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馬車が学園に到着する頃には――。

すっかりと暗くなってしまった。


「んー! よく寝たわっ」


目が覚めると、沙織は馬車で凝ってしまった身体をほぐすように、ぐーっと伸びをした。


『もうすぐ、学園に着きます。疲れは大分取れましたか?』


「ええ! すっかりよ。乗り物って何でこんなに眠れるのかしらね? ……それにしても、明日まで休みで良かったわ。こんな遅くに帰ったのが、ミシェルやカリーヌ様にバレたら大変だもの」


リュカ姿のシュヴァリエは、クスッと笑ってヒゲを揺らす。


『今日はもう遅いので、あの罠は私がこのままステファン様にお届けして来ます』


「悪いわね、お願いするわ。明日、私もステファン様の所に行くから」


学園の門を抜けて馬車が到着すると、リュカは膝の上からストンと下りた。


馬車が止まり扉をあけてもらうと――。

スッと沙織の前に手が差し伸べられた。従者が手を貸してくれるのかと思ったら。


「サオリ姉様、随分と遅いお帰りですね?」


差し出されていたのは――ミシェルの手だった。


「ふぇっ!? み、ミシェルっ! 何でっ??」


少し怒りの含まれた、口角だけ上げた笑みを浮かべたミシェルは答える。


「何で……では、ありません。あの森に向かわれたのですから、心配するのは当然でしょう?」


声のトーンが変わらないミシェルは、逆に怖い。


「し、心配かけて、ごめんなさいっ! ちょっと、予想より森が深かったのよ」


「怪我は、していませんか?」


「ええっ、全然大丈夫よ! シュヴァリエが注意深く案内してくれたから」


ピクリとミシェルの眉が動く。


「……シュヴァリエ? それが、ステファン様の助っ人ですか?」

「ええ、そうよ」


(何だろう……? 言い方にトゲがある?)


「では、その者は何処へ?」

「……あっ!」


(や、やばい……。もし、シュヴァリエがリュカだとバレたら! でも、いま姿を見せても……見た目はステファンだっ!)


沙織の全身から冷や汗が吹き出してくる。


「…………サオリ様」


(えっ!?? 姉様呼びじゃない?)


じりじりと、近付いてくるミシェル。沙織も思わず後退り、いつの間にか後ろの壁で逃げ場を無くす。


――ドンッ!

と、ミシェルの両手が壁につき、腕に挟まれ左右どちらにも逃げられない。


(ひえぇ……こ、これは! 前に流行った、壁ドンではっ!?)


初めて壁ドンされたトキメキよりも、ミシェルの怒りが怖すぎる。


「これ以上、勝手に危ない事はしないでください。ちゃんと送り届けない助っ人は、信用なりません。次は、僕が付き添いますからっ」


「……え。いや、でも……」


ミシェルの顔が段々と近付いてくる。

突然の事で、ビクッと身が強張った。


――とその時。ミシェルの腕を誰かが掴んだ。


「ミシェル様。遅くなってしまい、ご心配をお掛けしたこと大変申し訳ありません」


(――なんで!!)


その声は、シュヴァリエだった。

ミシェルはガバッと声の主を見る。


全身黒の装束を身に纏った姿で、シュヴァリエは立っていた。忍者みたいに、顔も目以外は覆面状態だ。

シュヴァリエは、壁からミシェルの腕を下させ、沙織を解放した。


「私は、王家直轄の影で御座います故。姿を見せずにサオリ様をお守りいたしました。顔をお見せ出来ずに、申し訳ありません」


「なっ!? 影……だと?」


ミシェルは、怪訝そうにシュヴァリエを見た。


(それはそうよね……いくら何でも、私に王家の護衛がつくのは――不自然過ぎだわ)


けれどシュヴァリエは動じず、こそっとミシェルに耳打ちをした。

ミシェルは眉を上げ驚く。それから、納得したのか頷いた。


(シュヴァリエは、ミシェルに何を言ったのかしら? 私には聞こえないようにしているわ……)


スッと、シュヴァリエはミシェルから離れた。


「私はこれにて失礼致します。サオリ様を寮までお願いいたします」


それだけ言うと、一瞬でシュヴァリエは消えた。

クルッとミシェルは振り返り、沙織に向かって手を出した。


「では、サオリ姉様。寮へ向かいましょう」


(これは、エスコート? ……さっきまでのは何だったんだ?)


余りにも様子が違う。すっかりいつも通りのミシェルに戻っていて、沙織の頭の中は疑問だらけだった。


二人で寮に向かいながら歩いていると、ミシェルだけがここで待っていた事に気がついた。


「ねえ、ミシェル。カリーヌ様は寮に居るのかしら?」


ミシェルはチラッと沙織を見た。


「いいえ。カリーヌ姉様はまだアーレンハイム邸です。明日、僕が迎えに行って来ます」


「えっ!? じゃあ、私の為にお茶会終えてから、わざわざ寮に帰って来てくれたの?」


「……まあ、他に用事もあったので」


「ミシェル、ありがとう!」


驚いてお礼を言うと、プイッとそっぽを向いた。どうやら、ミシェルは照れているのか、ちょっとだけ可愛かった。


寮に着くと手を離し、ちゃんと沙織が寮に入るまで見送ってくれた。

中では心配したステラが待っていてくれて、少し小言を言われたが……。無事に帰って来たことにホッとしていた。


(スマホがあれば、便利なのに……)


連絡ツールの無い世界の不便さを実感した。


部屋に戻って、ゆっくりと湯浴みをする。そんなに疲れてないと思ったが、足を伸ばすとジン……として気持ちが良かった。


湯船の中で、今日の出来事を振り返って考えた。

死の森、魔獣、壊れた罠、アレクサンドルの形跡の可能性、シュヴァリエのこと。


(あれ? さっきの壁ドン……。私、ミシェルにキスされそうになった? いや、まさか――。その後のミシェルは普通だったし、気のせいだよね。きっと)


まるで湯当たりしたみたいに、顔が熱くなる。沙織の頭は混乱していた。

悪役令嬢は良い人でした

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