「最後は、皆さんお待ちかねの森兄弟!」
史記が拍手するふりをしながら静かに宣言した。ほぼ全員の寝起きドッキリを終え、撮れ高も十分。最後に残るのは、毎回何かしら起きる森兄弟の部屋だった。
「音立てないようにしろよ!ふみや」
「なんで俺だけ?!」
「しゅーとが起き上がるまで何分かかるか賭けようぜ」
「起き上がらないまま動画終わるんじゃないの笑」
そんな会話を交わしながら、メンバーは森兄弟の部屋の前に立った。
全員が期待を胸に、慎重にドアノブを回した。
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部屋のドアを開けると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
「ん…甘い匂い?」
たくやが鼻をひくつかせると、ケビンがすぐに答える。
「もーりーの香水じゃない?」
「部屋きったな…」
「何したら1日でこんな散らかせるんだよ」
勇馬がいつもの調子で鼻で笑った。
部屋に進むと並んだ2つのベッド。片方には膨らみがあるが、もう片方には誰もいない。
「え?またいない?」
「どっちがいないんだこれ」
先程のわちゃわちゃした空気は一変し、困惑の色に染まる。
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「まぁ、ひとまずこっちいこう」
膨らみのあるベッドを指さし、リーダーがドッキリ続行を指示した。
「準備いい?俺が布団を捲るから、タイミング合わせて『大成功!』って言ってね!」
全員が小さく頷き、史記がそっと布団の端を掴む。
「3、2、1…大成こ……」
勢いよく布団を捲ると――。
「えっ」
全員が固まった。
目の前には、無防備に眠るもーりー。その腕の中に、すっぽりと収まっている愁斗がいた。
「いやいやいや、何これ!」
最初に声を上げたのは楓弥。驚きでいつにも増して声のボリュームが上がる。
「もりぴ!?なんでしゅーと抱きしめてんの!?」
史記が2人を揺すると、寝ぼけ眼のもーりーがまだ状況が飲み込めていない様子で、ぼんやりと目をこする。
「……ん?ああ、昨日怖い夢みて…」
「いやいやいや、だからって!」
史記がすぐにツッコミを入れるが、もーりーは気にする素振りもなく、欠伸を一つ。
「なんだよ、普通だよ。兄弟だし」
さらりと流され、メンバーはさらに困惑した。
____
一方、愁斗はというと、兄の腕の中で身を小さく丸めたまま、周り騒がしさに眉をひそめるだけ。起きるどころか、さらに布団を探るように動いて兄の胸元へ顔を埋め直していた。
「しゅーとくん、完全に甘えモードじゃん…」
楓弥がぽつりと呟くと、ケビンが何かを悟ったように話す。
「いや、甘えてるっていうか…………これ、流石に出せないね」
「出す出さない以前に、撮ってていいのかも怪しいけど」
史記も何かを悟ったようだった。
「しゅーと、起きろよ~」
そんな周囲の視線にも動じず、兄は寝ぼけ眼のまま弟を揺すり始めた。
「ほら、みんな来てるぞ。」
「ん…」
完全に兄の声だけを聞き取ったらしい愁斗が、ようやく僅かに目を開ける。
「……何?うるさい…」
「何じゃないよ、みんな来てるって。起きて、ほら」
起きるどころか、愁斗はさらに兄の胸に顔を埋め直しながら、不機嫌そうに小さく唸った。
「むり…」
そのやり取りにメンバー全員が目を見合わせ、どうリアクションすべきか分からなくなる。
「これ…見てていいやつ?」
聖哉が小声で言うと、ケビンが呆れたように笑った。
「まぁ、仲良いのは知ってたけどねぇ」
「もりぴ、これマジでどういう状況?」
「だから、別に何も無いって。昨日、怖い夢みて眠れなくなったから愁斗抱き枕にして寝ただけ」
「いや、普通兄弟で一緒に寝る?」
「寝るだろ」
もーりーがきっぱりと言い切ってしまったら、もう口出しする者は居なかった。
まだ寝ぼけたままの愁斗は、ようやく兄の腕から顔を少しだけ持ち上げた。メンバーたちに気付いたのか、わずかに目を開けたままぼんやりと周囲を見回す。
「あ…なんでみんないるの…?」
「しゅーと、ドッキリだよ。寝起きドッキリ!」
史記がカメラを指差しながら言うと、愁斗は「あっ、おはようございます」と小さく声を漏らす。
しかし次の瞬間には、再び兄の胸に倒れ込んでいた。
「お前、寝るなよ!」
勇馬が笑いながら突っ込むが、愁斗は完全に聞こえていない様子だった。
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結局、このシーンはお蔵入りになることが決まった。
メンバー達はそっと部屋を出ると、 やれやれと欠伸をしながらもうひと眠りしようと各々の部屋に散っていった。
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