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傘より先に、君を守りたかった
あと
「よし……行くか、打ち上げ」
保健室を出て、2人並んで廊下を歩く。
あっと先輩は、やっぱり寝てたのかな、
私の告白に何も触れてこなかった。
私も何も言えなかった。
でも、並んで歩くこの距離がーー
少しだけ心地よく感じてしまったのは、
気のせいじゃない。
『……あ』
校舎を出ると、雨の音が響いてた。
夕立だった。
ぽつぽつ、じゃない。
ごうごう、と叩きつけるような本降り。
あと
「うわ、傘……持ってないよね?」
先輩が空を見上げる。
私も、制服の袖に落ちてきた雨粒を見て、
小さくため息をついた。
『走りますか……?』
あと
「いや、それはちょっと待ってーー」
先輩が急に言葉を切る。
私が彼を見ると、その視線はーー
私の制服の、胸元あたりに落ちていた。
『……、!!』
あと
「……はい」
あっと先輩が、
自分のジャケットを脱いで、
私の肩にそっとかけてきた。
あと
「……見てない、から」
彼のその言葉が、本当に優しくて、
本当に苦しかった。
『ありがと……ございます……』
私はうつむいたまま、
彼の上着に袖を通す。
少し大きめのサイズ、
肩に残る体温、
微かにシャンプーの匂いがするようでーー
『(ダメ…このままじゃ…) 』
『…好き、』
呟いた言葉が、
雨音にかき消されていく。
あと
「よし、行こ」
先輩が、傘もないまま先に走り出す。
その背中を追いかけながら、私は思った。
”たった1枚のジャケット”なのに。
その温かさで、
心まで溶けてしまいそうになるんだ