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「…寂しい、か…………」
春香さんはさっき、私が一人で寂しいと言っていた。
正直、そんな感情はなにもない。でもきっと、美輝ちゃんは私と話すことが出来なくて寂しかっただろう。こうやって美輝ちゃんの気持ちを知っていくのも悪くはない。
けれど、警察は邪魔なんだ。ざっといえば敵なんだ。私と美輝ちゃんの幸せな生活にとって、邪魔すぎる。
誰かの安全を守るために誰かの幸せを奪う。私だってそうしてきたから仕方がないとは思う。けれど、愛する人の綺麗な瞳を濁らせたくないのは当たり前だろう。
もし美輝ちゃんが危険な目に遭って、それがトラウマになって瞳が濁ったりしたら、きっと私を映してくれることはなくなくだろう。どうして幸せを守りたいだけなのに邪魔をするんだろう。どうして理解してくれないのだろう。
まあ、美輝ちゃんとずっと一緒に居られるなら私は、他のことなんてどうでもいい。
「きふちちゃん…出てきてよかった、かな…?」
そう言って私たちの部屋から出てくる美輝ちゃん。不安そうな顔をする美輝ちゃんに私は言った。
「うん。もう大丈夫だよ。あと、ごめんね。明日もあの人来るのと、もう一人来るから、また隠れてて欲しいんだ」
私が笑顔でそう言うと、うん、と不安そうに言ったあと、質問をしてきた。
「ねえ、なんでわたし、かくれなきゃいけないの?」
不安しかないんだ、美輝ちゃんは。さっきからずっと不安そうな顔で、声で私に話しかけるだけ。美輝ちゃんを不安にしたら駄目だ。絶対に。美輝ちゃんは私が守るんだから。
「…前に言ったけど、ら美輝ちゃんは生きてるから。私と違って。皆が美輝ちゃんを探してる。でも、誰かが美輝ちゃんを見つけると、一緒に居られなくなるの。だから、美輝ちゃんは隠れなきゃ駄目。私と美輝ちゃんの将来の幸せを守るためだから」
私が俯きながらそう言うと、美輝ちゃんの足音が近づいてくる。そして、美輝ちゃんは私を抱きしめた。
「そーなんだね…ありがとーね、きふちちゃん」
私よりも少し小さな体で私を暖かく抱きしめてくれる。その声が、言葉ひとつひとつが、体が、美輝ちゃんの全てが私の温もりになる。癒しや幸せを与えてくれる。
「…ありがとう、美輝ちゃん。私、絶対に美輝ちゃんを守る。守りたいし、守ってみせるから。だからずっと、私のそばにいて。私と一緒に幸せになろ?」
美輝ちゃんを抱き締め返して目を瞑り、幸せを噛み締める。
美輝ちゃんは絶対に私が守り抜く。美輝ちゃんの瞳を汚させたりしない。絶対、絶対に。
音のない昔の記憶なんてどうでもいい。殺した人も、警察も、春香さんも、美輝ちゃんのためだったら、どうだっていい。生きている邪魔者が居るなら、殺せばいいだけ。
「……うん。奇縁ちゃん、わたしも大好きだよ。ずっと、ずっと一緒にいて、愛してね……」
きふちちゃんは、わたしをあいしてくれているのか、しんぱいだった。それでも、わたしをまもってくれるって、そう言ってくれた。
わたしのことを、あいしてくれているから。そう言ってるんだ。
わたしを、大好きだって言ってくれたんだ。
わたしを、愛してるって。
ずっと一緒にいるって言ったんだ。
信じていいのか。
よくわからないけれど、しんじたい。
信じてみたい。
「……うん。奇縁ちゃん、わたしも大好きだよ。ずっと、ずっと一緒にいて、愛してね……」
わたしはきふちちゃんをぎゅっとして、そして、すごくちっちゃな声で言った。
「…だから…………、すて、っないで………」
なみだがぽろぽろ、こぼれそうでした。
「なんで一人で行ったんですか!?危ないですよ!!」
青也くんが帰ってきて話した時、私に向かって焦りながら言ってきた。しかも、私の肩を揺らしながら。
「いや、でも…ただの小さな女の子だったし…それにっ!明日青也くんと一緒に家に行くって約束しちゃったよ…!」
私がそう言えば、青也くんは動きを止めて俯き、弱々しく震えた声で言った。
「…もしも、春香さんが殺されたら……俺はっ……、町を守る理由も、生きる理由も……なくなる…。なにより…、春香さんが大好きだから………愛してるから…」
俯きながらもそう言う青也くん。
きっと、いつも恐怖で俯いているんだろう。それでも私を守るために、俯かずひたむきに頑張っているんだろう。
どれだけ自分の友達や知り合いが消息不明になり、小さな女の子に殺されたのかもと疑心暗鬼で、誰も信じられなくなっても、私を信じてくれる。私を守ってくれる。
「…青也くん、ごめんね。でも、ありがとう」
私は、私よりも背の高い青也くんを抱きしめて言った。
「私のこと、信じてくれて。私のこと、いつも守ろうとしてくれて」
私は青也くんみたいに強くはないけれど、青也くんみたいにはっきりと言えないけれど、青也くんと違って優柔不断だけど、私だって青也くんの力になりたいんだ。
「…でもね、私は弱いかもしれないけど、少しでも青也くんの力になりたいんだよ。あの時、私を助けてくれたから」
そう言って私は、抱きしめていた腕を離し、青也くんの両手を掴んだ。
「もし…もしだよ?奇縁ちゃんが沢山の人を殺してたとしたら、青也くん、大手柄でしょ?大丈夫、青也くんは私を守ってくれるから、私も青也くんを守るから」
私はそう言いながら、青也くんに笑いかけた。
「…絶対、絶対に守りますから……。出会った時みたいに、助けます。絶対に。もう春香さん一人だけを危ない目に遭わせる訳にはいきませんから」
そう言って次は、青也くんが私を抱きしめてくれた。私は優しくて温かい青也くんの言葉に、涙が溢れてきた。理由はよくわからないけれど、なんだか、出会った時みたいな解放感や感動を感じた。