*生理ネタです。苦手な方はご自衛ください。7話まで続く予定です。
「あ゛ー・・・」
最悪だ。今月はやばい。もともと生理は不順だったため、どちらかというと重い方だったが、今月はまずい。本当にまずいと思う。内臓が握りつぶされているような不快感。動きたくないというか動けないため、満足に生理用品を替えることもできず今に至る。硝子さんが今日出張じゃなければ私はすぐにでも医務室に行ったというのに、こんな日に限って医務室はあいていない。
男でもいいから一人にしないでほしかった。どうしても生理中は人恋しくなるものなのだ。けれどパンダも棘も憂太も、任務中。私も本来は任務だったのだが、体調不良、とだけ告げて棘に頼んで(押し付けて)きた。悟はどうだと一時は考えたが、あいつはもともと忙しく、そして何より多分、いや絶対あいつはからかってくる。
思考が頭を駆け巡り、頭痛までしてきた。すると、さらに頭痛を増幅させるような、空気を切り裂くようなスマートフォンの通知音が鳴った。
<はい>
かろうじて声を出すと、電話は伊地知さんからだった。
<伊地知です。急で申し訳ないのですが今から3級呪霊の討伐任務をお願いできますか?>
<今から、ですか?>
<はい。本来ならばフリーの方がやってくださる予定だったのですが、少し前の任務でけがをされまして>
<・・・わかりました。行きます>
<ありがとうございます・・・!正門に車を出しておきますね。では失礼します>
了承してしまったが、果たして今の私は本当に任務に行けるのだろうか。
「う゛・・・っ・・つぅ・・」
無様に体を丸めて、気休め程度にはなるであろう薬を飲む。
「出発しますが、あの」
「はい?」
「顔色が悪そうです、ほかの方に回すことも可能ですよ」
「いえ、大丈夫です」
そうだ、大丈夫だ。大丈夫。意外とどうにかなるものだ。だから、大丈夫。
伊地知さんの気遣うような視線にすら気に障る。痛みの波が来るたびに目を閉じ、呪具を握ってやり過ごした。
「到着しました。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「・・・わかりました。帳を下ろします。ご武運を」
帳の中はしんと暗くて、いつもは気にならないのに怖いとさえ感じる。初めて任務に赴いた時ではないのに。
「っ・・・」
後ろにいる呪霊の気配に気が付かなかった。
「がは・・っ!」
制服の後ろ側をつままれて、息をすることさえ苦しい。3級くらい、いつもの私ならすぐに祓えた。
なんとか腕を動かし手応えのある場所を探す。いつもは10分もかからないほど造作もないことなのに。
伊地知さんの待つ車に乗り込んで、すぐに背もたれにもたれかかった。
「出発します」
吐き気さえ催してきた。
「すいません、窓開けていいっすか」
「はい、結構ですよ」
窓を開けて、深呼吸をしてから目をつぶる。さっき祓った呪霊が脳裏に浮かぶ。目を開ける。
その繰り返しだ。
「到着しました。医務室に寄っていかれた方が良いのでは?」
「大丈夫です」
いつもは数分でつく寮への道も、今日は数十分かかってしまった。硝子さんがいれば、どうにかなったかもしれない。硝子さんが悪いわけではないけど。
「あ、おかえり~」
聞きなれた、そいつの声。
「ーー、ーー。ーー?」
何か言っているが、耳に入ってこない。頭痛で頭がきしむほど痛いからだ。
途端、体に力が入らなくなった。貧血だろう。薬は結局効かなかったし、本当に最悪だ。
「真希!」
悟の焦るような声を最後に、私は意識を手放した。
stay tuned.