『美しヶ池』の『メダカの王様』、ナッキと、我が父、『ハタンガ村』の『抵抗者(レジスタンス)』のリーダーである、父ちゃん、幸福(こうふく)長短(ながちか)が出会ったこの時を遡(さかのぼ)る事十年前。
コユキ婆ちゃんと善悪お爺ちゃんが数多(あまた)の悪魔と共に地上を去ってから十六年後の事だった。
当時十七歳になったばかりで、夢と希望と未来への憧れ、それと周囲に溢れる様々な種族の女子たちからの憧れの視線を受けて、将来の充実し過ぎたリア充、いやそれ以上の謂(い)わばハーレムなレール、路線をまっしぐらに歩いていた私、若く美しいハタンガプリンスだった観察者は、謎の病によってその、勝利者への道を絶たれていたのである。
村に例を見ないほどの美形で有るだけでなく、その深慮遠謀(しんりょえんぼう)、年に似合わぬ冷静沈着さによって、次代の英雄、救世(ぐぜ)の御手(みて)とまで噂されていたであろう完璧、至高、いいや究極だったであろう存在が失われてしまったのだ、と思う。
と、自分語りだけに訳知り風に話している私であるが、実の所、この時までの十年間に何が起こったのか、私自身には殆(ほとん)ど、というか全く記憶に残っていない。
この後、更に数年の時を経て、正気を取り戻した私に母、美雪が語って聞かせてくれた内容をお伝えするしかないのだが……
母によると、ある夜眠りに就いていた私は突然苦しみ出したらしい。
大きな呻き声に駆けつけた母と、同居していたカーリーの目の前で、私の肉体は消滅していったと言うのだ。
元来、回復系のスキルを得意としていた母のヒールやキュア、リライブを掛け続けられても、一旦癒された私の肉体は、見る見る間に再び崩壊を始めてしまったそうなのだ。
ラマシュトゥから回復の技を受け継いだユイも加えた必死の治癒も瞬時に無効化されて行く中、母を始めとした周囲の疲労困憊加減を案じたカーリーは非常手段に打って出たらしい。
その背に負った魔剣、ダグル・バリザを振るって空間を断絶する事でクラックを産み出し、その中を自身の固有スキルである『時空アンカー』で満たす事によって、時間の流れを遅延させ、その中に回復直後の私、観察者、幸福(こうふく)聖邪(せいや)を隔離したそうなのだ。
それまで、見る間に肉体を崩壊させ続けていた私は、遅延時間空間によって守られたお陰で、ゆっくりと但し確実にその身を崩壊させ始めたらしい……
その後、ハタンガに集まっていた科学者、研究者達が様々な手段で私を崩壊から救い出そうとしてくれたそうだが、その悉(ことごと)くが失敗に終わったそうなのだ。
そして、母、美雪は私を連れて村を後にした、そう言う話である。
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