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結婚相手を間違えました

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結婚相手を間違えました

16 - 第16話 不安と違和感の中で①*

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2025年02月22日

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偉央いお結葉ゆいはの水着を全部脱がしてしまうと、恥ずかしさに縮こまって震える結葉ゆいはに、即座にタオルを巻き付けてくれた。

それが意外に思えてしまった結葉ゆいはだ。



「ほら結葉ゆいは。タオルで隠したから大丈夫。恥ずかしくないよ?」


優しい声音とともにふわりとタオルにくるまれた結葉ゆいはは、極度の恥ずかしさからくる生理的な涙で潤んだ瞳で茫然と偉央いおを見上げた。


偉央いおは、その視線が愛しくて堪らないという風に、タオルで包み込んだままの結葉ゆいはをギュッと抱きしめてくる。


偉央いおは、結葉ゆいはが抵抗する素振りを見せれば追い詰める。

だけど、結葉ゆいはが観念して偉央いおの言う通りにすると、途端優しくなった。


結葉ゆいはは、付き合っている時には感じなかった偉央いおのそういうところに、今日だけで幾度も幾度も触れてしまい、少し違和感を覚えていた。


偉央いおさん……私……」


寒いわけではないのに身体がフルフルと震えてしまう。


偉央いおに何か言うことを、「怖い」と感じ始めてしまっている自分に気がついた結葉ゆいはだ。


「ん? もしかして寒くなった? お風呂溜めて温まる?」


聞かれて、結葉ゆいはは慌てて首を振った。


「だ、大丈夫っ。――あの、偉央いおさん……。私、先に中に入ってても……いい?」


結葉ゆいはは、部屋に戻って先ほど脱いだ服を着ようと思っていたのに、「うん、いいよ。けど……服は着なくて良いからね」と先手を打たれてしまう。


「あ、あのっ、でも……」


「今からさっきの続きをするんだよ? 服は必要ないよね?」


結葉ゆいは偉央いおの言ったことに対して「でも」と言うたび、偉央いおの声のトーンが少しだけ低められる気がする。


「何か異論がある?」


ギュッと唇をつぐんでうつむいた結葉ゆいはのあごをすくい上げると、偉央いおがまるで口答えは許さないよ?とでも言わんばかりの口調で結葉ゆいはの顔を覗き込んでくる。


結葉ゆいははその瞳に射すくめられたみたいに動けなくなって、その威圧感から逃れたいみたいに「……ないです」と答えいた。


「お風呂のお湯を溜めるついでに僕はサッとシャワーを浴びてくるね。結葉ゆいははベッドで待ってて?」


言って、何も言えずに偉央いおを見上げる結葉ゆいはの唇に軽い口づけを落とすと、偉央いお結葉ゆいはから離れる。

結葉ゆいはの足元に落とされたままの水着を偉央いおが拾い上げて、「これ、僕のと一緒に軽くすすいで干しておくね」と言ってきたのへ、結葉ゆいはは「そんなこと自分で出来ます」って答えたかったのを寸でのところでぐっと飲み込んだ。

何なら肌に直接触れていたものを男性にどうこうされるのは嫌だと思ったくらいだったけれど、それを言うとまた偉央いおの機嫌を損ねそうで言えなかった。


偉央いおの腕が離れた途端、ペタリとその場にくず折れそうになってしまった結葉ゆいはだけど、一生懸命それだけは堪えて。


偉央いおの姿が脱衣所の、プールサイドに面した扉の向こうに消えるのを立ち尽くしたままじっと見つめる。


ここ一時間足らずで何度も何度も感じさせられた、偉央いおからの何とも言えないはなんだったんだろう、と思ってしまう。


付き合っている時にはこんなことはなかったはずなのに。



結葉ゆいははギュッとタオルの前を合わせると、「偉央いおさん、どうしちゃったの?」と自問するようにつぶやいた。



***



結葉ゆいは偉央いおからの言い付けを守って、服を身につけることも出来ないまま、部屋に入ってすぐのところに立ち尽くしていた。


結局、結葉ゆいはには、さっき偉央いおが着せ掛けてくれたタオルをしっかりと身体に巻きつけ直すくらいしか、思い付けなくて――。


一度ほどいて身体を覆い直したタオルはとてもフワフワで、素肌に触れる感触がホッとするほど心地いい。


それが、ザワザワとした気持ちでいる結葉ゆいはにはとても有難く感じられた。

これが、洗い古されたゴワゴワのタオルみたいな感触だったなら、今の不安な気持ちと相まって、すごくしんどかったかも知れない。


先ほど、見るとはなしに見たタグに「今治いまばりタオル」と書かれていたのを思い出した結葉ゆいはだ。


タオルの柔らかさにほんの少し心を救われた気がした結葉ゆいはは、こんな状況なのに、頭の片隅でぼんやりと(タオル、今治タオルでそろえてみようかな)と思っていた。



***



バスルームからはお湯張りの音なのか、偉央いおがシャワーを浴びている音なのか、結葉ゆいはには判別が付かないけれどシャーッという水音が微かに聞こえていて。(まるでチューニングの合っていないラジオの音みたいだな……)とぼんやり思ってしまった結葉ゆいはだ。



偉央いおは去り際、結葉ゆいはに「ベッドで待ってて?」とを出した。


それを思い出した結葉ゆいはは、部屋に並んで置かれたダブルベッドに視線を転じて、思わず「どっち?」とつぶやいていた。


偉央いおはどっちに眠るんだろう?

私はどっちを使えばいいんだろう?


そんなの、適当で良いというのは分かっている。


ましてや、いま自分がベッドにいないといけないのは、眠るためではないのだから――。


偉央いおと、夫婦としての第一歩を踏み出す行為のためにそこにいるよう言われただけだと言うのはちゃんと理解しているのに、色んな不安が混ぜこぜになって、結葉ゆいはの思考はぐちゃぐちゃだ。


(あ、それよりも――)


ふと視線を転じた先。

ベッドの足元にあたる側が、全面ガラス張りになっていて、先ほど偉央いおと入っていたプールが一望出来るようになっているのに気が付いた結葉ゆいはだ。


この部屋に入ってすぐの時は「何て明るくて開放的なんだろう!」と好意的に思えたはずのその窓が、今はガラス一枚隔てただけで、外と繋がっているように思えてしまって落ち着かない。


結葉ゆいはは少し迷って、カーテンを閉めた。


途端、一気に部屋が薄暗くなって。それはそれで「これから夫とをいたします」と宣言しているみたいに思えて、ソワソワしてしまう。


(閉めるの、半分だけにしとく?)


そうして、隠れた側のベッドで偉央いおを待てばいいのでは?


そう思った結葉ゆいはだったけど――。


締め切ったカーテンを半開する前に脱衣所のドアが開いて、偉央いおがベッドルームに入ってきてしまう。


偉央いおは、窓辺でカーテンを握ったまま立ち尽くしていた結葉ゆいはに気付くなり、「『ベッドにいてね?』ってお願いしてたのに」と言った。


でも、言葉とは裏腹。


偉央いおは怒っている様子はなくて、逆にその声には笑みさえ滲んでいるようで。



「ねぇ結葉ゆいは。僕とセックスするのを意識してカーテン閉めたの?」


結葉ゆいはにそう思わせるようにわざと、だろう。偉央いおが「セックス」という単語を敢えて織り交ぜてきたのは。


言われた途端、恥ずかしくて身体がブワッと熱くなったのを感じた結葉ゆいはは、カーテンを握る手に無意識、ギュッと力を込めてしまっていた。


この部屋に入る前までの結葉ゆいはなら、きっと「そんなことないですっ」と言い返せていたと思う。


だけど、今の結葉ゆいはには偉央いおに言いたいことの半分も言えなくなっていたから。


それを知ってか知らずか、タオル一枚だけで下腹部を隠した偉央いおが、そんな結葉ゆいはの手を背後から身体全体を覆い込むようにしてギュッと握ってくる。



結葉ゆいは、震えてるけど……緊張してる?」


そのまま耳元で艶っぽく尋ねられて、結葉ゆいははピクンッと微かに身体を跳ねさせた。


お風呂上がりの偉央いおからは、ほんのり石鹸の香りがして。

自分からはそういう匂いがしないことにハッとした。


「あ、あの、偉央いおさん……。私も……、んっ!」


――私も、シャワーを。


そう告げようと偉央いおの方を振り返った途端、頬に手を添えられて唇を塞がれてしまう。


「んんっ」


喋ろうと開けていた口の隙間を縫うように、偉央いおの温かな舌がぬるりと口中に入り込んできた。


「まっ、ぁ……ん、っ」


――待って、と言いたいのに、口付けが深くて言わせてもらえない。


結葉ゆいはが喘ぐように口をハクハクさせようとするのを楽しむように、偉央いおの舌が結葉ゆいはの口の中、まるで生き物みたいにぬるぬるとうごめいた。


舌を絡め取られ、歯列をなぞられ、舌の裏側をくすぐられ。


結葉ゆいはの口の端を、どちらのものとも分からない唾液が伝い落ちる。


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