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角を引っ張られる感覚と、頭をつつかれる感覚。レイブランとヤタールか。
〈起きて頂戴!ノア様!家に着いたわよ!〉〈みんなノア様が起きるのを待ってるのよ!〉
〈寛いでもらえた様でなによりだ。既に、顔合わせは済んでいる〉
なんと。ホーディの背に乗って直ぐに意識を手放してしまったのは分かる。だがまさか、家に着くまで熟睡していたうえに、全員顔合わせが済んでいるとは。本当に私は一度寝ると、自力では碌に起きられないようだ。
ホーディの背から降りて、彼を見上げる。
「ここが私の家だよ。今は寝床しかないけど、これから必要になったものや便利だと思ったものを思いついた次第、色々増やしていこうと思う」
〈主の体を考えると、随分と大きなものを作ったな。我でさえも余裕で囲ってしまえる〉
〈ホーディはおっきいから入れないわ!可哀そうよ!〉〈入り口が狭くてホーディが入れないのよ!ホーディが使える入り口を作るのよ!〉
言われるまでも無い。ホーディだけ家に入れないなど、認めるわけにはいかない。
資材は十分。早速作っていくことにしよう。どうせなのだ。”老猪”もここで暮らすことを前提に考えて、彼とホーディが使える扉を…いや、待てよ?いっそのこと、全員が使えるような扉を作れないだろうか?
そうだ。巨大な扉の内側に、さらに扉を付けていこう。まずはホーディのサイズと、”老猪”が入れるサイズ。私やウルミラが使えるサイズ。そしてフレミー、レイブランとヤタール、ラビックが使うサイズ。
全部で四つのサイズを作るとしよう。だが、その前に、だ。
「扉を作るのはもちろんだけど、その前にお土産を渡さないとね」
既に降ろされていた、氷漬けにされた魚の入った器を持ってくる。
〈氷だ!ご主人!これどうしたの!?〉
〈中に魚が入っているね。わざわざ私達のために捕ってきてくれたのかな?〉
〈ノア様のお気遣いに感謝いたします〉
魚に対する反応は上々だ。早速解凍していこう。
鰭剣を氷に突き刺して加熱する。ちゃんと温度を調節して、変に魚に火が通らないようにしないと。いや、それとも水を介して魚に火を通してみるか。全てとはいかないが、いくつかは試してみるのも良いかもしれない。
ともかく、今は彼らに魚を提供しよう。程よく解凍された魚を切り分け、それぞれ渡す。
皆食べ方はそれぞれ違うが、楽しんでくれているようだ。次は加熱したものも提供しよう。
〈熱を加えるとこんな感じになるんだね。脂が溢れてくるの、結構好きかも〉
〈あっつ!?けど、おいしい!でも冷めちゃうと味が落ちちゃうから、ボクは生の方が好き!〉
〈これはなかなか味わい深い…。他の食べ物でも加熱することで味や食感が変わるのでしょうか?〉
ラビックがふとしたように呟いた。ラビック、それは今はまずい。あぁ、やっぱりレイブランとヤタールが反応してる。
〈とっても興味深いわ!他の肉でも美味しいのかしら!?〉〈”死者の実”でもやってほしいのよ!きっと美味しいのよ!〉
〈落ち着け二羽とも、今は家の扉を作るのではないのか?〉
ナイスだ、ホーディ。騒ぎ始めた二羽を窘めてくれたことで、作業に移れそうだ。
いざ、作業を始めるとしよう。
扉の形状は両扉だな。押しても、引いても、どちらでも動くようにしよう。私の尻尾と鰭剣《きけん》に掛かれば造作も無い作業だ。むしろ、サイズが大きい分、細かい作業をする必要が無く以前扉を作った時よりも簡単である。
後は、同じ構造の物を小さくして作っていけばいい。多少細かい作業になるが、そう時間は掛からないだろう。
少しして、扉が完成する。辺りはすっかり暗くなっている。暗視が使える私には問題無いが、他の子達は周りが見えているのだろうか?
「私は周囲が見えているけれど、君達、今周囲を確認できる?」
〈バッチリよ!夜でも昼でも良く見えるわ!〉〈暗くても明るくても見えるのよ!遠くの物だって見渡せるのよ!〉
〈昼ほどではないが、見えないわけではないな〉
〈良くは見えないけど、臭いで大体分かるよ!〉
〈私は、まるで見えない状態です。ですが、聞こえてくる音や皆様の気配でおおよそ周囲の状況は理解できております〉
〈私は暗くても明るくても変わらないよ。今も良く見えてる〉
なるほど。見えていない子もいるが、別の方法で周囲の状況の確認は出来るのか。とはいえ、見えていた方が良いのではないだろうか?
「みんな、こういうものは必要だったりする?」
石材を小さく切り取って小石程度の大きさにする。小石に、『光る』意思を乗せたエネルギーを込めれば、小石が小さく七色に光り出した。
必要かどうかはさておき、光源の確保が出来たな。
〈綺麗じゃない!?こういうの好きだわ!〉〈気に入ったのよ!もっとないの!?〉
〈本当に主は多彩だな。これは、我には助かる〉
〈ちょっと眩しい…。寝るときは無い方が良いなぁ〉
〈私も、少々眩しく感じます。慣れれば問題は無いのでしょうが、就寝の際は消していただけるとありがたいです〉
〈私は気にならないよ。ノア様の純粋な力の光。とても綺麗だね〉
評価はラビックとウルミラ以外は好評、といったところか。家の天井隅にでも取り付ければ、ちょうどいい照明になるかな。
それはそれとして、扉の取り付けだ。
「今から扉を取り付けるから少し壁から離れていてもらうよ」
新しい扉を取り付けるため、今扉が付いている面の壁を、新しい扉の大きさにくり抜く。扉の接地面を少し掘って、下から持ち上げるように扉を壁に取り付ける。取り付け終わったら、くり抜いた部分を埋めて固める。
「扉が完成したから、ちゃんと使えるか試してもらえる?改善点があれば、その都度改善していこう」
扉は、問題無く機能したようだ。皆、スムーズに家の中に入っていった。
あ、そうだ!ホーディの寝床!
〈主の家の中はこうなっているのだな〉
〈寝床が快適よ!ぐっすり眠れるわ!〉〈ノア様と一緒に寝るのよ!ノア様は全然起きないのよ!〉
〈ボクも今日からここで寝るんだね!いつもの寝床より気持ちよさそう!〉
〈一度寝かせていただきましたが、地面に寝ていた時よりも快適です。ノア様が朝まで熟睡なされるのも、無理は無いかと〉
〈私は天井に巣を張っているからいいけれど、ホーディは流石にこの寝床では眠れないね〉
失念してた。先にホーディの寝床を用意してから会いに行くべきだったか。
今からホーディの寝床を用意するとしたらかなり時間が掛かるだろうな。何せ大きめとはいえ、私のサイズですら三日も掛かってしまったのだ。
ホーディが使用できる寝床となると、十日間くらいは掛かってしまうんじゃないだろうか?
「済まない、ホーディ。他のみんなにはちゃんとした寝床があるっていうのに。私が短慮だった」
〈我が主よ。そこまで気を使う必要は無い。もともと我は地面にそのまま寝ていたのだ。平らな床でも問題は無い〉
ホーディに謝罪をするが、ホーディは気にするなと言う。気にするに決まっているだろう!
良し、今の私の最優先課題は大きな寝床を用意してやることだ。ついでだ。後で勧誘する”老猪”の分まで作ってしまおう。仲間外れになど、してたまるものか。
木の布を作るための木の糸を作るために、木材の保管場所に移動しようとしたのだが。
〈ノア様待って。今日はもう寝よう?〉
〈ノア様!ラビックとウルミラが眠そうよ!〉〈一緒に寝るのよ!朝起きられなくなるのよ!〉
フレミーとヤタールから寝るように促されてしまった。というか、ラビックとウルミラが少しうとうとしている。
物凄く可愛い。うん、寝よう。明日から、気合を入れてホーディと”老猪”の寝床を作るのだ。
皆に囲まれて横になる。全身が温かくて、ふわふわで、フカフカで、本当に気持ちいい。幸せ。意識がまどろむ間もなく。私は眠りについてしまった。
角を引っ張られる感覚と、頭をつつかれる感覚。この感じ、レイブランとヤタールか。
〈ノア様!起きて頂戴!猪よ!猪が来たわ!〉〈向こうから来たのよ!猪が来たのよ!外でノア様を待っているのよ!〉
なんと。これは予想外だ。まさか向こうからこっちに来てくれるなんて。辺りを見渡せば、私とレイブランとヤタール以外は誰もいない。外で待っていてくれるようだ。
家の外に出れば、皆に囲まれて”老猪”が伏せて待機している。その姿からは恭しさを感じる。彼は、以前会った時も私に敬意を払っていたが、ここまでではなかった筈だ。何があった。
〈謁見までに大変時間が掛かりましたこと、心よりお詫び申し上げます。おひいさま〉
?
なんだって?