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月の光が静かに大地を照らしていた。
風ひとつない夜、森はまるで時間を忘れたかのように静かだった。
そこには『 月見の森』と呼ばれる聖域。かつて、人と妖精が手を取り合って生きていた時代があった。 森には因果の流れを調律する女王が住まい、そしてその娘、桜月(おうづき)イロハが静かに日々を過ごしていた。
イロハは生まれた頃から感情をあまり表に出さない少女だった。影のようにしか現れない。だが決して冷たいのではなく、その静けさの中にはまるで月の光のような静けさがあった。
「世界が…壊れ始めている…。」
そう呟いたのは母であり、女王であるものだった。
空が裂け、大地が呻き、魂たちが行き場をなくし彷徨う。因果の糸はもつれ、森には争いの気配があった。
女王は未来を見た。避けられない崩壊、その先の静寂。女王は自身の命を代価に、ひと振りの剣を誕生させることにした。それは『鎮魂剣・月煌』 全ての因果を断ち切り魂を静かに眠らせる剣。
最後の夜、女王はイロハに剣を託す。
「イロハ、あなたは静寂を継ぐ者。だけど、同時に運命を断つものかもしれない。…この剣で全てを元に戻して。」
そう最後に言い残し、女王は剣の中に消えて行った。
イロハは頷いた。涙は流さなかった。ただ静かに剣を抱きしめ、森の外に立った。それからイロハは永遠の旅を始める。魂を救済し、因果の乱れを断ち切り、世界に静寂を取り戻すためにーーー。
ーー月が、イロハの行く道を照らしていた。