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直哉の笑顔が、ぴたりと止まった。
「……なんで?」
「なんでって、目立つだろ。さっきだって周りの奴らに色々言われてただろ。俺は普通に、静かに学校生活を送りたいんだよ」
一気にまくしたてると、直哉はすっと目を伏せた。
「兄さん、俺といるの、嫌だった?」
真っ直ぐにそう問いかけられて、俺は一瞬、言葉に詰まった。
嫌……。
嫌か、と聞かれると、実はそうではない。
ただ、今まで経験したことのない距離感に戸惑っているだけだし、周囲の目が恥ずかしいだけだ。
直哉自身を拒絶したいわけじゃない。
しかし、俺のその数秒の沈黙を、直哉は「肯定」と受け取ってしまったらしい。
「そっか」
ぽつりと言った直哉の顔から、完全に笑みが消えていた。
いつも自信満々に見えるそいつが
捨てられた子犬のように肩を落とし、酷く寂しそうな表情を浮かべている。
「ごめんね、兄さん。迷惑だったよね…仲良くしたかったんだけど、距離感いつも近いって言われちゃって…」
「……っ」
ずるい。その顔は反則だ。
そんな風に露骨に落ち込まれると、胸の奥がチクリと痛んで、途方もない罪悪感が押し寄せてくる。
「いや……別に、お前といるのが嫌ってわけじゃねぇよ」
観念してボソボソと呟くと、直哉の頭が勢いよく上がった。
「ほんと?!」
「…ただ、恥ずかしいだけだから」
顔を赤くしながらそっぽを向く俺を、直哉の瞳がじっと捉える。
その瞳の奥に、急激に熱い灯火が宿るのが分かった。
嬉しそうに、けれどどこか妖艶に、彼の目が細められる。
「兄さん大好き!」
「はぁ!?」
昇降口に、俺の裏返った変な声が響いた。
対する直哉は、至って真面目な、澄んだ瞳のままだ。
「だから、くっつきたい。ずっと触れてたい!」
「意味わかんねぇよ!兄弟の距離感じゃ…」
「兄弟ならゼロ距離がフツーだって」
直哉が一歩、俺との距離をゼロにする。
そして、差し出された彼の大きな手が
俺の右手を逃がさないように、しっかりと、けれど優しく包み込んだ。
包み込まれた手から、直哉の体温が伝わってくる。
男の、自分より一回りも大きな手。
ゴツゴツとした骨張った感触。
そこから伝わる熱が妙に熱くて、ドクン、と心臓がうるさい音を立てて跳ねた。
「ねえ兄さん、勘違いしないで欲しいんだけど」
直哉の声のトーンが、一段と低くなる。
ふざけている時の直哉じゃない。
真っ直ぐに、射抜くような強い視線が、俺の瞳の奥をじっと見つめていた。
「俺、義理の兄としてだけじゃなくて────一人の『男』として、兄さんのこと好きだから」
夕暮れ時の静かな昇降口。
その言葉が鼓膜を揺らした瞬間
俺の頭の中は、真っ白な光に塗りつぶされて静止した。