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黒星
21
#シリアス
「そ、その人は……今もどこかでホストを?」
かすれた声で問いかける。
先輩は振り返らず、ただ静かに首を横に振った。
「いや、亡くなったよ。病院に運ばれる前にね」
「…っ」
心臓が冷たくなる。
一歩間違えれば、俺も今頃あっち側だった。
「だから、晃には同じ道を歩んで欲しくない」
「同じ道…」
「そりゃ、晃の言う通り綺麗事で食って行けるほど楽じゃない。多少の色恋や、店に来てもらうためのお願いはホストの技術として必要だ」
「なら……!」
「でも、夢を提供するプロとして、客の扱い方は根本から見直すべきだ。死んだら何も無いんだから」
窓の外のネオンを見つめる先輩の横顔は、どこか遠い過去を追っているようだった。
その瞳には、夜の街が放つ華やかな光と、すべてを飲み込む深い闇が同時に同居していた。
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4年前 ────【2022年 4月】
あれから3年、俺は生き方を変えた。
いや、ホストとしての『魅せ方』を変えた。
「はあ~~~~~マジ人生楽勝!!!」
きらびやかなスーツを脱ぎ捨て
ホストクラブの更衣室の椅子に深く腰掛けながら、俺はわざとらしいほど大きなため息を漏らした。
すると、すぐ隣から声が掛かる。
「ははっ、今日もデッカい高級タワーさせてもらってたもんねー。景気のいいことで」
他のメンバーが営業終了後のミーティングへ向かい、ガランとした室内。
俺と同様に、未だにダラダラと着替えを引っ張っている男が
からかうような、それでいてどこか穏やかなトーンで話しかけてきた。
「そりゃ600万のタワー入れてもらったんだからな!ラスソンもばっちり歌い上げたし、最ッ高の気分!」
ドヤ顔で胸を張る俺に、「さすが絶対王者のNo.1だねぇ」と
彼はまるで赤子でもあやすかのような柔らかな笑顔で相槌を打つ。
「言うてお前だって、今日350万のタワー入れてもらってたじゃん。最終的な売り上げ、472万だろ?」
「まあね。相変わらず、僕は永遠の2番手で収まってるよ」
〝永遠の2番手〟なんて
これっぽっちも悔しそうにない謙遜をして、涼しい顔で高級時計を腕に巻いているこの男。
このホストクラブ【Cherish(チェリッシュ)】で働く男
源氏名「獅子王ツバサ」こと、渡部颯太(30歳)
端正な顔立ちに大人の余裕をにじませる、この店の不動のNo.2だ。
そして!何を隠そうこの俺こそが!
この歌舞伎町の覇者、店を牽引する絶対的No.1ホスト──「夜神コウ」!!!
……本名は、田中晃(27歳)。
3年前、客に刺されて生死の境を彷徨ってから
俺は『本営連発のメンヘラ製造機スタイル』を完全に捨てた。
客に適度な夢を見せつつも
決して現実を狂わせない「擬似恋愛のプロ」として接客をアップデートしたのだ。
その結果、No.4で燻っていた俺は瞬く間にNo.1まで駆け上がり、今や店のカリスマとして君臨している。
死の淵から這い上がった俺のホスト人生は、まさに黄金期を迎えていた。
しかし──
この時の俺はまだ、気づいていなかった。
華々しく輝くネオンの裏側で、ホストとしての俺の寿命が
音も立てずに静かに、確実に近づいてきていることに。
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