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気が付けば暴力的な鐘の音の奔流(ほんりゅう)の中、善悪は頭を抱えて号泣し始め、コユキも耳を塞いだ状態で必死に自我を保っていた。
「ソレ! マリョク、デテルヨ!」
「「「本当だ」」」
言われてコユキが自分の体を見ると、全身を包み込むように銀色の光りが纏(まと)わり付いている事がわかった。
更に胸の下辺りに意識を置きながら、動かそうと考えると動かせる事も分かった。
コユキは不思議そうに銀色の光りを右手の掌(てのひら)に集めてから、一瞬で左へ移し、その後、額に移動させてパアァと輝かしてから口にした。
「どう? 光ってる? 善悪みたい?」
コユキの問いに、ソフビ四人組みが、そっくりだとか、つるつるですよだとか、カッコイイだとか、ハゲまされますだとか適当におべんちゃらを言っていた。
そこにギリ正気に戻った善悪が合流し、コユキの後ろに立つと、背中に手を当ててから言った。
「では、両手にかぎ棒を握って、聖魔力を送り込んでみるのでござる、今回は使った魔力を拙者が補填(ほてん)するでござるよ」
コユキは念の為に善悪に聞いた。
「両手に同じ位送るって事で良いのかな?」
善悪は淡々と答えた。
「手じゃなくて、かぎ棒へ、でござるよ、と言うよりその神聖銀の方が掌より何倍も、聖魔力が流れ易くなっているのでござるよ」
そうまで言うのなら試してみようと、コユキはかぎ棒を自分の体の一部だと思う事にして、一気に銀色の光りを集めるようにイメージした。
直後、
「おわあぁ、な、何よ、これぇ!」
コユキの驚きの声が響き渡った。
驚いたのも無理は無い、コユキが手にしたかぎ棒は五十センチ位の長さに伸び、太さも日本の誇り、ナオミちゃんが、いつもコートに叩きつけるラケットのグリップ位になっていたのだから……
更に、かぎ棒の周囲には、なにやら神々しい銀色の光りの球体がハラハラと散り続けていて、ちょっと幻想的でもあった。
「うわあぁ、こいつは、凄いわねぇ」
感心一入(ひとしお)のコユキの背中から手を離した善悪が、本堂の床に腰を下ろして疲れたように溜め息を吐いた。
「フイィー、くたびれたでござるぅ、やっぱり出力量がダンチでござるな…… まるでマスタング、それもマッハⅠでござるな」
「え、どう言う事?」
振り返って訪ねるコユキに、善悪は慌てて声を掛ける。
「ああ、兎に角、一旦聖魔力を送るのをやめるでござるよ、そのままだとカラカラになってしまうのでござる」
鬼気迫った声を聞いて、直ちに聖魔力を止めると、かぎ棒はゆっくりと時間を掛けながら元のサイズに戻っていった。
それを確認してから、善悪はやっといつもと違い重かった口を開くのであった。
「あんな勢いで聖魔力を使ったら、普通の人間だったら、あっと言う間にミイラでござるよ? ミルラ! 分かるでござるか? マミーねマミー」
「マミーねぇ、そうなると結局どうなっちゃうの?」
「え、死ぬけど」
「は? し、死ぬの?」
「うん、そうでござるよ」
俄(にわ)かには信じる事が出来ず、回りのちっちゃい四人組みの方を見ると、皆当然の様に頷いている。
死ぬかもしれない事を、いや確実に死ぬ事を、この五人は当たり前の様にやっていると言うのだ、なんてドMなやつ等であろうか。
呆れているコユキに善悪が話を続けてきた。
「まあ、コユキ殿の場合、そもそもの分母が大きいから、さっきみたいに馬鹿みたいな出力を出せるのでござろうが、エネルギー切れに例外はござらぬ。 いざという時に困らぬ様に、頑張ってエナジーチャージを心掛けるのでござるよ」
真剣な表情から、善悪が至極真面目に言っている事を理解したコユキも又、真顔になって善悪に聞くのであった。
「ね、ねえ、エナジーチャージって具体的にはどうすれば良いの? エネルギーって良く分かんないんだけど…… あ、あと、次馬鹿みたいって言ったら殺すからね」
善悪は些(いささ)か呆れた様な表情になって答えた。
「えー、エナジーチャージは食べれば良いのでござるよ、エネルギーは、ほれ、コユキ殿を覆い尽くしたその脂肪でござるよ、何時も(いつも)言っているでござろ?」
言われてみれば、コユキにも得心がいく話しであった。
善悪はこの一件が勃発してから今日まで、事有る毎に『食べろ』だとか『油分が足りない』だとか言い続けていたし、最近は殊(こと)に食え食え発言が増えていた気がする。
しかし、そう言う理屈が有ったのならば、普通こちらサイドに説明が有って然る(しかる)べきであろうに、この坊主はそれを端折(はしょ)って悪びれた様子も見せていない。
コユキは溜め息を吐きながら心底思うのであった。
――――坊主としては立派な方らしいけど、一度も普通の会社で働いた事の無い人間てこう言う所あるのよね、全く嘆かわしい事この上ないわ
幼馴染として悲嘆に暮れる、職歴皆無のニートコユキ三十九歳の夏であった。
残暑は未だ元気一杯で列島を熱し続け、ここからの熱く厳しい戦いを暗示しているかの様であった。