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仕事の掛け持ちは、疲れる、思った以上に。
やっぱり歳には勝てないなぁと思うけど、今やっておかないと、どんどん動けなくなりそうだ。
老後資金と、生活費と遊ぶためにお金が必要。
目的がはっきりしてるから、やり甲斐もある。
貴君との仕事は、だいぶ慣れてきて時間内にできることも増えてきた。
残業もほとんどしなくて済んでいる。
ホテルの清掃アルバイトは、ニシちゃんが要領よく教えてくれたから、あとは数をこなせるように工夫するかな。
で、今日はお休み。
旦那と二人で私の元職場のスーパーへ買い物に来た。
考えてみたら、一緒にスーパーに来るなんて結婚当初しかなかったかも?
「…で、何が食べたい?」
「んー、食べたいものより作れそうなものかな?」
今日は旦那相手にお料理教室をやる。
掃除と洗濯は、ある程度やれるようになったけど、料理は何回か教えないと難しいかも。
ということで、まずは買い物から。
「炒めもの、煮物、汁物、これくらいから始める?」
「汁物かな?まず。ぶっかければ食べれるし、うどんとか入れてもいいし」
「まぁ、コンビニごはんよりはマシかな?じゃあ、干し椎茸と、それから昆布だしと鰹出汁はインスタントでもいいから、これでいこ」
カートは一つ、カゴは二つ。
食料品はまとめて買うけど、日用品は別々。
「あれ?未希ちゃん、いらっしゃい!」
「洋子さん、こんにちは。今日はなんかお買い得品ある?」
「あるよ、台所用洗剤とその玉ねぎがお得!」
「ありがとう!あ、こっち、元旦那」
隣で旦那が、もとい元旦那がぺこりと頭を下げた。
「あら、はじめまして。未希さんにはいつもお世話になってます」
元旦那は、頭をぽりぽりかいている。
考えてみたら、誰かに紹介したことってなかったかもしれないと今頃思った。
もう離婚したのに。
「じゃ、行くね」
「うん、いっぱい買ってってね」
カートには重いビールや醤油も入った。
それを進君は、ひょいと運んでくれる。
なんだか今になっていい夫婦になってるかも?
変なの。
台所に二人で立つようになるなんて考えても見なかった。
それでも、これで家事が各自になるととても生活しやすい。
「お出汁が美味しいと、野菜も美味しくなるよ。味付けは薄口醤油がいいと思う」
私もそんなに料理は得意じゃないけど、人並みの家庭料理ならなんとかできる。
ぴろろんぴろろん🎶
スマホが鳴る。
ニシちゃんだった。
『もしもし?小平さん?』
「はい、そうだけど、何かあった?ニシちゃん」
『お休みのところ悪いんだけど、今日夕方からのシフト、入ってくれないかな?』
「えっと、何時から?」
『18時から22時までなんだけど』
時計を確かめる。
あと30分しかないけど。
「わかった、準備して行くね」
『よかった、急に一人来れなくなって。じゃお願いします』
電話を切って進君を見た。
お吸い物みたいなものを作っている。
あとは買ってきたコロッケとマカロニサラダがある。
「私、アルバイト行ってくるから、あとお願い」
「あぁ、大丈夫。ご飯だけは炊けるようになったし。行っておいで」
エプロンと三角巾を持ってホテルへと急いだ。
右折したらホテルの入り口、というところで対向車が来て先にホテルへ入った。
お客さん用の駐車場と従業員用は離れていて、お客さんは一台ずつ仕切られたところへとめ、気になる人はプレートでナンバーを隠す。
私はお客さんを急かさないように、わざとゆっくり入って行く。
従業員用駐車場に車をとめ、裏口から入って従業員控え室に向かう。
「こんばんは」
「あ、小平さん、ありがとう、助かった」
「あ、未希でいいよ。ニシちゃんはもう上がり?」
「ううん、未希さんと同じだけやってくよ」
ぴろぴろぴろ🎶
どこかの部屋からからお客さんが帰ったらしい。
「ニシちゃん、行く?」
「私ちょっと休憩するから、未希さんお願い!」
手を合わせられた。
「わかった、行ってくるね」
私は清掃台車を押して、空室になった部屋の清掃に向かった。
できるだけ人と会わないように、会っても素知らぬふりで通り過ぎなければいけない。
わけありの人もいるのだから。
エレベーターで四階まで上がった。
一部屋一部屋ドアの向きが違って、お客さん同士がバッタリ出くわさないようになっている。
台車を押して、角を曲がろうとした時、カチャリとちょうどドアを開けようとしているカップルがいて、慌てて後退りした。
女性が先に入り、男性がその後から入る。
え?あれ?今のは!
私はわざと、台車を持ち上げガタンと音をさせ、その拍子にスプレー缶を一つ転がした、その部屋の前まで。
「あっ!」
白々しく声を出して、スプレー缶を追いかける。
私の声とスプレー缶に気付いて男性の動きがふと止まった。
決して目は合わせない、私はあくまでここの清掃員だから。
男性の目線を感じながらわざとゆっくり、スプレー缶を拾い意味もなく付けていたマスクを外して頭を下げる。
「失礼しました、ごゆっくり」
決して目は合わせずこちらは何も気づいていないフリをするが、男性が私の顔を確認したのがわかった。
慌てて部屋に入ったから。
その男性は間違いなく、娘婿の健二だった。
そういえば、健二にはアルバイトのことは話してない。
綾菜も話していないのだろう。
空室になった奥の部屋へ向かい、手際良く掃除を済ませる。
控室に戻ると、ニシちゃんがおにぎりを食べていた。
「未希さんも食べる?余分に買ってきたけど。急に呼び出したからまだでしょ?ご飯」
「ありがと。でもね、帰ってから食べる、味見をして採点しないといけないから」
「えーっ、誰のご飯?」
「旦那の手作り」
あ、元を付けるの忘れた、ま、いっか。
「いいなぁ、旦那さんがご飯作ってくれるなんて。うちのお父さんなんか食べた茶碗も下げてくれないんですよ」
「うちもそうだったよ、でも話せばやってくれるんじゃない?」
「そうかな?」
ニシちゃんと話しながらも、私は綾菜にLINEする。
〈来週末、結婚記念日でしょ?一緒にお祝いしない?うちらの離婚祝いも兼ねて〉
ぴこん🎶
《離婚祝いって初めて聞いたわ。いいよ、どうしようかな?って思ってたとこ。ちょっと健二に聞いてみるから待ってて》
ん?近くにいるのかな?じゃあさっきのは?
人違いだったかなぁと思っていたら、返信があった。
ぴこん🎶
《電話に出てくれないから、LINEしたんだけど、返事がないの。多分、残業に追われてるっぽい!》
「まだ仕事してるんだ、健二君、頑張るね!」
ぴこん🎶
《最近よく働くから。手当てがなくても仕事が終わらないと帰ってこないくらいだよ》
それは嘘だなと私の心の声。
〈じゃあ、帰ってきたら話しておいて。私から誘ったってことで〉
ぴこん🎶
《了解!》
やっぱり、さっきのは間違いなかったか。
こうなったら動かぬ証拠として、車を写真に撮っておこ。
「ニシちゃん、ちょっとごめん、車に忘れ物しちゃったみたいで」
「いいよ、次は私がいっとくから」
「ありがと」
急いで裏口から出て、お客さん用の駐車場に向かう。
確か、健二君の車は黒のワンボックスだったはず…。
あれ?全部で11台とめてあって、その中には該当する車がない。
おかしいな。
あっ!もしかして、女の車で来たのかもしれない。
じゃあ、どれかわからないから、出てくるのを待とう。
これじゃ興信所の探偵だわ。
確証をつかんだら、どうやってつきつけようか、考えておこう。
浮気を完全否定するつもりはないけど(実際、私もやっちゃってたし)、これが実の娘の夫の話になると別だ!
我ながら、身勝手な言い分だとは思うけど。
従業員控室に戻り、あの部屋から健二が出てくるのを待つことにした。