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報告する






























―――報告、◯月☓日。


先日依頼を請けた☓☓会社の第四、五部署の社員全壱百壱拾弐名が殺害された。


原因は、 ポートマフィアとの対立に或ると見られる。


其の証拠として、現場がポートマフィアに拠るものと思われる惨状で或った事が挙げられる。


此れに拠り☓☓会社の景気は大きく傾き、倒産の危機に陥った。


此れを受け☓☓会社社長は直々に犯人の特定を探偵社に依頼した。


我々は今から一刻も疾い特定、発見を目指す。


以上。―――







































血生臭い、然し、高揚の残り香が漂う黒い外套。

私は其れを着た儘首領の下へ報告に向かった。


ノックをして、入室の許可が降りると、私は静かに重々しくその扉を開けた。


其処には、森さんと中也の二人が居た。

全く二人共、そんなに判りやすく動揺しちゃって。

ふふ。

森さんの怪訝そうな顔も、中也の歓びを潜めた其の瞳の奥も、うん、凄く気に入った。


報告は簡潔に済ませた。

此の直ぐ後に幹部会が有るから。

幹部任命と私のスピーチと云う中々に負担の重い任務。

何故今回に限ってこんな会が開かれるのだろう。

まぁでも私は其処で、今日に至る迄の心境の変化と先刻手に入れた悦楽について長々と熱く語る心算だから。

………

…流石に着替えてから向かおう。







忘れてた。

今集まれる幹部はあと姐さんだけなのだった。

此れではまるで家族会議では無いか。其れも極小規模な。

全くすっからかんな部屋だ、迚も式を行う部屋とは思い難い。

姐さん、頼みますから其の小児のお遊戯でも観るかの様な目で迎え入れないで下さい。


「太宰君、此方に来なさい。」


渋々部屋の前方に進む。


「では、之より幹部任命式を行う。」



「本日を以って、我がポートマフィアの太宰治を其の幹部として 」


「私、森鷗外の名の下に認める。」


「此れからも我が組織への大いなる貢献を期待して居るよ。」


そうして手渡されたのは、胴程の高さに横積みされた書類と資料。

普通は賞状だとか、そう云った類の物が渡される筈だろうと突っ込みたかったのであろう中也がむせた。


「其れじゃあ此処で、太宰君に記念としてスピーチをしてもらうよ!」


「皆さんお静かにお聴き下さいね。」


嬉々としてたった二名の聴衆に向かって喋った。



あー、そう云う事。

森さんは私に之をさせたかったのだ。

スピーチ。

此れで私の組織や森さんに対する忠誠心やら何やらを色々と探る事が出来る訳ね。

解って無いなぁ、私はもう首領の座だとかそう云うものには何等興味なんて無い。

第一、私は貴方程合理性に長けた者では無い。

仕方無いから、教えてあげる。









「私は昔、大切な友人を持ちました。」


「彼は息絶える寸前で、私に云いました。」


「人を救う側の人間に成れと。」


「私は今更其れを思い出して、悩みました。」


「救いとは何か。」


「私が辿るべき道とは何か。」


「彼の言葉が意味した事とは何か。」


「其の結論を今日、私は見つけ出しました。」


「私にとって、死は最高の救いです。」


「そして、私の救いを他人にも分け与える事、」


「此れが彼の言葉に示された道中で見つけた、」


「人を救うと云う行為です。」


「此れを識った私は先程、実際に救いをやってのけました。」


「其の感触は余りにも素晴らしいものでした。」


「高揚、愉悦、快楽、そして溢れる幸福感。」


「甘美な死の薫りに心は息を吹き返し、」


「本能が満たされていく感覚に、生の意味を識りました。」


「其れに、友人との大切な約束を此の手で果たす事が出来て…」


「迚も、幸せです。」





此の言葉に、私の心はこもっていたのか。


満たされた本能と肉体が勝手に連ねた言葉なのでは無かったのか。


然し、私には知る余地も無い。


私が覚えている『幸せ』の時間は、たった一つだけ。


其れも最早、生に従順な本能によって掻き消えていった。






「私は森さんに感謝しています。」


「此の完璧な秩序を保った世界の中で、」


「私に居場所を提供してくれる。」


「森さんこそ秩序の支配者に相応しい。」


「私は其の安定した居場所の中で人を救い続けていける事が、 」


「最も幸せな事です。」


「ですから、此れからも宜しくお願いします。」


「森首領。」



先程迄の鋭い眼つきは何処へ行ったのやら。

疑いが晴れたのか、すっかり腑抜けた顔の中年男性に戻り、わあわあと泣いていた。



「其れから、最後になりましたが、」


「従来幹部を務めていらしたお二人にも謝辞を述べさせて頂きます。」


「私が一度離脱した後も組織を護り続けて下さり有難う御座いました。」


「お蔭様で、私はこうして戻る事が出来ました。」


私は姐さんに対して話しているので、屹度中也には煽り口調にも聴こえるだろう。

…って、思ったよりも反応が無い。

寝ている訳では無さそうだけれども。

まぁ、君には後で直々に云いたい事もあるし、其の時に思う存分揶揄ってやるとしよう。


「以上で私のスピーチを締めさせて頂きます。」


「ご清聴、どうも有難う御座いました。」



すると突然、此の場に居る聴衆の数に見合わない盛大な拍手が部屋に響いた。


「うおッ!何だ!?」


中也と私は動揺して居たけれど、歳上二人は何事かを把握している様に微笑んで居た。


いきなり、扉が開いて何処かの構成員が大量に流れ込んで来た。



「素晴らしいです!!太宰幹部!!」

「私感動して涙致しました!!!」

「おい莫迦失礼だぞ近づき過ぎるな!」

「ハッ!申し訳有りません!!」


「森さん、此れ、若しかして、」


「ふふ、気に入って呉れたかい?」


「あ……」


「全員、今日から君の部下と成った構成員だ。」



嗚呼。

私を解って呉れる人間が、こんなに沢山。

私を認めて呉れる人間が、こんなに大勢。

如何しよう。

凄く、

嬉しい。





嬉しい、








嬉しい…?










何か。


何かが違う。


そんな気がした。


あの『幸せ』の記憶の中に見た嬉しさと。
















…あれ、











あの『幸せ』、って、














何の記憶だったっけ…。
















































行って仕舞った。


太宰はもう、完全に向こう側へ渡って仕舞った。


太宰の意識は果たして、未だ残っているのだろうか。


本能に呑まれては駄目だ、太宰。


頼むから、今迄其れに打ち勝って来た『信念』を失わないで呉れ。


僕達との時間も、其の昔の彼等との記憶も、


此の儘では水の泡と消えて仕舞うよ。


何とかして、防げないのか。


…………


………


……。


はは、僕の力もこんなものか。





…事実は、何時だって無情だ。










「乱歩さん?」


「如何したの。」


「わっ、如何したんですか!大丈夫ですか!?」


「え…?」



椅子に身を屈めてうずくまっていた僕の袖は濡れていて、

敦君に見せられた鏡に映った僕は本当に酷い顔をしていた。





「?其の報告書って何ですか?」


僕の机の上に、唯一つ置かれた薄っぺらな紙。


然し乍ら其の紙が示す未来は、相反して重い。


其れでも、もう。


僕は覚悟を決める。




「皆、一緒に来て呉れるよね。」




「太宰を救けに。」
















































あの後、結局首領が其の場を収めて解散した。


日は暮れた。


今度は俺が太宰の執務室に引っ張られた。



「何だよ、手前の話は先刻十分聴いたんだが?」



「あはは、まあ聴いてよ。 」



「君にしか云えない事だ。」



少し気分が上がっている様子だ。






「実は。」








「私さ、もう直、消えるのだよね。」









「…はっ、何を根拠に。」

「抑々何時も死のうとしてンだろ、自殺嗜好家。」






「ふふふっ、違う違う!」




「死ぬんじゃ無い。」




「消えるんだよ!消滅さ!」




「私の意志は、もう既に消えて無くなろうとしている。」




「本能が私を貪っているのだよ。」










「ねぇ、中也!」




嫌な予感に背筋が寒くなる。




「君に、素晴らしい権限を与えよう!」





「私が私で在る内に…」






「罪の記憶が消える前に…!」






「『幸せ』を失う前に…!!」








「私の事を、殺して呉れ…」







そう云うと此奴は、俺の手にナイフを握らせて自分の首に当てさせる。

だが其の顔は何時もの恍惚とした表情では無かった。




「ほらほら、疾く、疾くして!!」





止めろ、手前らしく無ぇぞ。

如何してそんな顔をするんだよ。

何だって其処迄して記憶を護ろうとするんだよ。

手前は只今を生きたら其れで良いんだ。

本能に身を任せて、堕ちる処まで堕ちて仕舞えば良い。



俺はナイフを吹っ飛ばして云った。




「なぁ、」


「結局如何生きたって、手前は手前だ。」


「本能だって、手前自身だ。」



「止めて!!」



「如何して抗おうとする?」


「手前の意志は、本能が識っている筈だ。」



「止めて!!厭だ厭だ!!!」



「解るだろ?」





太宰は眼を見開いて此方を見る。

震えて、微かな灯火が宿る其の眼を。





「手前は、如何したい?」


「何がしたい?」




「ぁ………」











揺れる、揺れる、微かな光。












光は、其の身を堕とし、















暗い琥珀の瞳に溶けていった。





































































――――――

投稿、遅くなってしまってすみません!

最近の気分は飼い慣らしづらいもので…

あんまり今回は満足出来ないものになってしまいました…

私を殺せって言われたのに出来なくて震える中也の姿も見たかったけど…今シリーズの中也は何とも気のお強い事で、悪者になっちゃいましたね。すみません。

応援して下さる方々が僕を生かしてます。大感謝です!!次も頑張るので、ハートとかコメントとか、ちょっとだけ分けて下さい(乞食)


消えた心の芯を求めて

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