テラーノベル
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波の音が途切れた。風も止み、空気が一瞬、色を失ったようだった。
「ここ……以前はもっと潮の音が……」
神子元島が静かに口を開く。観音埼も、不安げに海を見つめていた。
「なんか、ヘンだよね……ほら、匂いも違う……塩の匂いがしない。」
「……時の気配が違う。」
部埼は、ポケットから懐中時計を取り出した。
秒針が――止まっている。
「また……か。」
それは、あの時と同じだった。
仲間が消えた日、時計の針は確かに一瞬止まった。
「“逆光”が……近くにあるかもしれない。」
角島がそう言った瞬間、遠くの空にうっすらと逆巻く光の筋が走った。
それは光のようでいて、影でもあり――まるで時間そのものがひび割れているようだった。
「こっちへ。」
角島が先導する。彼女の目は迷いなく、ある一点を見据えていた。
彼らがたどり着いたのは、崖の下にぽっかりと開いた洞窟。
「ここ……?」
特牛が、おずおずと洞口を覗き込む。
「……西ノ楔の伝承にある、“喪の洞(ほうのほら)“だ。
時間が流れなくなった、灯火の墓場――って記されていた。」
神子元島が、巻物の一節を読み上げた。
“時、止まるとき、光は還る。
忘れられし火は、影に溺れ、
西の口より、過去の潮が逆巻く。”
「つまりここが、“逆光”の始まり……?」
観音埼の問いに、角島は無言で頷いた。
彼の瞳に、一瞬、過去の影がちらついたように見えた。
「……昔、ブラントンの灯台がまだ“ただの灯”じゃなかった頃……
“逆光”を目にした者がいたって言われいる。
振り返ったら駄目なのに、振り返って……“失くした”んだ。」
部埼が洞窟の奥へ歩み寄る。
「何を失くした?」
「仲間だよ。……そして、“自分自身”も。」
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