テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
432
486
「ねぇ、見た?1年のフロアにいる田口くん」
「見た見た!ヤバくない!?スタイル良すぎてマジ芸能人なんだけど!」
翌日の朝
学校の廊下は、登校早々から女子生徒たちのけたたましい黄色い声で溢れかえっていた。
ただ廊下を歩いているだけで、周囲の視線を一身に集めてしまう。
当の本人は、まるで自分の噂話をされている自覚がないかのように
平然とした顔で俺の斜め後ろを歩いていた。
「兄さん」
背後からぬっと影が伸びたかと思うと
直哉は俺の肩に文字通りあごを乗せるようにして、後ろから抱きついてきた。
「だから!学校でその呼び方をするなって言っただろ!」
恥ずかしさと焦りで、俺は周囲に聞こえないような小声で怒鳴り、肘で直哉の硬い脇腹を小突いた。
案の定、周囲にいた女子たちの視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。
痛い、物理的に痛い。
「えー、なんで?兄さんは兄さんじゃん」
直哉は全く悪びれる様子もなく、首を傾げた。
「なんでって……」
義理とはいえ、兄弟になったからに決まっているだろう。
いや、別に二人の関係を隠す必要なんてない。
ないのだが……男同士で、しかもこんな学校の中心で、ベタベタと引っ付かれている姿を見られるのが死ぬほど恥ずかしいのだ。
俺の顔が急速に熱くなっていくのを察知したのか、直哉はじっと俺の顔を覗き込んできた。
綺麗な切れ長の瞳が、至近距離で細められる。
「兄さんって、本当にすぐ顔赤くなるよね。分かりやすくて可愛い」
「か、からかうな!」
案の定、俺たちのやり取りを見ていた女子たちのヒソヒソ声が耳に届く。
「え、嘘……田口くんのお兄ちゃんって、あの2年の相川先輩?」
「ていうか、何あの二人……仲良すぎじゃない? 尊いんだけど……」
(やめろ。全部聞こえてるからな!)
居心地の悪さが限界に達し、俺がフイッと顔を逸らすと、直哉は嬉しそうに
まるで宝物でも見つけたかのような笑顔を浮かべた。
「やっぱり兄さん可愛い。ずっと見てられる」
「しばくぞマジで」
精一杯の威嚇を込めて睨みつけたのに、直哉にはカエルの面に水、どころか
むしろさらに嬉しそうなオーラを全身から放っている。
なんなんだよ、こいつのメンタルは。
◆◇◆◇
嵐のような一日が終わり
放課後────
西日が赤々と差し込む昇降口で
靴を履き替えようとした俺の前に、またしても大きな影が立ちはだかった。
「兄さん!一緒に帰ろ」
大型犬が尻尾を振っている幻覚が見えそうなほどの笑顔。
だが、俺はここで一線を引かなければならないと、ぐっとローファーを履き直して立ち止まった。
「……お前さ」
「ん?」
「学校では、あんまりベタベタすんな」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!