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素敵な作品ありがとうございます
いつもより血の気がないような気がする。ゆっくりと歩いてきた真希は僕が声をかけるまで僕の存在に気が付いていないようだ。おぼつかない足元、それらすべてが真希の異変を表している。
「真希!」
途端、真希は崩れ落ちた。
『真希さんの体調が思わしくないようです』と、伊地知から連絡があった。任務を速攻で終わらせて、真希の部屋に行ってみるも、いないようで。仕方なく部屋に居座ることにしたけれど、違和感しかなかった。いつもはきれいに整頓されている部屋は報告書や布団が散らばっている。珍しいな、なんてのんきに考えていると、机の上に薬の箱があるのが分かった。
「頭痛、腹痛・・・生理痛・・・ねぇ・・」
思い当たる節はある。真希は時々、非常に不規則だが、気だるそうなときがあるのだ。
だけど生理ってふつう周期とかあるもんでしょ。
僕にはわからない真希の事情でもあるのだろうか。そんなことを考えていると、ドアがガチャリとあいて、今に至る。
「ぅ・・ん゛ん・・・」
「あれ、起きちゃった?」
布団に静かに移動しようとしていたところなのに。
「さとる・・・?」
「そうだよー」
「なんで・・?」
「真希、倒れちゃったでしょ」
そういうと真希は納得したようにする。立ち上がろうとする真希を軽くいさめ、僕に寄りかからせた。
「言いづらかったら言わなくていいんだけどさ。真希、今日生理?」
すると真希の目に涙がたまって、ひとすじ頬を伝った。
「あ、ごめん・・」
真希は僕の胸板に頭をぐりぐりとなすりつけて
「生理って最悪なんだよ。いやでも女だって知らしめられるんだぜ」
と涙声で言った。
「・・・でも僕は真希が女の子でよかったよ?」
「なんで?」
「真希が卒業して、僕たちが結婚したら子供ほしいもんね」
そういって意地悪気に笑ってやると真希の顔が一瞬にして赤く染まっていった。
「真希も欲しかったりするぅ?」
「この変態・・・!」
「変態でもいいよ。真希がいてくれるならね」
「ちっ、かっこつけやがって」
「男はかっこつけたいんだよ」
「・・ぐぅ・・っ」
真希がお腹を丸めてしゃがみこんでしまう。
「真希!?」
僕もしゃがみこんで真希の背中から腰に掛けてさする。少しすると落ち着いてきたようで、大丈夫、と言った。
「もうベッドにいよう。動いちゃ駄目だから」
「なんで怒ってんだよ」
「怒ってないよ」
そう、怒ってなどいない。ただ、どうして初めからベッドにいさせてやらなかったのか。自分の不甲斐なさが悔しいだけ。
「さとる」
「ん?」
「トイレ行きたい」
トイレの便座に真希を座らせ、
「さとるー」
という声が聞こえてからまたベッドまで連れていく。
「さとる」
「どうかした?」
「ここにいて」
「ぐっ・・・・!!」
かつてないほどのデレ・・・!!!心臓に悪いからやめてくれないかな!?真希ちゃん!?
「さとる?」
それにいつもより幼いような口調、それによく今日は僕の名前を呼んでくれる。
「大丈夫・・・いるよ。それとさ、いつ昼ごはん食べる?」
「・・・今日はいらねえ」
食欲ないし、と付け加える真希。でも何か食べないと元気にならないだろうし。
「僕が作るよ。ちょっとだけでいいから食べて?」
「ん・・・」
真希の頭をなでると気持ちよさそうに目をつぶる。
なんだこの可愛い生き物。
「寝れそ?」
「さとるは一緒にいてくれんの?」
「いるよ」
真希の頭をなでて、頬を触って、いつかの卒業を待つ。それまで、僕は死ねないな。真希も命がけで守らないと。
命を懸けてでも好きな相手を助けたいという、そんないい奴じゃないのだ、僕は。僕と真希、二人そろってなくちゃ。
地獄で真希を上から眺めるのもいいけど、そのせいで真希と離れる時間が増えるのは嫌だから。
「大好きだよ、真希」
真希もうなずいてくれた。
<もしもし>
<もしもし歌姫~?>
<なんなのよ五条、せっかく休日だっていうのに>
<そうキレるなよ。とりあえず聞いて。相談なんだけどさ>
<はぁ?>
<僕の可愛い生徒が生理痛だって言ってるの。なんかした方がいいとかある?>
<そうねぇ・・・とりあえず体と冷やさないこと。湯たんぽとか、あとは生姜とか。でもコーヒーはカフェイン入ってるし、生理中は駄目ね。薬とかは大体女子だったら持ってるはずだし、それを飲ませた方がいいわ>
<は~い、参考になったよ。またね~>
<ちょっと待って>
<なに?>
<可愛い生徒って、誰?>
<僕の真希>
<僕のって・・あんた。まさか手出したりしてないでしょうね!?>
<当たり前だろ。僕を何だと思ってるの>
「ん~・・・?」
「起きたんだ」
真希は目をこすって、丸眼鏡を探るようにする。
高専内に呪いが出るはずもないのに、律儀だねぇ。
「昼ごはんできてるよ」
真希がベッドから起き上がって立ち上がろうとしたから、僕はすぐに真希を横から支えた。
「あつっ」
「そりゃまだ出来立てだもん。食べさせてあげよっか」
「断る」
「釣れないなぁ・・・」
真希が一生懸命おかゆを冷まして食べている姿を見る。真希の瞳に映った僕はあまりにもふにゃふにゃで、自分で笑ってしまった。
「ごちそうさま」
「はい、お粗末様」
そういえば歌姫が薬を何とか言ってたな。
「真希、薬とかってある?」
「あー・・・切らしてる」
「買ってこようか?」
「それはさすがにキモイ」
「えぇ~・・・」
「ほんとは朝硝子さんにもらいに行く予定だったんだけどな」
「え?硝子いないの?」
「出張」
「そっかぁ。早く戻ってくるといいね」
「え?」
「え?」
「いや別に」
「言ってよ。ねーえ?」
真希はそっぽを向き
「悟は・・・私と二人きりになれるから喜んでんじゃないのか、って」
といった。
「真希は?僕と二人きりでうれしかった?」
「・・・」
「教えてよ。僕も教えるから。ね?」
「う・・・うれし、か・・・った」
「僕も!」
真希はすねたようにベッドに入ってしまった。僕も真希と一緒にベッドに入りたいけど、さすがに狭いから無理だろう。
「真希、また寝る?」
「ん・・」
「おやすみ」
「帰っていいから」
真希はそういったけれど、僕が大好きな子を放って帰るはずがないのに。
stay tuned.