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小戸は走り、前に出るが、アウナスの発する熱に怯んで立ち止まる。
「誰だ、小僧」
「お、小戸 啓政ですッ! 生命力って、寿命みたいなもんですよね!? 俺、契約しますッ!」
こいつ、正気か? 何の知識も無いのに悪魔と自ら契約しに行くなんて自殺行為だぞ。
「やめた方が良いぞ。悪魔との契約、その意味が分かっているのか?」
「うるせぇッ! お前、来るぞ、とか! 戦闘経験はある、とか! 実は有能ですみたいな感じがしてムカつくんだよッ!」
なんだこいつ。怖すぎるな。
「何でも良いから契約させてくれッ! それとッ、黄鋳ッ! お前、学校で一々ウザいんだよッ! ちょっと魔術が使えるからって、自分は他とは違うんですみてぇな雰囲気出して、他を見下してッ! さっきも俺のこと雑魚っつったろッ!」
そういえば同じ高校だったな。杖珠院は普段からああなのか。あいつもあいつだな。
「気持ち悪。じゃあ何でさっきそれを言わなかったの? 自分が雑魚だからでしょ。それなのに――――」
「良いだろう、小僧。その条件で契約だ」
小戸の頭に手を触れるアウナス。しかし、髪の毛は焼けず、小戸は呆けたような顔でアウナスを見上げた。
「何でも良いから、契約……だったな?」
にやりと笑みを浮かべ、アウナスの炎が、魔力が、小戸に流れ込んでいく。
「印章は無いようだが、まけてやろう」
「ぐ、ぅ、ぅぉおッ!?」
契約が進んでいくのを、俺はただ眺めている。というのも、どうするべきかまだ判断が付いていないのだ。向こうの世界なら、こんなバカは放置するか殺すかの二択だが、ここは地球だ。助けるべきか?
「契約完了だ、小戸 啓政。何でも良いという条件だったが……ククク、余りに哀れだからな。一つだけ願いを叶えてやる」
「う、ぅ……だ、だったら、俺に力をくれッ! こいつらとッ、俺を馬鹿にした奴らッ、全員分からせてやるッ!!」
「くッ、くくっ、醜悪だな! だが、良いだろう。願いは叶えてやる」
アウナスの体が溶け、ただの炎と化し、小戸の体に入り込んでいく。
「う、ォぉ、うぉおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
小戸の体から炎が噴きあがる。目が赤く染まる。その手に一本の長槍が握られる。
「は、ハハッ、ハハハハハハッッ!! お前ら、謝るなら今のうちだぞッ! 俺を舐めた黄鋳も、俺に謝らせた青木もッ、謝れッ! 今ならまだ許してやるッ! ハハッ、ハハハッ!」
「小戸……今のお前、親に見られたら恥ずかしくて死ぬぞ」
余りの様相に思わずそう口に出すと、小戸の赤い目が俺を睨んだ。
「ッ、お前もだッ! 全員ッ、全員地面に頭を付けて謝れッ! 跪いて許しを請うんだよッ、俺にッ!!」
「そういう語彙だけはあるんだな」
俺の頬を炎の槍が掠めた。あの悪魔本体の十分の一以下だな。憑依体にしても弱い。
「いい加減にしとけよ、お前……十秒だッ、十秒だけ待ってやるッ! その間に|首《こうべ》を垂れろッ!」
最近、痛々しい少年によく会うな。これが魔術や異能が普及してしまった現代か。人生経験を積まなくても、職務経験が無くても、大人を超える力がある。子供と大人の間にあった社会的な壁が、純粋な力のみで壊されてしまった世界。何とも言えないな。
「五秒だ……お前ら、マジで舐めんなよ。本気で全員殺すからな」
殺気と熱気を強める小戸に、緊張感が高まる。
「えぇ、どうする皆? 一旦、首垂れとく?」
「あぁ、それが良い。犯人を刺激するのは得策じゃない」
「犯人……野島さん、そういえば元警官だったわね」
仕方なしと膝を突いた乙浜の足元に炎の槍が突き刺さり、地面に穴を開けて消えた。
「ふざけるな」
小戸の表情は、憤怒に染まっていた。
「お前らッ、なに呑気に話してんだッ!? とっくに十秒経ってんだよッ! 何が首垂れとく? だよッ! 舐めんなよッ、舐めすぎなんだよッ!!」
小戸の身体中が炎に包まれる。さっきまで燃えていなかった小戸の制服にチリチリと火が付いた。制御が乱れてるな。
「クソッ、なんでだよッ! なんでッ、力を得ても俺は馬鹿にされんだよッ! 見下されんだよッ! 俺は強者になったんだよッ! 妬む側から、妬まれる側にッ!!」
制服が完全に炎上し、小戸の顔以外全身が炎に包まれる。赤い炎で隠れているが、その下はもう生まれたままの姿だろう。
「ッ、小戸さんッ! 落ち着いてくださいッ! 今ならまだ間に合いますッ!」
「何が間に合うんだよ青木ッ!! もう、間に合わねえんだよッ! 俺はッ、悪魔と契約したんだッ!! お前ら全員ぶっ殺して、それで終わりだッ! 何もかもッ!!」
自暴自棄とはこのことだな。まぁ、何が間に合うんだってのは分かるが。
「ねぇ、美咲。あの人……今、全裸だよね!?」
「うるせえぞ天利ィ!! 決めた、お前からぶっ殺す」
小戸が片手を上に掲げる。そこに炎が集まり、槍の形を成す。
「ッ、小戸! 貴方、本当に殺す気なのッ!?」
「そう言ってんだろうがッ!!」
後は放つだけ、だがまだ躊躇があるのか、撃ち放たない小戸。そんな彼の胸に、金属製の棒が突き刺さる。
「ぐッ、おッ、ぅ……?」
背後から近付き、それを突き刺したのは砂取だ。浮かんでいた炎の槍が霧散する。
「ハッ、ハハッ、やったぜオレはよぉッ! バカがッ、クソ根暗ァッ!! 雑魚が調子に乗るからそうなんだよバァーカッ!!」
「さ、とり……て、めェ……ッ!!」
小戸は膝を突き、砂取を睨んだ。