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西遊記龍華伝

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西遊記龍華伝

139 - 燃え盛る炎の中で 壱

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2025年04月12日

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源蔵三蔵 二十歳


ご説明しよう。


今、俺の目の前で悟空無双が巻き起こっている。


如意棒をぶん回し、次々に芋虫達を蹴散らしていた。


ドゴォォォーン!!


ドゴォォォーン!!


「これ、俺達の出番なくね?」


猪八戒がボソッと呟く。


「そんな事よりも近くにいる術師を探した方が良い。結界を張るにしろ、この場所から離れられないんだから」


哪吒の言う通り、結界はその場にしか張れない。


離れられたとしてもニ、三歩の距離だ。


大きな四角形の箱型の結界に、俺達は閉じ込められている。


ジッと結界に書かれている梵字が目に入った。


ゾワゾワッ!!


俺はこの梵字の書き方をする人物を知っている。


独特の字の跳ね方をする人物を知っている。


「おい、三蔵。どうした、顔が真っ青だぞ」


「…」


沙悟浄の問いに俺は答えられなかった。


嘘だ、嘘だ、嘘だ!!


こんな事、絶対に嘘だ!!


「この結界術を使える人を…、俺は知っている」


「え?三蔵の知り合い?」


風鈴が俺の言葉を聞きながら、沙悟浄の隣に移動する。


「猪八戒、沙悟浄…。二人も知ってる人…だよ」


指先が冷たくなって行くのが分かる。


「まさか、三蔵の師匠だって?そんな事…、ありえんのか?」


「俺だって半信半疑なんだ。この結界に書かれてる梵字、師匠の字なんだよ。師匠の字は特徴的で、字の跳ね方が…」


パァァンッ!!!


沙悟浄と俺の会話を遮るように、大きな発砲音が聞こえた。


ビュンッ!!


ボフンッ!!


銃弾が觔斗雲を貫いた瞬間、一瞬で觔斗雲が消滅した。


「「「「えっ?」」」」


その場にいた俺達の声が同時に重なり、一気に急降下する。


「おいおいおい!!?これはヤバくないか!?てか、落ちたらどうなんだ!?結界の中で落ちる経験がないんだが!?」


猪八戒が叫んだ瞬間、三蔵達の体がピタッと止まった。


グラッ!!


空中に浮いている状態になったのたが、結界全体が大きく揺れる。


「止まったねー」


「私達、この結界を張った術師に遊ばれてるね」


風鈴と哪吒は俺達を他所に状況を静かに分析していた。


二人はその場で、動けるかどうかも試している。


どうやら落下が治っただけで、自由に動けるらしい。


「普通に動けるねー。ほら、この場で軽く走れるし」


風鈴は言葉通りに俺達の周りを一周する。


「冷静に分析してる場合か!?って、ちょいちょいちょい!!あれ見てみろ!!」


李の叫び声を聞きながら、視線の先を辿る。


結界の外から巨大な髑髏の花魁がへばり付いていた。


「ギャァァァァァ!!!ななな、何なんだよアイツ!!!」


「うるせーぞ、お前等!!!」


スパーンッ!!


ビュンッと勢いよく飛んできた悟空に頭を叩かれる。


如意棒を物凄くしてから、俺達の所まで飛んできた。


「んだ?あの髑髏」


「それが突然、現れて…」


「ッチ、面倒なのが増えやがった」


「お前に用があって来たのだ、悟空」


悟空と丁の会話に髑髏が割って入って来た。


「あ?俺に用だと?何の用だ糞髑髏」


「お前が助けたい女を賭けた催しに参加する気はあるか?」


「美猿王からの招待ってわけか」


「あぁ、そうだ。牛魔王とお前さんの二人の催しだ」


髑髏は、楽しそうに歯をカタカタと音を鳴らしながら笑う。


「牛魔王と俺を殺し合せたいって考えか」


「おい、悟空。美猿王の罠だろ、どう考えても」


「だろうな」


沙悟浄の問いに悟空は冷静に答える。


「そうだ、お前等に我の正体を教えてやろう。我は無天経文、経文が具現化した姿じゃ」


「なっ!?経文だと…?お前が!?」


思わず声が口から漏れた。


この髑髏は無天経文?


経文が具現化した姿って…、魔天経文みたいな感じか?


あれも巻物じゃなくて刀の姿だったし。


「この髑髏は無天経文だ、江流」


「っ!?」


髑髏の肩に座っていた師匠の顔付きが、今まで見た事がないくらいに冷たかった。


「どうして…、師匠がここにいんだよっ!!俺達を閉じ込める為に結界を張ったのもっ、何でだよ!!」


「美猿王に頼まれたからだ、彼は正しい事をしようとしてる」


「は、はぁ!?何言ってんだよ、師匠。本気で言ってんのか」


「江流、お前は可哀想だよ。観音菩薩殿…いや、観音

菩薩達に言葉巧みに騙されちまって」


そう言って、師匠は哀れみの視線を向ける。


今、俺の目の前にいるのは師匠なのか?


「師匠は観音菩薩の事を尊敬していたし、崇拝していただろ!?それがっ、どうしてだよっ!!」


「お前、寺の集落に行ったか?」


「は、集落…?行ったけど…、それが何だって…」


俺は寺の中にまでは入っていない。


中に入ったのは悟空達だからだ。


「俺達は観音菩薩の収集で集まったんだが、一瞬で殺されちまったよ。妖が攻めに来たのに、神達は俺達になんて言ったと思う?」


「…は?」


「力を貸す事を惜しんだ俺達は、天帝の為に死ぬくら

いはしろってよ。俺達よりも優れている天帝を優先し、俺達人間は天帝を逃す為の犠牲だってな。笑っちまうよなぁ、神が俺達を見捨てて逃げたんだぜ?」


師匠の言っている事に理解が追い付かなかった。


本当にそんな事を言ったのか?


「これは本当だよ、俺に向かって言って来たんだからな。その所為で水元は死んじまったんだ」


「す、水元が…死んだ?」


頭が真っ白になった。


水元が死んだ?


水元は俺が物心付いた時から一緒にいて、兄のような存在だった。


口煩い所がうざいと思った時はあった。


だけど、それが水元なりの優しさだってしってる。


俺が悟空に会いに旅に出る時も、水元は泣きながら見送ってくれた。


「嘘だろ…?水元が死んだ?嘘だろ?師匠…」


「嘘じゃねーよ、江流。お前がしてるこの旅も、意味ねーんだよ。神にお使いさせられてんだよ」


「おい、オッサン。さっきから聞いてりゃあ、好き勝手に言ってんじゃねーか」


師匠の言葉を遮ったのは悟空だった。


「テメェは美猿王に騙されてんだよ、そんな事にも気付かねーのか」


「美猿王は俺に真実を教えてくれただけだ。昔、鬼と神の間に起きていた事を。この目で見たんだよ、神が無様に逃げ出す姿をな!!」


カチャッ!!


師匠は叫びながら悟空に向かって、霊魂銃の銃口を向ける。


丁達はすぐさま悟空の前に移動し、銃弾を受ける体制を作った。


「やめろよ、師匠!!何で、悟空に銃を向けてんだよ!!」


俺は叫びながら丁達の前に立ち、師匠を睨みつける。


「俺はお前を旅に出すのは反対だったんだよ。観音菩薩に聞いても、俺が望む答えを言ってくれなかった。鬼の伝承を取りに行かせられた時、お前は大怪我をしたじゃないか!!お前に怪我をさせる為に、旅に出した訳じゃない」


「何言ってんだよ、師匠。俺はいつまでも小さな子供じゃないんだよ。怪我しちまうのも、戦っていたら仕方ない事だろ」


「お前はいつまで経っても俺の子供だ。もう旅なんてやめろよ、江流。神の言う事は間違っているんだ。経文だって、神達は自分達の良いように使うんだから」


今、俺の目の前にいるのは前の師匠じゃない。


変わっちまったんだ、考え方が。


鬼の伝承を見て、神達がして来た事は許される事じゃない。


だからこそ観音菩薩達は…、毘沙門天達を止めようとしている。


もう二度とあんな事がないように悟空達、妖達にも称号を与えた。


神と同等の扱いを受けれるように神達は動き出した。


俺は師匠に向かって、大きな声で叫ぶ。


「師匠が俺を心配してくれる気持ちは嬉しいよ。だけどっ、今、観音菩薩達は良くしようとしてるんだよ。これまで神がして来た事も許される事じゃないよ。それは人間も妖も過ちを起こした奴等も同じで、俺達自身も変わっていかなきゃいけないんだよ!!」


「はぁ、江流は観音菩薩に洗脳されちまったんだな。可哀想に、神の都合の良いような言葉を言わされてんだろ?」


「何言ってんだよ、師匠!!これは俺の本心だって!!」


会話が一方通行で、何を言っても通じない。


駄目だ、今の師匠には俺の言葉が届かない。


「美猿王側に付いたなら、俺を連れて行く必要があんだろ」


「あぁ、どうするんだ?来るのか」


師匠は冷たい眼差しを向けたまま、悟空に問い掛ける。


「おいおい、大事な事を忘れていた。この催しに、経文も関係している事を言うのを忘れていたわ」


無天経文の言葉を聞いた俺達は言葉を失った。


「おっと、我じゃないぞ?美猿王がな、それを悟空と牛魔王に奪い合いをさせたいのだよ。大事な女か経文か、どちらを選ぶか実物だな」


美猿王は悟空を使って、暇潰しでもするつもりなのか?


それよりも美猿王の元に、二つの経文がある事が問題だ。


もはや、これはただの経文を集める旅じゃなくなってきた。


「悟空、お前はどうしたい?」


そう言ったのは、沙悟浄だった。


「俺はお前の気持ちを尊重してやりたいって思ってる。小桃ちゃんを助けたいんだろ?」


「俺も沙悟浄の意見と同意。後悔してほしくないんだよね。助けられなかったってさ」


二人の言葉を聞いてすぐに、玉と毛女郎の事を思い出した。


そうだった。


二人は目の前で大切な人を殺され、手の届く場所で死んでしまった。


悟空も須菩提祖師を助けられなかった事に後悔していた。


「悟空、小桃ちゃんを助けに行くべきだよ。経文の事は良いから」


「あ?俺は両方を持って帰ってくんに決まってんだろ」


「悟空?まさか、経文も持って帰ってくる気なのか?」


「あははは!!!全く、お前は俺達の予想を覆えすな」


俺と悟空の会話を聞いていた猪八戒が爆笑する。


悟空の目を見れば、本気だって分かる。


「テメェは今すぐ腑抜けた面をやめろ。あのオッサン、完全に洗脳されてんじゃねーかよ」


「やっぱり師匠は美猿王に…」


「目を覚させてやれんのはお前だろ、三蔵」


そう言われ、俺は師匠に視線を向けた。


「悟空…」


「おい、髑髏。俺を連れて行くんだろ。だったら連れて行け」


そう言って、悟空は髑髏の方を向く。


「あぁ、良いだろう。そうだ、観客がいるなぁ?三蔵の小僧も連れて行こう」


「髑髏、何を勝手な事を!!」


「良いではないか、三蔵の小僧も連れて来て良いと王は言っていたし」


「…、分かったよ」


髑髏に促され師匠は渋々了承していた。


「話の流れで俺もついて行く事になっちゃったけど…」


「俺達は大丈夫だけど、お前が心配だな…」


「心配…とは?」


「三蔵、意外と鈍臭いから…」


「おい」


沙悟浄は心配して言ってくれてるんだろう。


だけど、少し貶しの言葉に聞こえるのだが?


「若…」


「お前等、俺が戻るまで留守番頼むわ」


「分かりました、若。あの…、無事に帰って来て下さい」


丁は本当に心配そうな顔をして、悟空に言葉を投げ掛ける。


「んな顔すんじゃねーよ、丁。帰って来るわ、ちゃんと」


「はい、お待ちしてます若」


悟空の言葉を聞いた丁達は安堵の表情を浮かべる。


「三蔵、私は行けないけど気を付けて。美猿王の所に二人だけで行くんだから」


「分かってるよ、哪吒。実はさ?鬼達の事、ちゃんと見てみたいんだよね」


「鬼達を?」


「うん、なんか…。師匠の言葉を聞いて、両方の意見?みたいな…。違うな、鬼達の言葉も聞かないといけない気がして…」


神だけの話や鬼達の話だけを聞くんじゃなくて、両方から話を聞きたい。


俺はこの目でちゃんと鬼達の事を見たい。


グググッ。


無天経文が結界の中に手を突っ込み、俺と悟空を手のひらに乗せる。


「三蔵、気を付けろよ!!」


「分かってる!!」


「本当に気を付けろよ!!」


「いや、心配し過ぎだってば!!」


猪八戒は何度も俺に心配の含んだ言葉を投げ掛けた。


俺と悟空は結界の外に出て、無天経文達と共にその場を離れた。



三蔵達が離れて数分後。


沙悟浄達を囲んでいた結界が解け、無傷で地面に着地する。


ドンッ!!!


その瞬間、沙悟浄達の前に大きな鳥居が降り立つ。


「うわっ!?ビックリしたっ。ん?この鳥居…、見た事があんだけど」


「猪八戒、これアレだろ?神達が下界に降りる時に使う鳥居だろ?」


「あぁ、そっか。じゃあ、誰か降りて来るのか」


「じゃないのか?」


猪八戒と沙悟浄が話していると、鳥居の中に大きな渦が出来ていた。


「本当だ、誰かでて…、ん?」


「なぁ、なんか嫌な予感がするんだけど…」


猪八戒の疑問の含んだ声を聞き、李は苦笑いしながら言葉を吐く。


「「ウガァァァァァ…ッ!!!」」」


顔の原型を止めていない上半身が人間の体、下半身が獣の化け物達が一斉に飛び出して来たのだ。


「うわぁあぁぁぁぁぁぁ!!やっぱり嫌な予感がしたんだよ!!!」


「お前が言ったから、こうなったんだろうが!!」


李と猪八戒は叫びながらも、すぐさま武器を取り出し

構える。


「天界から化け物が出て来たって事かっ?」


ドドドドドドドッ!!


ズシャッ!!


突進して来た化け物を斬りながら、沙悟浄が呟く。


「そうじゃないかな?天界でも、何かあったんじゃないかなっ?」


化け物の攻撃を避けながら風鈴が答える。


「おいおいおい!!鳥居の中から、どんどん化け物達が出てくんだけど!?斬っても斬ってもキリがねぇっ!!」


「今は斬るしかないでしょ」


李の体を押し除けながら、哪吒は太刀を振り回す。


ブンッ!!


ズシャッ!!


「ウガアァァァァァァァア!!!」


斬られた化け物達は緑色の血を流しながら、沙悟浄達に向かって行く。


「これはまずい状況だな…、沙悟浄。一旦、引いた方が良いな。隙を作れたら良いんだけど…」


「これは中々、骨が折れるな猪八戒」


無数に湧いて出て来る化け物達を見て、猪八戒と沙悟浄はうんざりしていた。


「ウガァァアァァアァァァァア!!!」


ザパァァァァァアンッ!!!


化け物達が向かって来た瞬間、沙悟浄達の目の前に大

きな水の塊が現れた。


水の塊は化け物達を飲み込み押し流して行く。


「どこから水が現れたんだ!?いきなり現れけど…」


「私が出してあげたんでしょ」


猪八戒の問いに答えたのは、槍を持った泡姫だった。


「泡姫!?お前、海に帰ってたんじゃ!?」


水の中から現れた泡姫の姿を見て、猪八戒は驚きの声を上げる。


「えぇ、傷を治しにね。だけど海の中でも、同じような化け物が出て来たのよ。鳥居の中からね」


「泡姫、怪我はもう良いのか?」


「お陰様でね、ありがとう」


「そうか、それなら良かったよ。今も正直言ってヤバかったからさ、助かった」


そう言って、沙悟浄は軽く頭を下げながら礼を言った。


「悟空様はいないのね、逸れたの?」


「いや、別行動してるだけだ。海の中でもヤバいなら、本格的に地上もヤバいな」


「空が割れてんだから、異形なものが出て来たんでしょ。やっぱり、世界が終わりに近付いてるのね」


「どう言う事だ?世界が終わるって」


沙悟浄と泡姫の会話に丁が割って入る。


「五本の経文が近くに集まってるんだから、影響があ

るに決まってるでしょ」


「観音菩薩達から聞いてなかったな。と言うか、そんな説明もなかったし」


「あえて黙ってたんでしょ?」


「説明したら、俺達が集めなくなるからか」


丁の問いに答えながら、泡姫は猪八戒の問いも答える。


ドォォォーン、ドォォォーン、ドォォォーン!!


突然と鳴り出した大太鼓の爆音が、沙悟浄達の頭上から聞こえて来た。


「うるさっ!?何なんだよ、この太鼓の音は!!」


「李、おめーの声もうるさいって」


「「…」」


李の口を塞ぐ胡の隣で、沙悟浄と猪八戒は顔を見合わせる。


二人は、この大太鼓から鳴り出すリズミカルな音の意味を知っていた。


ドンドンドンドンドンドンッ!!


ドドドドドドドッンッ!!


ドンドンドンドンドンドンッ!!


ドドドドドドドッンッ!!


「沙悟浄、この音。俺達は嫌ってほど聞いたよな」


「天界軍の行進音頭」


猪八戒と沙悟浄が言葉を放った瞬間、大太鼓の音が強

くなった。


ドドドドドドドッンッ!!


ドドドドドドドドンッ!!


割れた空に降り立つ白い鳥居から、武装した天界軍達が馬に乗って現れる。


「あの旗…、天界軍?と言うか、天界軍って下界に降りてくんのか?」


「滅多にないな。天界軍は名の通り、天界の秩序と神達を守るのが仕事だ。天帝の命令がない限りは下界に降りて来ない」


「でもよ、実際に降りて来てるよな?今。その天帝の命令ってヤツで?」


「そこまでは分からないよ李」


李の問いに答えていた沙悟浄だったが、一人の軍人が大声を上げた。


「大量殺人の犯罪者である三蔵一行を探し出せ!!!即座に捉え、牢獄せよ!!」


その言葉を聞いた沙悟浄達は目を丸くする。


「は、はぁ!?犯罪者?俺等が!?俺達、誰も殺してねーだろ!?」


「地上から離れましょう。ついて来て、私の城に案内するわ」


猪八戒の叫び声を他所に、泡姫は踵を返すように川がある方向に歩き出す。


「海の中に行くのか?泡姫」


「ここにいたら貴方達、天界軍に捕まるわよ。それに、水晶玉で天界の様子を見ないと。今、どんな状況になっているのか。急ぎましょう、天界軍が降りて来るわ」


泡姫の走り出す背を追うように、沙悟浄達も走り出した。



少し前の天界ー


寺の集落にいた天帝達だったが…。


天帝達の足元に梵字で書かれた陣が現れ、その陣が光出した瞬間に移動させられていた。


「何がどうなっているんだ、観音菩薩。何故、我々は

天界に戻って来てしまったのだ?」


「空間転移の術に掛かってしまったと思います。これは憶測ですが、鬼の仕業かと思います」


天帝の問いに答えたのは如来だった。


「鬼か…、彼等の中に術を使えるものはいるだろう。しかし、我々だけと言うのが謎…」


ドタドダドタドタ!!


「天帝、大変な事が起きた!!!」


「うるさいな明王、どうしたんだ」


大きな足音を立てながら、走って来た明王を如来が一瞥する。


「集落の寺に集まった坊さん達が全員、殺された」


「殺された…って、いつだ」


「今さっきだよ、お前等がいなくなってから数秒後だ」


明王の言葉を聞いた如来と観音菩薩は、眉間に皺を寄せた。


「それだけじゃねぇ。殺したのは三蔵達だって、天界に声が上がって来てる。密かに毘沙門天を支えていた神達が、勝手に天界軍を動かそうとしてんだよ」


「天帝の許可を得ずにか!?」


「観音菩薩の下っ端達が今、必死に止めてんだよ」

如来の問いに溜め息を吐きながら明王が答える。


「急いで天界軍基地に向かいましょう」


「分かりました」


天帝の後に続いて観音菩薩達は天界軍基地に向かう。


基地は天帝邸の数メートル離れた場所に設置されている。


いつでも天帝の命令で出陣出来るようにだ。


天界軍基地に到着すると、大勢の人だかりが出来ていた。


「神の使いである三蔵一行が人をっ、大量に殺したんですよ!?真っ先に捕獲すべきでしょ!?」


「ですから、人伝の言葉を信じて行動するのはおかしいでしょ!?天帝の命令も受けずに、天界軍を動かすのは違反ですよ!!?」


「こんな残忍な犯罪者を放置しておくのか!?神の信者達が殺されたんだぞ!!!」


飛び交う言葉達を聞いていた観音菩薩達は、眉間の皺が更に深くなる。


「皆さん、落ちつきなさい」


天帝の一言で、騒ついていた空気が一気に静まる。


「天界軍を動かすのは許可出来ませんよ。三蔵一行が殺した確証はあるのですか?」


「そ、それは…」


「ないのに動かそうと?」


「証拠ならありますよ、天帝」


そう言って、天帝の前に一人の男が現れた。


男は水晶玉を持っており、天帝に水晶玉を差し出す。


映し出されたのは、人間達を惨殺なやり方で殺して行

く三蔵一行の映像だった。


「こ、これは!?本当なのか」


「やはり本当だったではないか!!天帝、天界軍を動かして下さい!!」


神々達が声を上げる中、天帝は男の顔をじっと見つめる。


男は天帝の顔を見ながら、ゆっくり口を開く。


「これが真実でなければ、何というのですか?天帝」


そう言って、男は不敵な笑みを浮かべた。


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