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翌日――。
沙織はステファンの研究室へやって来ていた。
目の前には、資料に囲まれて座るステファンと、その背後にシュヴァリエが立っていた。二人揃うと同じ顔で、まるで双子がいるようだった。
(なんだか……。二人のちょっとした表情とか、仕草や立ち振る舞いで、見分けがつくようになってきたかも。リバーツェになった時にも違いが判るし。……慣れって凄いわ)
二人を眺め、そんな事を考えながらステファンの手が空くのを待つ。
沙織がここへ来た理由の一つは、森から持って帰ってきた、壊れた罠。それについて、確認してもらった結果を知りたかったから。
だか、その前に気になっていた事を尋ねてみる。
昨夜の、シュヴァリエとミシェルのやり取りについて、教えてもらいたかった。
シュヴァリエはミシェルに――。
アレクサンドルが行方不明になっていている事を伝え、森を捜索しに行くついでに沙織の護衛をしたと言ったのだ。
「なるほどね、そういうこと。道理でこそこそと……私に内緒で話していたのね」
アレクサンドルの件は、もうある程度の地位の者には伝わっているので、ミシェルの耳に入るのも時間の問題だった。
確かに、王家の影なら相当な手練れなので、一緒に行ったら安全だ。
それで、ミシェルは納得してくれたらしい。まさか、沙織もアレクサンドルの件を知っているとは思わずに。
(シュヴァリエは、あの時の状況をどう見たのかしら?「私って、ミシェルに迫られていた?」なんて訊けないし……。うーん、モヤモヤする)
「寮への到着がかなり遅くなったようですね。ステラに、だいぶ叱られてたみたいでしたが。大丈夫でしたか?」
「ええ、ステファン様……って、どうしてそれをご存知なのですか!?」
「それは、シュヴァリエが、貴女が寮の中に入る迄を見届けたからですよ」
当たり前だとばかりに、ステファンは言った。
(……!? シュヴァリエは、ミシェルに頼んだけど到着まて見守り続けてくれたの? やはり……あのやり取りを、心配してくれていたのかしら?)
思わずシュヴァリエに視線をやると、考えている事が分かったのか、黙って優しく微笑んだ。
「それで、サオリ様が持って帰ってこられた罠ですが。アレクサンドルが、無理やり解除して壊れた……そう結論付けました」
どうやらあの罠は、決められた一定の魔力の量を、鍵穴にきっちり流すことで解除する仕組みらしい。アレクサンドルはそれを、目一杯の魔力を勢いよく流し込み、破壊してこじ開けられていた。
なぜアレクサンドルの魔力だと判明したか?
それは、魔封じの仕組みがある罠だったからだ。魔力を封じ込める部分に、王族特有の魔力が微量だが残っていたらしい。
(じゃあ、あの血は……)
アレクサンドルが怪我をしたのかと思ったが、ステファンは違うと言った。付着していた血痕は、アレクサンドルの物ではなく、獣人の血だったそうだ。
つまり、アレクサンドルは何らかの理由で、獣人を助けた……そう考えると辻褄が合う。
「では、アレクサンドル殿下は獣人の村に?」
ステファンは首を横に振った。
「そこまでは、断定できません。ただ、獣人の村は隣国の領地です。勝手に捜索もできませんから、王の影を使って調べると同時に、隣国へ協力を求めます。幸い隣国とは、近い内に友好関係を結ぶ予定ですから」
「そうなのね。ステファン様にはシュヴァリエがいるじゃない? アレクサンドル殿下に、影は居なかったの?」
「基本的に、影は王直轄の部下です。国王ではない王太子には影は付きません。多分……僕の場合は、国王の命令で影が付いて居るのだと思います」
養子に出されたステファンの様子を把握する為に――そう複雑そうな表情で、ステファンは答えてくれた。
「では、アレクサンドル殿下の決してことは、王家に任せておけば良いのね?」
「はい。国同士の問題もあるので、下手に関われかませんから」
(じゃあ、次はいよいよステファンの件ね!)
「ステファン様、呪いについて詳しく教えて下さい」
はあぁ……と、ステファンは溜息を吐くとテーブルに大きな地図を広げた。
そして、呪いの祭壇があるであろう場所を指差した。
「僕が調べた結果、ここにそれがある筈です」
そこは死の森や国境門の方向ではなく、反対にずっと進んだ先の山の中だった。
ちょうど、この部屋の窓から見えるかなり遠い山。以前、ステファンがジッと見ていた山だった。