窓から飛び込んでくる矢をエミリアさんの魔法で防ぎながら、私たちは外への扉まで移動した。
この扉を開ければ、きっと集中攻撃を受けてしまうだろう。
それが矢なのか、魔法なのか、それとも剣で直接斬り込んでくるのか、どれがメインなのかは分からないけど……。
そして一旦開けてしまえば、きっと戦いが一気に進んでしまう。
だからこそ、私たちは最初の行動を間違えるわけにはいかないのだ。
「……直接攻撃であれば、私が捌けると思います」
外の気配を伺いながら、ルークが言った。
確かに今のルークなら、精鋭揃いの近衛騎士とも渡り合ったほどだし、そこらの前衛職には負けることは無いだろう。
「矢であれば、わたしの魔法で防げます!
ただ、剣や魔法などで攻撃されると……暗黒の神殿でもそうだったんですが、魔力の消耗が激しいんですよね……」
「ふぅむ……。魔法なら、私のバニッシュ・フェイトで打ち消せますが……」
エミリアさんと私は、ルークに倣って自分のできることを言っていった。
……何と幸いなことに、三人の力を合わせれば敵の攻撃は防げそうだ。
「それなら、まずはこの扉ごと吹き飛ばしてしまいましょう」
「え……?
でもここ、村長さんの家……」
ルークの過激な発言に、私はとりあえず常識的な答えをしてしまう。
「……しかしすでに、向こうは窓を割ってきているわけですから」
「確かに」
私たちへの攻撃は、村長さんか息子さんの許可を得てはいるのだろう。
しかし私たちは、許可を得ない状態でこの家を破壊することになる――
「……まぁ、文句を言われたらお金の力で解決しよっか」
お金の手持ちはそれなりにあるから、扉の修理代くらいは余裕で出せる。
とは言え、この襲撃自体が勘違いだなんてことはさすがに無いだろう。
それなら、そうとなれば――
「――シルバー・ブレッド!!」
私が考えを巡らせていると、エミリアさんが防御魔法を解いて、窓に向かって攻撃魔法を放った。
直後、窓の外から悲鳴が聞こえてくる。
「ぐぁっ!?」
……察するに、誰かが窓から様子を伺っていたのだろう。
そして、攻撃を仕掛けようとして――
「迷っている時間はありません! アイナ様!」
「リーダー! 本名はダメだよ!」
そう言いながら、私はアイテムボックスから高級爆弾を出す。
まずはこれで、反撃の狼煙を上げることにしよう。
「申し訳ありません! ペナルティはあとでお支払いします!」
「ふふっ♪ それじゃ、まずは生き延びないとね!」
「頑張りましょう!」
私たちは三人、顔を見合わせて頷いた。
これからは、こんな戦いがいくらでも出てくるだろう。
――しかし、そのすべてに勝っていけば問題は無いのだ!
バアアアアンッ!!
まずはルークが思い切り、扉を強く蹴破った。
そしてそのまま、初級爆弾を扉のすぐ外で爆発させる。
ドカアアアアンッ!!
「うわっ!?」
「気を付けろ! 爆弾だ!」
「きょ、距離を空けろ!」
外からは意表を突かれたような、そんな声が聞こえてくる。
「シルバー・ブレッド!!」
「ぎゃっ!?」
巻き上がった煙の中にエミリアさんが攻撃魔法を撃ち込むと、外の誰かが悲鳴を上げた。
一瞬だけ煙の向こうに見えたのは、身体をのけ反らせている兵士と、その後ろの弓士――
その弓士はこちらの姿を捉えた瞬間、素早い動きで矢を撃ち込んでくる。
ヒュヒュンッ!!
「プロテクト・ウォール!!」
しかし矢が届く前に、エミリアさんの魔法が再び唱えられた。
私たちのまわりに作り出された光の壁は、飛んできた矢を綺麗に弾き落とす。
その直後、別の兵士が攻撃を仕掛けてきて――
ガキイイィイン!!
「……んっ!」
兵士の剣が光の壁に力強く当たると、エミリアさんの小さな声が漏れた。
攻撃は防げるものの、光の壁に攻撃が当たれば魔力を消耗してしまう。ここでエミリアさんの魔力を無駄に使うわけにはいかない。
最初はルークに護ってもらおうと考えたが、攻撃力が頭抜けているルークは攻撃に専念して欲しい。
だから、これくらいは私たちで何とかしないと……!
「アンジェリカさん!」
「はいっ!!」
私の言葉に、エミリアさんは光の壁の一部を解除した。
そこに目掛けて、私は高級爆弾を思い切り放り投げる――
ドカアアアアアアンッ!!!!
「うわっ!?」
「気を付けろ! また爆弾だ!」
「怪我した者は下がれっ!!」
投げた高級爆弾が爆発すると、外からは大きな声が聞こえてきた。
案外、今回のこの包囲網はあまり強くないのでは――
「リーダー!」
「はいっ!!」
扉の外に陣取っていた敵が混乱する中、ルークが勢いよく外に飛び出した。
そして――
ズガアアアンッ!!
「ひ、ひぃっ!?」
「何だあの剣はっ!!」
「もしかして、あれが神器――」
「……ぎゃっ!?」
「ひ、怯むな! 行けっ!」
――短い時間の中で、敵の様々な声が聞こえてくる。
ルークがずっと押しているようではあるが、しかしルークだけに頼りきっているわけにはいかない。
「私たちもいきましょう!」
「はい!」
エミリアさんの光の壁に守られながら、様子を見ながら急いで外に出る。
ルークは少し離れたところで兵士と戦っているが、何人かの弓士がルークを狙っていた。
矢の攻撃が無ければ、恐らくはもっと攻撃に集中できるだろう。
魔法使いの姿は見えないから、私のバニッシュ・フェイトは出番が無い。
そうとなれば――
「アイス・ブラスト!!」
「うわっ!? ……く、くそ! 魔法も使えるのか!!」
私は爆弾よりも、飛距離を出せる氷魔法で攻撃することにした。
残念ながら避けられてしまったけど――
ガキイイイインッ!!
「わっ!?」
私の隙を突いて、すぐ側の兵士が光の壁に斬り掛かってきた。
申し訳ないが、エミリアさんの光の壁にまた攻撃を受けてしまった格好だ。
しかしその音が響いた次の瞬間、ルークが私たちのところにまで戻ってきて、その兵士と、近くの弓士を斬り飛ばした。
結構距離があったように思えたけど……まさに、縦横無尽。
「大丈夫ですか!?」
「うん、ありがと! あとは――」
周囲を見ると、残りは腰が引けた兵士と弓士が僅かに残っているばかりだった。
敵のリーダー格のような騎士はすでに地面に倒れているし、それ以外にも10人ほどが倒れている。
少し遠くでは、村長さん、奥さん、息子さんが不安そうにこちらを眺めていた。
さらに遠くでは、他の村人が遠巻きにこちらを眺めている。
……一応、決着は付いたのかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――も、申し訳ございませんでした!!」
息子さんは私たちの前で、土下座をした。
それに釣られる形で、村長さんも息子さんの命を奪わないように懇願してきた。
奥さんはその横で、呆然と立ち尽くしていた。
「……この人たちは、何だったんですか?」
私は周囲の、縄で縛った騎士や兵士や弓士を指して息子さんに聞いた。
先ほどの戦いで怪我をした人も多く、低いうめき声がたまに聞こえてくる。
「あ、あの……。
この付近の街や村に……あなたたちを捕らえるために、騎士を派遣するっていう話で……。
ちょうど俺、帰り道で一緒になって……、その……」
そう言いながら、息子さんは手に持っていた紙を3枚差し出してきた。
ルークが受け取り、三人で見てみると……それは、私たちの手配書だった。
……似顔絵は上手く描かれている。
私たちの正体が、すぐにバレてしまったのも納得だ。
――って、ちょっと待って?
こんな手配書が配られるってことは、他の街や村にはもう……入れない、ってこと……?
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!