××駅付近に着く。夕方頃で人はまばら。僕はオレンジという目立つ色の服のため人目を避け足早に歩く。そして、青いネオンにホテル・JAPANと書かれた茶色い壁の建物が見えた。おそらくそれが女性の言っていたホテルだろう。僕はそのホテルのエントランスロビーへ足を踏み入れる。エントランスロビーは白を基調とし、壁一面がピカピカと光っている。その壁へ近づくと僕の姿がうっすらと見える。オレンジ色の大幅を着、黒色のブーツを履いた黒髪短髪の男だ。前に僕の姿を見たときより老けているような気がすると思うがすぐにその場を離れ、中央にある無人チェックインを済ませエレベーターへ乗り込む。チーン。エレベーターの扉の右上の数字が5になり僕は降りた。ホテル内はシーンとしていた。きっとこれから増えるのだろう。僕はそう思い自分の部屋の鍵を開け中へ入る。その瞬間一気に緊張が解け、腰が抜ける。数分後、僕は服を買いに外へ出た。やはりオレンジ色の服は目立つ。沢山の人の目線の先は僕だ。写真を撮られたりもした。僕は足早にホテル近くにあった「ティルズ」という洋服屋の中へ入った。適当に白色のTシャツと青緑の襟付き長袖シャツ。藍色のジーンズを買い、その場で着替えた。これで、人目をひくことはなくなる。そう安心したのもつかの間。僕のスマホからブーブーという電話が鳴った。
「はぁ〜署長だ。」
僕は電話に出ないわけにもいかないためスマホを耳に当てる。すると、署長からの怒りの声が聞こえた。
「津島あ!!!何をやっている!杉島から聞いた。」
「僕、辞めます。それじゃまた今度。」
僕はそう一言残し電話を切った。消防士を辞める。それは本気だった。僕は今年で30歳。実家はとある会社の社長で一人息子の僕に跡を継がせようとしている。なんならそのために最初の高校へ入った。だが途中でその高校は辞め、消防士を目指した。そんなことはさておき、僕は試着室を出て店を出てあのホテルへ戻った。一晩を越し、チェックアウトする。僕の手には昨日着ていた隊服、防火服を持っていた。そしてもう一つ。茶色く細長く、辞職届とかかれた封筒を持っていた。駅へ向かい、改札を通る。そして、僕の目の前にはシルバーを基調とし、車体の下のほうに緑のラインがひかれている電車が停まっていた。僕はすぐに乗り込む。つり革を掴み、電車に揺られながら僕は思う。このあとどうすればいいのか。どう生活するか。そんなことを考えていると目的の駅へ着いた。駅のホームを超え外へ出る。その瞬間、清々しい風が僕を迎え入れた。これで第一の人生が終わる。僕の足は消防署へ向かっていた。そして、コンクリートで作られた消防署が見える。消防署の車庫にある赤い消防車達は僕が来たのを歓迎しているようだった。そして、署内へ入る。そのまま僕は所長室へ入る。
「失礼します。津島です」
そう僕がドアの前で口を開くと中からドスのきかせた低い声がした。
ガチャと扉を開ける。僕の目の前には署長がデスクにある椅子に座っていた。
「用は何だ?津島」
署長は体を右に向け、僕の方には向けない。
「これです。僕はこれから休んでその日を待ちます。」
署長のデスクに茶色い辞職届とかかれた細長い封筒を置く。すると、右を向いていた体を前に向け、黒いデスクの上に置かれた封筒に目を向ける。そして、口を開く。
「お前、津島なんといった?」
「秋翔(あきと)と言います」
低く優しい声が僕の耳を通る。
「そうだったか。ではさらば」
僕は署長室を出た。その日の夕。僕は実家近くを散歩がてら歩いた。その道中、気になるものが落ちていた。それは首輪だった。恐らく猫のものだろう。赤い色に小さな黄金色のピカピカと光る小さな鈴。僕はそれを手に取り、内側を覗いた。そこには、飼い主の名前と電話番号、その動物の名前がかかれていた。
「斎藤奏(さいとうかなで)…リン」
僕はこれを交番へ届けようと近くにある交番へ向かった。夕日が僕を照らす。眩しいほどに。随分と歩き、交番が視界に入るほどまでとなった。すると、僕の背後からチャッチャッチャという軽快な足音が聞こえてきた。僕は後ろを向く。すると、そこにいたのは…あのシェパードだった。足先は黒焦げ、背中の一部は焼けただれている。そしてなにより、左目はいつまで経ってもあかなかった。チリンと僕が背後を向くと首輪の鈴はそう鳴いた。数秒間僕はシェパードと目を合わせた。
―まさかいるとは思わなかった。いや着いてきていたのか…?
そんな想像が僕の頭に浮かぶ。すると、チャッチャッと足音を鳴らしながらその足は僕の方へ向かってくる。そして、シェパードは僕の体に飛びついた。重かった。僕はその体重で後ろに倒れそうになった。しかし、なんとか持ちこたえた。そして、シェパードは僕の顔を舐め回す。僕の顔がびしょびしょになるくらい。最初は困った。だが今はなぜか嬉しい。あのシェパードがこんなにも懐いている。とても嬉しかった。数分経って僕の体からシェパードが離れる。僕は交番へ向かった。シェパードは尻尾を左右に振り、舌をだし、にこやかな顔をしている。
1人と1匹の影がオレンジ色に染まる。
僕らが自宅に就く頃には辺りは真っ暗になっていた。その暗闇の空にポツポツと光る小さなものは数百万、数千万と数え切れないほどの数輝いていた。
一定間隔に立てられている街頭が自宅までの道標になっている。
「着いたよ〜」
くすんだ青を基調とした紺色のの三角屋根の2階建ての一軒家がぼくの目線の先にあった。どこにでもありそうな一般的な一軒家。そこが僕の家だ。白色の塀を通り過ぎ、玄関前まで来た。ズボンのポケットから銀色の鍵を取り出す。そして自宅のドアの鍵穴にその先程取り出した銀色の鍵を差し込む。それからその鍵を右に回す。そしてドアを開ける。その瞬間、シェパードはその中へ飛び込んだ。あの時と同じだ。僕より先にあの燃えている家へ飛び込んだ。その時と。玄関近くにあるリビングの電気のスイッチを押す。その瞬間家の中はオレンジがかった暖かい光りに包まれた。シェパードはリビングの青緑色のソファの上を陣取っていた。
「疲れた〜」
シェパードが陣取っているソファの下で紺色のクッションに僕の頭をのせ、体を横にした。床にひいている白色のカーペットはふわふわとしていた。そこで目をつむり、僕は2日間で起こったことを頭の中で思い浮かべる。火災現場でこのシェパードと出会う。隊長に反抗したことからこの隊を抜けろと告げられる。それから、消防車に乗らず、現場近くのホテルに泊まる。それから、退職届を出し消防署を去った。そこから散歩がてら歩いた道に首輪が落ちておりそれを交番へ届けようとそこへ向かった。すると、このシェパードと再会。数分間じゃれついた後、再度交番へ向かった。それから自宅へ向かった。こう考えると怒涛の2日間だったなと思う。そのおかげで僕の体には疲れが蓄積していた。だんだんとまぶたが重くなってくる。やがて、僕は気絶したようにぱっと眠りへ入ってしまった。
リビングの窓から朝日が差し込み、その朝日が顔に当たると僕は目が覚めた。
「ふぁ〜〜」
大きなあくびをした後、僕はソファの方へ目を向けた。シェパードはまだこのソファを陣取っている。そのためカーペットの上で眠った僕は少し腰が痛む。
僕はその場で立ち上がり、脱衣所へ向かった。そこで着ていた服を脱ぎ、浴室へ入っった。そして、そこでシャワーに当たりながら思う。これからどんな仕事をしようかと。Webデザイナー、正社員、コンビニ店員…資格がなくてもこれからでもできる仕事を自分の頭の中で思い浮かべる。
「あっ!」
そんな中一つの仕事を思いついた。今の僕にピッタリの。すぐに浴室を出て、体についている雫をタオルで拭き取る。そして、水色の無地のTシャツに上下セットアップの紺色のジャージを着て、リビングへ出た。起きていたシェパードは機嫌の良さそうな僕を笑顔で見つめていた。そして、僕に向かってシェパードはチャッチャッと足音を立てながら走る。そして、僕らは抱き合った。シェパードは僕の顔を舐め続ける。その時、僕は「ははは!可愛いなあ。お前、うちのこにならないか?」とシェパードに向かって話した。するとシェパードはそのことに対して返事をしたかのように「わん!」と鳴いたのだった。
「アサヒ!」
この時、僕はちょうど朝の日差しが差していたためシェパードの名を「アサヒ」そう名付けたのだった。
コメント
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写真とるやついるんだw