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孤独

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孤独

1 - 第1話

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2025年06月30日

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東京の夜は、イ・スンホにとっていつも同じ色をしている。
ワンルームの部屋にはカーテンがない。

アパートの隣のビルのネオンが、壁に青く滲んでいる。


テーブルの上には、溜まったコンビニのレシートと、開けかけの請求書。


22歳の韓国人――イ・スンホ。


小さな部屋の片隅で膝を抱え、スマホの画面を見つめている。


そこには「支払い督促」の文字。


(……あと、三日……)


小さくつぶやいた自分の声は、壁に吸い込まれていく。


どこで間違ったんだろう――

何を間違えたんだろう――


思考はすぐに止まる。

考えたって金は湧いてこない。


スマホの中には、バイトの募集と、怪しいメッセージが混じっている。


指先が画面を滑るたびに、何かを決めそうになる。

でも決められない。


スンホは溜息を吐き、コンビニで買った缶チューハイを開けた。


喉に落ちていく冷たさだけが、少しだけ現実を遠ざけてくれる。


明日が来なければいいのに、と。


ぼんやり思った。


午前3時。

スンホは、スマホを両手で持ったまま動けなくなっていた。


画面には、ある掲示板のスレッド。


『金に困ってるやついるか?』


誰かが建てたスレッドには、くだらない煽りや嘘ばかりが並んでいた。

けれど、ひとつだけ異質なコメントがあった。


『本気で必要なら、今すぐ連絡して。こっちも人を選ぶから。』


IDは匿名。

でも文体には、変な真実味があった。


スンホは、何度も入力画面と削除を繰り返してから、ようやくメッセージを送った。


『お金が必要です。条件はなんでもいいです。』


送信ボタンを押した瞬間、手が震えた。


けれど――


数十秒もしないうちに返信が来た。


『今どこにいる?会って話そう。今夜でもいい?』


スンホは、喉の奥に生ぬるい何かがこみ上げてくるのを感じた。


(ほんとに送っちゃった……)


でも、もう戻れない。


少なくとも、借金取りの声よりはマシに思えた。


「……行くしか、ないか。」


独り言のようにつぶやいて、スンホは上着を羽織った。


スンホは駅前のファストフード店の端の席に座っていた。


照明の下でスマホの画面を見つめていると、足元の床の冷たさが足先から体を這い上がってくる。


「……イ・スンホさん?」


低い声が耳元に落ちてきた。


振り向くと、黒いキャップを深くかぶった男が立っていた。

スーツではない。

けれど何か、空気が普通じゃない。


スンホは声が出せずに、小さく頷いた。


「……どうしてそんなに金がいるの?」


男はコーヒーを置くと、真正面から覗き込む。


「……詐欺に、あったんです。」


スンホの声は震えていた。


「チャーター詐欺……船を借りる仕事だって……友達に、誘われて……保証金を……」


男の目が、笑っているのか読めなかった。


「保証金払ったら、持ち逃げされたってこと?」


スンホは俯いて、首を縦に振った。


「……俺、家族にも言えなくて。逃げてきたんです……でも、もう……」


男の手がテーブルの下で、スンホの震える手に触れた。


「そうか。」


声は優しかったが、スンホの背中に冷たい汗が伝った。


「……じゃあ、代わりに“何でも”できる?」


スンホは息を呑んだ。


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