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一気に暇になってしまったコユキは、目の前に置かれたお菓子に集中する事にした様だ。
いつも以上のスピードでお茶請けのお菓子を食べ続けるコユキ、ものの数分で目の前の菓子盆は空になっていたのであった。
渋めの緑茶を飲む事で一旦口中をリセットさせたコユキの鼻が、何やら甘く香ばしい空気を捉え、その大元に向けて惹き付けられる様にフラフラと足を運んでしまうのであった。
辿り着いた場所は御馴染みのダイニングキッチンであった。
檀家さんの女性達がお寺のイベント等でお弁当を使う以外では善悪が毎日の炊事に使っている場所だ。
コユキと善悪は特別な理由が無い限りこの場のテーブルを使って食事を取ることは無く、いつも出来上がった料理を居間に運んで頂くのが常である。
その、使用頻度が極端に少ない台所に置かれたダイニングテーブルの上に、コユキをここまで惹き付けた美味しそうな香りの正体と見られる物体がアルミホイルに包まれて置かれていたのであった。
善悪はシンクの横でこちらに背を向けて立っていて、少し腰を屈めてどうやら集中しているらしくコユキの来訪にも気がついていない様だ。
このアルミ箔の中身は一体どんなご馳走だろう? そう考え始めるともう一時も我慢が出来なくなってしまったコユキは、テーブルの上にそっと手を伸ばすが、
カカカッ!
「ひぃっ!」
差し出されたコユキの右手、その人差し指、中指、薬指、小指、それぞれの間に一本づつ、善悪愛用のスローインナイフが突き刺さり、慌てて右手を引いたコユキに善悪が話し掛けるのだった。
「全く、油断も隙も無いのでござるな、そんなにお腹が空いてるなら、最初に言えば良かったのに、でござる、お見合いでご飯食べたんじゃないの? でござる!」
コユキは照れ笑いを浮かべながら答えた。
「てへへ、ちょっと中身を確認しようと思っただけなのよ、んでも空腹って所は否めないわね、なんか気取ったご飯屋さんで、味は兎も角量がねぇ、分かるでしょ?」
「なる、それもそうでござるか、んでもそれは明日用、一日置いたほうが美味しいから食べちゃダメでござる、もうチョットだけ待ってくれれば美味しいケーキの完成でござるから、それをドウゾ、んね♪」
納得し居間に戻る前に念を押すコユキ。
「頼んだわよ善悪、急がないと飢え死ぬかも知れないのよ」
つっ! 超大盛ラーメン八杯……
しかし、その事実を聞かされていない善悪は人の良い笑顔で答えるのであった。
「りょ! ちとお待ちをぉ~」
そう言ってシンクの脇に戻った善悪はクリームの詰まった絞り器を握り込み、二段のスポンジをスライスした苺と細かくカット済みのパパイヤ、生クリームの三色で彩った、デコレーションケーキの上部を素早く飾り付けていくのであった。
クリームを絞りきると、仕上げにパパイヤをレモン汁と一緒にミキサーに掛けたソースを回しかけ、丸ごとの苺を十二個、時計盤の文字のように配列させて出来上がりである。
善悪はレースペーパーごと、丈の低いケーキスタンドに移すと、余った苺と一本のフォークを脇に添えて、コユキの待つ居間へと持って行くのであった。