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「…寒い」
血吸蝶の調査をしに、遠い海辺までやって来た。冷たい潮風が俺の体温を奪っていく。
「まさか海藻に足を取られて海に倒れるとは思いもしなかった。運動不足、いや…普通に足元を注意していなかったせいか」
低体温症に気をつけながら駅まで歩いて行く。国のお偉いさんは随分ケチな野郎らしい。奴らの命令で俺は血吸蝶の飛び交う危険な外の調査に行ってやっていると言うのに、馬の一匹も貸してくれない。
脳内で愚痴りながら歩いていると、青い花畑が見えた。
「あぁ、こんなとこにも咲いているのか」
美しく小さな花、青火草。
名前の通り、火をつけると青く燃える花。確か、昔の友人のカルトが好きだった花だ。
カルト・ロナウド。彼は一つのものに執着する俺と違って、様々な生き物を愛した研究家だ。カルトは海の向こうの生き物を研究しに遠出すると言い、それから会っていない。
もしかしたら、とっくの昔に家に帰り、今は娘と一緒に血吸蝶に怯えているかもしれない。だとしたら滑稽だ、ぜひその姿を拝んでやりたい。
彼にもう一度会えるのなら、是非研究を手伝って欲しい。俺は命令されるのが苦手なので、早く国の奴らから開放されて引きこもり生活に戻りたいのだ。
花畑を通り過ぎ、早足で駅に向かう。さっさと帰って暖を取りたい。
駅につき数分後、電車が止まった。乗車し辺りを軽く見渡すが誰も乗っていない。当たり前だ、外は死体と蝶しかいない。
電車に揺られながら外の景色を見つめる。国に帰ったら調査書を書く前に、カルト・ロナウドを探そう。