【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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猫視点
「…ん……」
自分の唇から小さな声が漏れると同時に、閉じた瞼の裏に向こう側の光を感じた。
「あと5分…」なんて普段通りの言葉が脳裏をよぎったその時、「おい猫宮、起きろ!」と無人の声が降り注いでくる。
ぼすんと腹の辺りにクッションか何かを叩きつけられ、息をぐっと詰めながら目を開いた。
「なんなん…」
痛いわ、なんて呟いてゆっくりと体を起こす。
開いた目に一番に映ったのは当然無人の姿だ。
だけどその無人の格好を見て、一気に脳が覚醒していくのを感じる。
目の前の無人はいつもの服装ではなかった。…そうだ、「あの人」に借りたものだ。
「戻れた…!?」
ベッドの上に横たわっていたらしい体を、バッと勢いよく起こした。
辺りを見渡すと、その視界に映ったのは見慣れた部屋だった。
自分の家の自室だ。
ベッドと机と、あとはラックなんてシンプルなものだけが並んでいる。
「そうみたい。俺も気付いたらここにいた」
何で俺は自分の部屋じゃないんだろ、なんて首を捻りながら、無人もベッドの端に腰をおろした。
ベッドサイドの時計に目をやると、時刻は22時を過ぎた頃。
ないこさんの部屋にいたのが22時になるくらいだったから、時間はさほど経過していないことになる。
「見て猫宮! これ!」
俺のすぐ横に座った無人は、声をひときわ大きくして自分のポケットを探った。
そこから取り出したのは見慣れたスマホ。
ただし、その端には今まではなかったストラップが一つついている。
あの時あの水族館で買ったガラスのピンクイルカだ。
「夢じゃないんだよな…これがあるってことは」
掲げるように無人がそれを上に持ち上げると、天井の照明がきらりと照らした。
…そう、夢なんかじゃなかった。
黙したまま、俺もポケットに手を伸ばす。
スマホと一緒に突っ込んだ青い色のハンカチが確かにそこにあった。
「なぁ猫宮、ないこさんにちゅーしたん? でこ?」
ふとおもしろいことを思いだしたとでも言うように、少しだけ声を弾ませて無人が問う。
その質問から逃れたくなって、俺はついとわざとらしく視線を大きく逸らした。
「……絶対言わん」
「えー何でだよー俺別にそんなんで怒ったりしないって」
そんな心配をしているわけじゃない。
ただ思い出しただけでいたたまれなくなるくらい、完全に黒歴史だ。
苦肉の策を絞り出した上で失敗したなんて絶対に無人には言えない。
言ったら馬鹿にされるに決まってる。
そんな俺がそれ以上答えるわけがないと踏んだのか、無人はそれきりそのことに関しては突っ込んでこなかった。
ただ話を改めるようにもう一度ベッドの上に座り直す。
シーツの上に膝をつき、こちらに身を乗り出すような態勢だ。
「ん」
促すようにそんな声を出しながら、無人は自分の前髪を上げる。
頭上で止めた手のせいで、狭い額が露わになった。
「ん??」
その意図が分からずに思わず首を捻って返す。
すると額をこちらに向けて押し出したまま、無人は少し拗ねたように眉を寄せて唇を尖らせた。
「よくあるじゃん、漫画とかで。好きなヤツの目の前でキスされた後、『消毒ー』とか『上書きー』とか言ってちゅーし直すやつ」
傷一つ…いやニキビ一つすらないその白い肌をずいと差し出す無人のそんな言葉に、俺は思わずといった感じに盛大なため息を漏らした。
呆れたように肩を落とすと、それに呼応するようにベッドのスプリングがぎしりと軋む。
「漫画の見すぎやろ。それにあれはどっちかって言うとお前からやらせたやん。『消毒』なんてさすがにいふに同情するわ」
「言葉のアヤじゃん」
「どんなアヤやねん」
ふっと鼻であしらうように笑うと、むぅと無人は更にむくれてみせた。
…ないこさんがふざけていふにやるときの表情にそっくりだ。
「なー猫宮ー」
まだ額を出したまま、目の前のピンク色は尚も食い下がってくる。
あぁもう、しつっこいな。そう言いながら俺はそんな無人に手を伸ばした。
後頭部に回したそれで、ぐいとその派手な頭を引き寄せる。
ただし、自分の唇を押し当てたのはあいつの額ではなかった。
「…ん…っ?」
尖らせていた唇を塞がれて、無人が目を白黒させる。
戸惑ったような声が漏れたけれど、それすらも全部封じるように角度を変えてキスを繰り返した。
唇の裏側で無人のそれを食むと、内側にこもるようなあいつの声は満足に外に出ることも叶わなくなる。
ただただ口内に息と共に飲み込まれていった。
しばらくの後、苦しくなったのか息を継ごうと無人が隙を見て一瞬唇を離す。
だけど、仕掛けてきておいてそれが許されると思うのが間違いだ。
逃げるのを許さないかのように追うと、あいつは今度は仕方なくといった感じに観念したようだった。
手を俺の腕に置いて、きゅっと袖を掴んでくる。
こんな時になっても、「好きだ」なんて明確な言葉はやっぱり自分の口からはまだ出てこない。
それでも俺の腕にしがみつくような無人の手からは、そのこちらの気持ちは全部伝わっているだろうことは実感する。
長いキスの後、耳まで真っ赤にしたその顔を何よりも愛しいと思ってしまった。
恥ずかしさを少しでも隠そうとしたのか、無人は唇を離すと今度は俺の胸に飛び込んでくる。
ぎゅっと背中に腕を回してきたのは、その照れた顔を俺に見られたくなかったからかもしれない。
細い体を、強く強く抱きしめ返した。
するとそんな空気やムードなんてものをかき消すかのように、腕の中で無人が何かを思い出したのか「……あ…?」と小さく声を漏らす。
「何?」と言外に空気で問うと、あいつは腕の中からこちらを上目遣いに見上げてきた。
「…なんか…肝心なこと忘れてる気がするんだよな…」
「? そう?」
首を捻る無人に尋ね返すと、それ以上は何も思い出せなかったのか「…まぁいっか」と自己完結したかのように呟いている。
「それより猫宮、明日水族館行こ」
「えぇ? 今日行ったやん」
「青いイルカのストラップ売ってないか、見に行きたいんだよ」
ピンクと青を一緒につけておきたいのか…はたまた青い方は俺に持たせるつもりなのか分からなかったけれど、無人はそう続けた。
こういうときのこいつには何を言っても無駄だ。
行くと決めたら俺が何を言っても行くに決まってる。
だから代わりに「しょうがねぇな」と譲歩するような答えを返した。
「行ったらハリケーンポテトも食おう」
「なに、そんで水族館出たらクレープも食う気?」
「その前にアイスだったなー」
あの時ないこさんが食べていたものを思い出しながらそんな言葉を交わし、俺達は互いの顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
コメント
2件
自分の世界?に戻ってこられて良かったー!あのままいても良かったけど((wハリケーンポテトとは、、どのぐらいの量があるんだろう、、そしてアイスも、、次の日には胃もたれして動けなくなりそうw
猫乾さん戻ってきたんですね、!?✨✨ ストラップやハンカチが実際に起こったことの証拠になっているのが話がずっと繋がっているのがあおば様の文の構成力を全面的に出しているように感じて尊敬でしかないです…😭 よくある消毒シチュをしたい桃さんも可愛いです…💕💕 桃さんの食べたものを2人で思い出すのも想像できてほっこりしてます😖💘 またまた癒されてしまいました…✨✨