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「頭でっかちになってない純粋な恋っていいよね。私も恋したくなっちゃったな。くっそう、時間さえあれば」
酔ってきたのか仁香の口がどんどん悪くなってきておかしい。
「うん。相手も自分の事好きなんだろうなって顔になってくるのたまらないよね」
「ああ、そう。わかるよね、愛されてるって。相手の目がメロってくんの」
「恋に惚けた感じ……」
「言葉よりよっぽど信用できる、そんな目」
仁香と昌代はうっとりした目で語りだした。
ああ、でもわかるな。恋する瞳……。年とか、肩書とか、収入とか、相手のスペックじゃなくて純粋に相手を好きだって目……。
「なーんてね。10代の夢見る少女じゃないんだから現実に戻りますよーっだ」
仁香はまたやさぐれて、私と昌代は顔を見合わせて苦笑いした。
「結婚て家族を探すんだだよ、家族。結婚の準備しつつ信頼関係も築いていかなきゃならない。初対面の人と! ほぼ無理じゃない? 」
「信用って人間関係の基本中の基本だよ。信用できないと横にいて落ち着いて生活が出来ない」
「詐欺かもしれないし、お金のこととか、色々疑っちゃう」
「はは、めっちゃ疑心暗鬼になってんじゃん」
「やっぱり、同じ学校、同じ職場、同じ趣味仲間のサークル。そう言う同じ組織に属しててさ、そういう恋愛が目的ではない集まりの中で偶然惹かれ合うのが理想だね。婚活だと、変な人が混じってて妙齢の婚活女子は足元見られて、良いように扱われることもあるでしょう。そういう割合が少ないもんね自然な出会いは」
「大学時代とか、あの均質性が高い世界で相手を見つけておくべきだって先人たちが言ってたね」
「大学は確かに」
言ってもしょうがない反省点をグダグダ話すだけだったけど、心は軽くなった。
「あーあ、ぱっと良い人が現れないかな」
店を出ると、伸びをしながら仁香は言った。
「ははは、わかんないよ。あるかもよ」
私もそう返す。わかんないよ、来年は仁香もあの時はあんなに焦ってたのにねーなんて笑っているかもしれない。そのためにまだ婚活をするのだから。
「そうそう、わかんないものだよ。ぱっと急に結婚する人って案外いるし。結婚なんてしたくないほど他の事に夢中になるかもしれないし」
昌代が仁香を励ますように言った。
「何でか結婚焦ってない昌代が一番結婚に近い位置にいるのが腹立つぅ。でもそうなんだろうな、焦りが一番遠回りな気がする」
「そうそう、それはあるかもね。見えるものも見えなくなっちゃうから」
生ぬるくなった風を受けながら少し遠回りして帰ろっか、と3人で歩く。
「そうだねー。焦っちゃダメだよね」
私も同意した。
「春美も、その子との事は遠回りしてそうで結婚に一番近い道な気がする。この時間があったからこそあとで後悔しないかもしれないってこと。あんまり悩まないようにね」
昌代がそう言ってくれて頷く。
結婚はしたいけど私にはどこか他人事で、自分が結婚出来るなんて今は夢のまた夢な気がする。
やれることをするしかないんだけど。
「既に信頼関係が確立しているちょうどいい年齢の独身男性がパッと目の前に現れたらいいのにね。そしたらなーんにも悩まずにさっと解決しちゃうのに」
仁香が笑う。
「もー、そんなうまい話、あるわけないでしょ」
私もそう言って笑った。
この友情も大人になるにつれて変化しつつも維持されている。楽しい時間だった。
そんなうまい話はあるわけない。わかっているけど慰めになった。
「またお互いの近況報告兼ねて集まろうね。希美も会いたいし」
「うん、そうだね」
「あ、そうそう、春美。夜寝る前のベッドで結婚について考えない方がいいよ、不安で泣けて来るから。夜のテンションなだけだからね」
仁香のアドバイスはその通り過ぎて笑ってしまった。もう、泣いたわよ。
軽い足取りで戦友と別れた。
家に帰ると二人と話したおかげで気持ちがすっきりとしていた。目の前の状況は何も変わっていないのに、デトックスは重要だな。うんうんと一人頷く。
色々あった1週間だった。
自分の気持ちが不安定で、これでいいのか自信がないせいで人の言葉に揺れ動く。わかってるんだけど、自分で考えて自分でつかみ取るしかないのだ。自分の人生なのだから。
ほんと、何もかもリセットして学生時代からやり直したいな。結婚を視野に入れて相手を探すの、それでー……。っと、現実逃避している場合じゃないな。仁香のこと笑えないや。
夜は不安にのみまれそうになるから、考えない。すでに身をもって体験済みの仁香のアドバイスに従って目を閉じる。
もしかして、と思いマチアプアプリを確認する。いくつかアクションが届いていてそのうちの一つが田原さんからだった。
『よかったら、婚活の進捗など報告し合いませんか』
思わず顔が緩んだ。
『もちろん。心強いです』
すぐに返信する。田原さんも、婚活疲れだろうか。愚痴や相談を言える人がいるのは頼もしいし、息抜きになる。私と田原さんの距離だからこそ言えることもある。
また戦友が出来てしまった。ふう、と気持ちが軽くなって息を吐く。
それから広睦くんからのメッセージが来ていないか確かめる。特に何もなく、少しがっかりしてスマホを置いた。自分から連絡を取るつもりもないのに、向こうから連絡が無いことにががっかりする。 下手に身動き取れないと言い訳して、身勝手だ――。今週は、会わなかった……。こうやってまた結果の出ない一週間が過ぎる。
沼――か。
ゆっくり、ゆっくり沈むように私はいつの間にか眠りに落ちていった。
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瑠璃🍫✨💭ྀི
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コメント
1件
うわー、この回めっちゃリアルだわ……。仁香の酔って砕けた口調と昌代の大人なアドバイス、そして「夜ベッドで結婚考えて泣く」ってあるある過ぎて笑ったw。春美の「沼にゆっくり沈む」感覚が繊細に描かれてて刺さる。田原さんとの距離感もちょうど良くて、戦友が増える安心感も沁みる。キャラ同士の会話劇が自然で、読み終わった後にほっこりする良い話やった😌