アサヒと出会って約1年。今、僕はアサヒとの生活を本にして出版しようと思い、原稿を書いている。
アサヒはすっかり元気だ。足の黒焦げもなくなり、背中のただれも治ってきている。
真夏の日差しが強くなってきたある日、僕らの住んでいる家にとある二人の夫婦と思われる人がやってきた。その夫婦の奥さんとされる人は見覚えがあった。しかし、どこで見たのかは覚えていない。
「すいません。突然来てしまい。」
黒髪に七分丈の白いTシャツ、デニム地のロングスカートを履いた40代ほどの奥さんと思われる女性がそうペコリとお辞儀をする。
「少し、あの犬について話をしようと思いまして」
後頭部と側頭部を刈り上げた青緑色のシャツに黒いスキニーパンツを履いた旦那さんがそう話す。
「じゃあぜひリビングへ」
僕が2人をリビングへ案内する。白いダイニングテーブルの近くにある椅子に座らせ、僕はマグカップに紅茶を淹れ、2人に出した。
「ありがとう。」
旦那さんがそう言うと寝室にいたアサヒがこちらへきた。2人を「誰だ?」という顔で首を傾げながら前足を僕の膝の上にのせ、こちらを見つめた。
「アサヒっていいます」
2人にアサヒの紹介をすると、2人は自分の自己紹介をはじめた。
「俺は濱口慶介(はまぐちけいすけ)といいます。亜沙美の夫です」
「私は、約一年前にそのアサヒ君にレックスを助けてもらったあの家の住人です。その後、彼と結婚したんです。濱口亜沙美(はまぐちあさみ)です」
ようやく思い出せた。僕が最後に行った現場の住人だ。
「僕は津島秋翔です」
「よろしくお願いします」
「それで〜アサヒについての話って?」
「はい。俺、亜沙美にこの子のことを聞いたんですよ。その時になんか知ってるかも!って思ったんです。俺の地元はまあここ周辺なんですけど20代前半頃の時、俺が一人暮らししてた家の周辺にシェパードの子犬がうろついてたんです」
「はあ…失礼ですけど今はおいくつで?」
「27です」
「じゃあおよそ7から2年前?」
「ええ。まあ多分その時は24歳頃だったと」
「じゃあ3年前?ってことですよね」
「はい。多分」
「それで?」
「その子犬ここら周辺では有名でパンって呼ばれてたんです。茶色い体に少し黒い。まるで少し焦げてしまったパンみたいって」
「はあ」
「それでまあ親しくされてたんですが中にはいじめる小僧たちもいたもんでね。まあパンは僕らから見て左目がどうやら見えていないらしいんだ。それが理由でね」
「え!?」
僕は膝の上にちょこんと前足をのせてこちらを見ているアサヒにこう言った。
「パン?」
すると、アサヒは返事をするように「ワン!」とないた。
「彼ですって!パン!」
慶介さんは喜んで立ち上がった。その時、またアサヒは僕に向かって「何?」という顔で首を傾げた。
「慶介それでどうするの?」
「いやどうもしないけど⋯」
じゃあなんで来た!僕は心のなかで叫びながらも二人に優しい声で話す。
「僕が責任持って育てます。絶対悲しい思いはさせない」
「だろうね。パンの第二の人生楽しませてやれよ!」
「シシ」そう笑いながら慶介さんは笑顔で嬉しそうに話す。
「ありがとうございました!」
元気よくそう礼を言うと夫婦はペコリと一礼すると僕の家を去っていった。
「アサヒ!散歩行くぞ!」
僕はそのままのテンションでそうアサヒに言う。するとワンワン!となき、飛び跳ねていた。
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