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12 - 番外編 貴時の結婚②

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2025年07月08日

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半年間の婚約期間を経て、貴時といとは婚姻を結んだ。

婚礼の儀、宴は無事滞りなく終わり、夜になった。

貴時は湯浴みを終え、夫婦の寝室でいとを待っていた。

すぐにいとは来た。

入室の許可を出すと、襖が開かれ、彼女の姿が露わになった。

前髪は眉の下で切り揃えられ、他の髪は胸の下まであり、貴時と同じように襦袢だけを身にまとっていた。

顔合わせや婚礼の儀や宴の時のまとめ髪も愛らしく美しかったが、前髪がある下ろした姿も可憐だ。

貴時が来いと言うと、彼女は部屋に入り、襖を閉め、貴時の前に来て正座をした。

……抱きしめたい。

貴時の中でその欲望が膨らみ、貴時はいとの手首を握り、自分の胡座の上に横に座らせた。

彼女は華奢で、やわらかかった。

気づけばいとの身体に手を添え、彼女を抱きしめていた。

予想外だったのか、いとは目を白黒させた。

「え?……え?」

戸惑う姿も愛らしい。

今作った口実を口にしてみると、彼女は首を傾げながらも相槌を打った。

名を呼んでみると、飴玉を転がしているように口の中が甘く感じた。

彼女は僅かに目を見開き、またあの笑みを浮かべて貴時を見上げる。

名で呼ばれたくていとにそう指示すると、彼女は何も聞かずに頷いてくれた。

貴時は我慢できなくなっていとに口づけた。

小さくやわらかい唇をこじ開け、少し舌を入れれば、彼女の顔はすぐにとろけた。

下がった眉尻、潤んだ丸目の瞳、赤らんだ滑らかな頬。半開きになった唇からは浅い息が漏れている。

……かわいい。

貴時はそのままいとを布団に横たわらせた。


後処理が終わり、貴時は気を失うように眠ったいとの隣で横になる。

くっきりと残る涙の跡が痛々しい。

いとは裸体まで美しかった。

全て真っ白で、純粋に綺麗だと思ったのはもちろんだが、最近暴力を受けた跡がないことに貴時は安堵した。

だが、痩せ過ぎではあった。

元々少食か、それとも虐待か。

どんな理由なのかはわからないが、とりあえず彼女が話してくれるのを待とうと思った。

二つの乳房は大きくも小さくもなく、手で包めるくらいのちょうどいい大きさだった。

頂きの薄紅と肌の白がよく映えていた。

秘所は桃色に色づき、愛撫をするとすぐにぐっしょりと濡れた。

彼女が感じてくれたことに安堵し、彼女を貫いた。

この世のものとは思えぬ快楽が貴時に押し寄せた。

だが、いとの涙と破瓜の血が貴時の脳裏に焼きついて離れない。

胸が苦しくなる。

貴時はせめてなるべく優しくしようと思った。

乱れるいとの姿があまりにもかわいくて後半は行為に夢中になってしまったが。

妖艶ながらもあどけないいとの姿は貴時を煽りに煽った。

初夜は彼女の最悪の記憶になってしまっただろうと思う。

家族や周りの人々から虐められ、好きでもない男と結婚させられ、その男に無理矢理花を散らされる。

つくづく不憫な新妻だ。

貴時はぼんやりといとの美貌を眺めていたが、気づくと夜が明けていた。

本当は彼女が目覚めるまで一緒にいたかったが、どうしてもやらねばいけない仕事があるので行かなければならない。

貴時は名残惜しみながらいとの黒髪を一房持ち上げ、そっと口づけた。

そして静かに寝室を離れた。



結婚してから一ヶ月半。

貴時は湯浴みを終え、縁側で光る望月を見ていたいとに声をかける。

「いと」

彼女は貴時の方を向き、微笑んだ。

「貴時様」

ふたりで出かけてから、いとは少しずつ本当の笑みを見せてくれるようになった。

ふたりで出かけた時、あの場でいとが泣いてしまったのは驚いたが、彼女が、自身の奥にある弱さを見せてくれて嬉しかった。

僅かでも自分と打ち解けようとしてくれているのだろうか、と貴時は安心した。

貴時はいとの隣に座る。

と、いとの表情がどこか悲しさを帯びていることに気づいた。

「……どうかしたか?」

思わず聞いてしまった。

彼女は目を見張り、笑って月を見上げる。

「……少し、昔のことを思い出してしまいました」

今度は貴時が目を見開く。

「昔のこと?」

思わず聞き返してしまった。

いとは貴時の方を向いて笑みを深める。

「……気になりますか?」

貴時は思わず頷いた。

するといとは再び月を見上げ、ぽつりぽつりと静かにこぼしだした。

「……私に、兄がいることはご存じですか?」

「ああ、知っている」

貴保から聞かされていたのだ。

「跡継ぎは長男である兄で確定していたのですが、兄が生まれてからしばらく経った時、彼が何かしらの理由で継げなくなった時のためにもう一人男児を作っておきたいと父が言い出したらしく」

貴時は黙って耳を傾ける。

「その結果生まれたのが私です。父は失望して、もう子供を作る気がなくなってしまったようで」

いとはゆっくりと貴時の方を向いた。

その顔には、貴時の苦手なあの笑みが浮かべられていた。

「私は望まれて生まれた子ではないのです。母は腹を痛めて産んでくれましたが、私のこの命は無駄なものなのです」

貴時ははっとした。

胸が鷲掴みにされたように苦しくなる。

そうか。そういうことだったのか。

いとのこの人形のような笑みは、悲しみを隠すための仮面なのだ。

自分を守るための盾なのだ。

どうして腹立たしく思ってしまったのだろう。

貴時の中で後悔と申し訳なさが猛烈にこみ上げてくる。

貴時はいとの目をまっすぐ見つめた。

「無理をするな、いと」

いとは目を見開いた。

「泣きたくなったら泣け。俺が傍にいるから。あと、お前は勘違いをしている」

いとの目がさらに見開かれ、潤んでいく。

貴時は必死に訴える。

「お前は幸せになるために生まれてきたんだ、いと。無駄なんかではない。無駄なものか」

いとの目からたくさんの雫が流れる。

貴時はいとの手をきつく握った。

「……頼むから、もっと自分を大切にしてくれ」

貴時はずっと思っていたことを吐いた。

貴時の切実な願いだった。

いとはあまりにも自分を下に見、雑に扱っているのだ。

貴時はいとを引き寄せ、彼女を抱きしめる。

いとの身体は震えていた。

貴時はいとの頭を優しく撫でる。

貴時の胸が濡れていく。

静かな月夜に、いとのすすり泣きだけがあった。

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