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色変わりの刀
椿彩の担当刀鍛冶が、最終選別後に撰んだ玉鋼で打った刀を届けに蝶屋敷へとやって来た。
笠の淵にぐるりと風鈴をぶら下げた男は、自分の打った刀が何色に染まるのか楽しみで仕方なかった。
以前、“赫灼の子”だから赤くなるだろうと期待した隊士の刀は、あまり前例のない漆黒に染まったので、ひどくがっかりしたものだ。
「あっ、鋼塚さん!つばさの日輪刀を持ってきてくれたんですね!」
今まさに想起していた、刀を漆黒に染めた子どもと対面する。
「うるせえよ。大体なんでお前がここにいるんだ。サボってんじゃねえぞ」
「今日は非番なんですよ。それに、鋼塚さんが来るって聞いて楽しみにしてたんです。つばさの日輪刀が何色になるのかも気になるし、俺も見たいです!」
「ふんっ、勝手にしやがれ」
頼んでもいないのに、炭治郎が鋼塚を椿彩のいるところへ案内する。
少しずつ機能回復訓練を受け始めた椿彩は、鋼塚が来る時間で訓練を中断し、客間で待っていた。
「失礼する」
「こんにちは、鋼塚さん。お世話になります。鉄珍様は、変わらずお元気ですか?」
「ああ。相変わらずだ、あのジジイは」
鋼塚としのぶが軽く挨拶を交わす。そして、椿彩も姿勢を正して自己紹介をする。
『初めまして、鋼塚さん。夏目椿彩と申します。私の刀を打ってくださってありがとうございます! 』
「…!」
この子が?
まだほんの子どもじゃないか。…いや、 しかしあどけなさは残るものの、凛とした表情をしているな。
長い髪を後ろで1つに束ね、蝶の髪飾りを着けている。
肌は白く、日本人にしては明るい茶色の瞳。
愛想よく微笑む薄桃色の唇。
「…ああ、まあ、とりあえず刀を見てくれ」
鋼塚にしては珍しくしどろもどろな口調で刀を手渡す。
「つばさ!何色の刀になるんだろうな。楽しみだな!」
「つばさちゃん可愛いから、刀もきっと可愛いピンク色とかじゃないかな!いやでも何色でも可愛いよ!」
「早く見てえ!!」
いつの間にか善逸と伊之助もそこにいて大はしゃぎ。
椿彩も内心ドキドキしながら、刀を静かに鞘から抜いた。
『わあ…綺麗……』
鋼塚の打った刀を見て、その滑らかな美しい刀身にうっとりする椿彩。
「早く色変われ!」
伊之助が待ちきれず騒ぎ立てる。
椿彩の刀が、じわじわと色を変えていく。
銀色の刀身が、透明感のある乳白色に。
しかしよく見ると、その中に青や黄色や緑、紫、橙、桃色など、様々な色が光の反射で顔を出す。
「何だこれは……。今まで見たことない色だ……」
これまで何百という数の日輪刀を打ってきたが、こんな複数の色が出る刀は初めてだった。
『わあ……!』
「すごい…。こんな色の刀、初めて見ました……」
相変わらず刀に魅入っている椿彩。
しのぶも珍しそうに目を輝かせている。
「綺麗な色だな!」
「つばさちゃんの綺麗な心がよく表れた綺麗な刀だね!」
「すげえ!すげえ!!色んな色に光るぞ!!」
炭治郎、善逸、伊之助も興奮気味に感想を述べる。
鋼塚は予想の遥か斜め上の結果に戸惑っていた。
今まで見てきた刀はどれも1色か、2色の刀を持つ宇髄天元や不死川実弥、我妻善逸のものでもせいぜい模様が浮き出ている程度だ。
それが椿彩が初抜刀した日輪刀は、乳白色の地に、角度によりいくつもの色が光を放つ。
前例の全くない色だ。
日輪刀は、持ち主の使う呼吸により色が変わる。
聞けばこの“夏目椿彩”は、まだどの呼吸を極めていくか、模索している段階とのことだ。
彼女の刀のように様々な色に輝くのは、それだけ何の呼吸にも順応しやすいということなのかもしれない。
この娘…ただの子どもと思っていたが、もしかしたらとんでもない実力の隊士に化けるのでは……。
そうなれば俺もこの娘の刀鍛冶として鼻が高い。
鋼塚はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
『鋼塚さん!』
椿彩の明るく弾む声に、はっと我に返る。
『こんな綺麗な刀を作ってくださってありがとうございます!大事に大事に使います!』
鞘に収めた刀をぎゅっと抱き締めて花が咲いたように笑う彼女に、不覚にもキュンとさせられた鋼塚だった。
「お、おう。頑張れよ(?)」
しのぶと、鼻の利く炭治郎、耳のいい善逸が鋼塚の普段と違う様子を感じ取り、本人にバレないようこっそり笑う。
風鈴のついた笠を被り、涼やかな音色を響かせながら、鋼塚は来た時よりも更に軽い足取りで刀鍛冶の里へと帰っていった。
「羨ましいぜ!つばさだけ色んな色でずるい!俺もタマムシみたいな刀欲しい!!」
『たっ、たまむし……』
ひと目で気に入った自分の刀をまさかの虫の羽色に比喩された椿彩はショックのあまり固まってしまった。
「おい、伊之助!虫に例えるとか有り得んだろ!つばさちゃん固まっちゃったじゃないか」
「まあまあ、善逸。伊之助に悪気はなさそうだし。…つばさ、気にすることないよ」
『う、うん……』
しのぶがクスクス笑いながら口を開く。
「椿彩の刀は本当に珍しい色ですね。伊之助くんはタマムシに例えましたが、タマムシはその美しさから、昔からとても縁起のいい虫として人気だったんですよ」
さすが蟲柱。詳しい。
『あ、そういえば法 隆寺の玉虫厨子には装飾の金具の下に本物のタマムシの羽が敷き詰められてたって聞いたことがあります。そのくらいタマムシの羽の色って昔の人には魅力的でありがたい色だったんですね』
「そうです。椿彩は物知りですね。タマムシも美しい色ですが、私は椿彩の刀は蛋白石のようだと感じましたよ」
「「「たんぱくせき?」」」
炭治郎、善逸、伊之助が聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「英語では“オパール”といいます。光や角度によって様々な色に光り輝く宝石で、椿彩の刀のように乳白色の地のものから、黒の地、褐色の地のものもあるんですよ。私は持っていませんが、もしかしたら宇随さんならオパールの装飾品を持っているかもしれませんね。派手なのが好きだし」
派手という理由でオパールを持っていそうだと言われる宇随。
「おぱーる見てみてえ!!」
「そうだな、今度宇随さんに聞いてみような」
はしゃぐ伊之助を優しく宥める炭治郎。
「さあ、椿彩。あとは隊服が仕上がるのを待つのみですね」
『はい!楽しみです』
「隊服姿のつばさちゃんもきっと可愛いんだろうな〜!」
もし、椿彩の隊服が恋柱のようなものだったら、躊躇なくそれに灯油を掛けて燃やすよう彼女に言わなければと思っているしのぶだった。
つづく
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