に胸元や腹部を押さえる。
手のひらには、まだあの肉を切り裂かれた生々しい痛みの残像がへばりついているような気がして
全身から冷や汗が吹き出した。
衣服の上から触る肌には、厳重に巻かれた包帯の感触がある。
「……それなら、すぐに店の手配した医者に対応してもらったおかげで、なんとか一命は取り留めたよ」
ベッドの傍らにパイプ椅子を置いて座っていた先輩が、深くため息をつきながら言った。
「せ、先輩…俺、マジで……死んだかと……」
「はあ……だから言ったでしょ?本営かけすぎて、女の子に恨まれても知らないよって」
先輩の呆れたような、だが底冷えするような声が室内に響く。
俺は痛む腹部を庇いながら、弱々しく言い返した。
「だってナンバー入りするにはこれしかないじゃんか…!綺麗事じゃ売れないし……」
「だからって、客の恨み買うようなこと続けて殺されたら元も子もないでしょ」
先輩の言葉は冗談のようでいて、その実
取り返しのつかない過去を背負った男特有の、重く深刻な響きを孕んでいた。
彼は立ち上がり、部屋の窓辺へと歩み寄る。
「ホストってのはさ、レム睡眠の世界なんだよ。客も俺らも、みんな夢を見て|此処《ホストクラブ》に来てる」
先輩は、夜の街を見下ろしながら静かに言葉を紡ぐ。
「金さえ払えば男に愛される夢、誰かの特別になれる夢、孤独な寂しさが埋まる夢」
「そして俺らは、その都合のいい夢をパッケージにして売って飯を食ってる。夢である以上、いつかは覚める。だけど、覚めさせ方を間違えちゃいけないんだ」
「……」
「それでも現実は非情だよ。俺がまだ新人のころ、当時のエースだった先輩ホストが、目の前で客に刺されたこともあったんだ」