テラーノベル
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それから数日後。
けれど、二人が付き合っていると知ったあとも、勇斗と仁人は何も変わらなかった。
楽屋では普通に話して、普通に笑って、いつものように言い合う。
勇斗が仁人にだけ特別に甘くなるわけでもなければ、仁人が勇斗にだけ違う態度を見せることもない。
少なくとも、メンバーの前では恋人らしいところなんて一度も見せなかった。
あまりにも今まで通りで、舜太は時々、本当に付き合っているのだろうかと思うことさえあった。
もちろん、仁人本人がインスタライブで言ったのだから、疑っているわけではない。
ただ、目の前にいる二人からは、恋人という感じがまったくしなかった。
でも、それがよかったのだと思う。
もし、付き合っていると知った途端に二人の距離が急に近くなったり、今まで見たことのない姿を見せられたりしていたら、もう少し戸惑っていたかもしれない。
けれど、何も変わらなかった。
勇斗は勇斗で、仁人は仁人。
今までと同じだったからこそ、二人が付き合っているということも、思っていたよりすんなり受け入れられた。
そんなある日。
仕事の合間に飲み物を買いに出ていた舜太は、何も考えずに楽屋の扉を開けた。
「おつ――」
声が止まった。
「……え。」
楽屋には、勇斗と仁人しかいなかった。
二人はソファに並んで座っていた。
ただ、それだけなら何もおかしくない。
いつもの光景だ。
けれど、何かが違った。
仁人が何かを言ったのか、勇斗が小さく笑う。
「何笑ってんだよ。」
「いや、別に。」
「絶対なんかあるだろ。」
「ないって。」
そう言いながらも、勇斗はまだ笑っている。
仁人が少し眉を寄せた。
「何だよ。」
「仁人だなと思って。」
「は?」
意味が分からない。
そんな顔をした仁人を見て、勇斗の目元がまた柔らかくなる。
「……何それ。」
「そのまま。」
「意味分かんねえ。」
呆れたように言いながらも、仁人は離れなかった。
舜太は、扉に手をかけたまま動けなかった。
何これ。
何か、いつもと違う。
会話だけを聞けば、いつもの二人だ。
でも、勇斗の顔が違う。
仁人を見る目が、やけに優しい。
それに、仁人もそんな勇斗を嫌がるわけでもなく、当たり前みたいに隣にいる。
勇斗がゆっくり手を伸ばした。
仁人の頬に触れる。
親指で、頬を軽く撫でる。
「……何。」
仁人が小さく言う。
けれど、その手を払わない。
勇斗も何も答えなかった。
ただ、仁人を見つめたまま少しだけ顔を近づける。
仁人も動かなかった。
目を逸らすこともなく、勇斗を見ている。
そして、ゆっくり目を閉じた。
「……。」
舜太の目が見開かれる。
そのまま、二人の唇が重なった。
ほんの短いキスだった。
けれど、舜太には十分だった。
というか。
キスする前から、十分すぎた。
「……え?」
思わず声が漏れた。
その瞬間、二人が離れる。
勇斗と仁人が同時に扉を見る。
舜太と目が合った。
「……。」
「……。」
「……。」
三人とも固まった。
舜太はまだ扉に手をかけている。
仁人の頬には、ついさっきまで勇斗の手が触れていた。
そして、その勇斗の手もまだ完全には離れていない。
舜太はゆっくり瞬きをした。
「……何しとんの。」
口から出たのは、それだった。
仁人の顔が一気に赤くなる。
「……っ」
勇斗の手を振り払うでもなく、何か言い返すでもなく。
反射的に。
勇斗の胸元へ顔を押しつけた。
「……。」
舜太がまた固まる。
待って。
何で、そっちに隠れるん。
しかも、勇斗も勇斗だった。
一瞬だけ驚いた顔をしたあと、すぐに仁人の肩へ腕を回す。
そのまま自分の方へ少し引き寄せて、舜太から隠すように仁人の身体を包んだ。
「……。」
舜太は静かに視線を逸らした。
無理。
さっきのキスより、今の方が無理。
「……舜太。」
勇斗が呼ぶ。
「はい。」
「びっくりした。」
「それ俺のセリフや。」
「だよね。」
「何で、はやちゃんがびっくりしとるん。」
勇斗が少し笑う。
「急に入ってきたから。」
「楽屋やぞ?」
「うん。」
「俺の楽屋でもあるんやぞ?」
「そうだね。」
「普通に入るやろ。」
「うん。」
全部肯定するくせに、仁人を離す気はないらしい。
そのことに気づいて、舜太はまた何とも言えない気持ちになった。
「……じんちゃん。」
「呼ぶな。」
勇斗の胸元から即答が返ってきた。
「何で?」
「今は呼ぶな。」
「いや、何で俺が気遣わなあかんの。」
「うるさい。」
「俺なんもしてへんやん。」
「今は黙れ。」
完全に八つ当たりだった。
けれど、声はいつもの仁人なのに、まだ勇斗の胸元に顔を隠している。
その組み合わせが、舜太にはどうにも処理できない。
「……じんちゃん。」
「だから呼ぶなって。」
「俺、一個だけ言ってええ?」
「嫌だ。」
「まだ何も言ってへんやん。」
「どうせろくなことじゃねえだろ。」
「いや。」
舜太は二人を見る。
そして、さっきまで見ていた光景を思い出した。
勇斗が仁人を見つめて、頬に触れて。
仁人も当たり前みたいに受け入れて、そのままキスをした。
今まで一度も見たことがない二人だった。
「……ほんまに付き合っとったんやな。」
「……。」
仁人がゆっくり顔を上げた。
耳まで赤い。
けれど、眉間にはしっかり皺が寄っている。
「は?」
「いや、知っとったよ?」
「じゃあ何だよ。」
「インスタライブも見たし、おめでとうも言ったし、応援もしとる。」
「……ありがと。」
「でも。」
舜太は二人を見比べた。
「全然、恋人っぽくなかったやん。」
仁人が眉を寄せる。
「別に仕事中に出す必要ないだろ。」
「そうなんやけど、ほんまに何も変わらんかったから。」
「だから?」
「たまに、ほんまに付き合っとるんかなって思うくらい普通やったんよ。」
「なんでだよ。」
「だって普通やもん。」
勇斗が少し笑う。
「普通でいいじゃん。」
「そう。それがよかったんよ。」
舜太自身、今なら分かる。
二人が付き合っていると知ったあとも、何も変わらなかった。
だから、思っていたより簡単に受け入れられた。
でも、さっき初めて見た。
自分たちの前では見せなかった、恋人としての二人を。
「……今日初めて。」
舜太が言う。
「何。」
「ほんまに恋人なんやって思った。」
「今さら?」
「頭では分かっとったんやって。でも。」
舜太は仁人を見る。
「はやちゃんにあんな顔で見られとるじんちゃん、初めて見たし。」
「……。」
仁人が黙る。
「頬触られても普通にしとるし。」
「舜太。」
「そのまま目閉じるし。」
「舜太。」
仁人の声が低くなる。
「はい。」
「それ以上言ったらぶっ飛ばす。」
「何で俺が怒られんの!?」
「うるせえ!」
勇斗が隣で吹き出した。
「お前も笑うな!」
「ごめん。」
「絶対思ってねえだろ!」
舜太は、そんな二人を見ながら小さく息を吐いた。
さっきまでの甘い空気は、もうどこにもない。
いつもの勇斗と仁人だ。
仁人はもう勇斗から離れていて、さっきまで胸元に顔を隠していたのが嘘みたいに舜太を睨んでいる。
勇斗も、そんな仁人を見て笑っている。
見慣れた二人。
なのに。
舜太にはもう、さっきまでと同じには見えなかった。
勇斗が仁人をあんなふうに見ることも。
仁人がその手を当たり前みたいに受け入れることも。
誰も見ていないところでは、あんなふうにキスをすることも。
全部、知ってしまった。
「……やっぱ。」
舜太が呟く。
「何だよ。」
仁人がまだ少し不機嫌そうに見る。
「二人が付き合っとるんは、もう全然ええんよ。」
「うん。」
「応援もしとるし、幸せになってほしいと思っとる。」
仁人の表情が少しだけ緩む。
「……ありがと。」
「でも。」
「何。」
舜太は二人を交互に見る。
「こういう二人見るんは、まだ無理やわ。」
「こういうって何だよ。」
「今の全部。」
「ただキスしただけだろ。」
「その前からや!」
思わず声が大きくなる。
仁人が目を丸くした。
「前?」
「あの空気!」
「……何だよ、あの空気って。」
「はやちゃんがじんちゃん見とった顔から、頬触っとったとこから、じんちゃんが普通にそれ受け入れとったとこから全部!」
「お前、どんだけ見てんだよ!」
「見たくて見たんちゃうわ!」
勇斗がとうとう声を出して笑った。
「舜太、めっちゃ見てるじゃん。」
「はやちゃんも笑うな!」
「ごめんごめん。」
「絶対楽しんどるやろ!」
「ちょっとね。」
「ほら!」
仁人が勇斗を睨む。
「お前も調子乗んな。」
「俺、何もしてないじゃん。」
「してるだろ。」
「何を?」
「……知らねえよ。」
「何それ。」
勇斗がまた笑う。
舜太は深く息を吐いた。
付き合っていると知るだけなら、何ともなかった。
むしろ、二人が何も変わらなかったからこそ、思っていたより簡単に受け入れられた。
でも。
恋人としての二人を目の前で見るのは、まったく別だった。
「……次から。」
舜太がぽつりと言う。
「何?」
「二人きりの楽屋入る時、ちょっと音立てるわ。」
仁人が眉を寄せる。
「普通に入ってこいよ。」
「今日みたいになるやん。」
「ならねえよ。」
「今日なったやん!」
「今日はたまたまだろ!」
「そのたまたまに俺が当たったんや!」
勇斗がまた笑う。
「舜太、運悪かったね。」
「誰のせいやと思っとるん!」
「俺?」
「二人や!」
楽屋に勇斗の笑い声が響く。
その隣で、仁人はまだ少しだけ耳が赤い。
さっきまで。
その仁人が勇斗の胸元に顔を隠していた。
思い出してしまって、舜太はそっと視線を逸らす。
二人が付き合っていることには、もう慣れた。
ただ。
恋人としての二人に慣れるには。
もう少し時間がかかりそうだった。
#そのじん
笑う門には福来る
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1,337
#nmnm注意
nanana

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コメント
2件
ひたすらに可愛い…✨ もう、全員可愛いです!!✨ それぞれの反応を見れて嬉しいです💕 素敵な物語を、ありがとうございます!
みぅだよ🤍 番外編3、読んだよ…。 舜太、完全にビビらせてもろたな(笑) でも、勇斗が仁人を「仁人だなと思って」って言いながら撫でるシーン、めっちゃ良かった。普段は変わらないのに、ああいう一瞬で「恋人」が見える空気がリアルで、こっちまでドキドキしたよ。 舜太の「こういう二人見るんはまだ無理」って叫び、めっちゃわかる…。でも、その後も変わらず怒鳴り合う3人が愛おしかった。次の話も楽しみにしてるね🌙