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最後の鍵を回す瞬間、世界は一度静寂に包まれた。機械音のような低いうなりが校舎の内部で響き、鉄の扉の鍵穴が順に音を立てる。六本の鍵が噛み合い、七番目は空いたまま――だが扉はゆっくりと開き始めた。
「行こう」穂乃果の声は低く、しかし迷いはなかった。
六人は一列に並び、振り返らずに外へ踏み出した。
廊下を抜ける風が冷たく、外の世界の空気は濡れていて新鮮だった。校庭の門をくぐった瞬間、東の空が赤く色づき始め、夜明けが一筋の光になって校舎を照らした。
背後で最後の音が響いた。鉄扉が閉まる音。
だが、戻ってくるべき声は聞こえない。六人は膝から崩れ落ち、涙を抑えきれずに抱き合った。理沙はその場に残り、扉の内側で深々と一礼をしていた——外から見れば、それは小さな黒い影だった。
日が昇り始めたとき、放送のノイズは消え、校舎は再び昼の姿を取り戻しつつあった。――だが六人の心には深い刻印が残った。そこには理沙の不在という穴と、彼女の選択への重みが深く残った。
——数日後、彼女たちは普通の生活へ戻ろうとした。けれども何かが違った。夜の記憶は彼女たちの視界に入り込み、時折小さな夢となって現れた。理沙の笑顔、真綾の震え、里奈の肩を抱く手。生きていることの脆さと尊さが、彼女たちを静かに変えた。
ある朝、菜乃花の家の郵便受けに小さな箱が入っていた。送り主は書かれていない。箱を開けると、中にはひとつの小さな金属のタグと、短い手紙が折りたたまれていた。
――「外は寒い。戻る方法を探す。待ってて。理沙」
文字は走り書きで、不器用さが滲んでいた。それは確かに理沙の筆跡に似ていた。胸の奥の重苦しさが、かすかな暖かさに変わる。安堵と不安が混ざった複雑な感情が、六人を包んだ。
真綾は手紙を読みながら泣いた。穂乃果は無言で拳を握りしめた。菜乃花はそっと空を見上げ、理沙の無事を祈った。
理沙が“過去を閉じ、未来を守る”ために残ったこと。その犠牲は、完全な喪失ではなく、再会への約束へと色を変えたのだ。
物語の結末は、完全な幸福ではなかった。だが、夜の恐怖の余波の中で、六人は互いをより強く守ることを誓った。
そしていつか、理沙が戻る日が来ることを信じて——歩き始めた。