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まだ俺ら兄弟に大きな亀裂が入る前————小学生低学年の頃。
「待って潤にい」
明るくて人懐っこくて、親や周りの大人から可愛がられている弟が大っ嫌いだった。
「潤にい!」
「ついてくんなよ 」
「やだ! ぼくも行く!」
「くんなって」
「やだー!」
いくら突き放してもついてくる馬鹿な弟はかなりうざったい。
親も弟の心配ばかりで、怒られるのはいつも俺。家の居心地は最悪だし、周りの大人だって口々に言うんだ。
『実里くんはいい子よねぇ』と。
〝は〟ってなんだよ。比べられて、嘲笑われて、いつだって哀れみの視線を向けられている。
だから、余計に突き放したくて、その視線から逃げたくて態度もどんどん悪化していった。
今思えばそんなことしてもなんの解決にもならないのに。それでも〝近づくな!〟って子どもなりの必死の抵抗だったんだ。
本当は誰か一人にでもいいから〝潤〟がいいって言ってほしかったんだと今なら思う。
実里があんな目に遭うことになった日。
俺はまだ小学五年生で、実里は四年生だった。
その日はお盆休みで祖父の家に親戚が集まっていて、いつものように険悪な雰囲気が漂っていた。けれど俺たち子どもは暇だから、近所の公園に遊びに行く。
武蔵が考えた忍者ごっことかいうかくれんぼみたいな遊びをしたり、個々で好きなことをして過ごすのが俺らの遊び方だった。
この日実里は他のヤツと楽しそうに遊んでいた。武蔵が連れてきたひ弱そうで大人しそうな泉。
「武蔵、喉かわいた」
和葉が立ち上がり、武蔵の背中を軽く蹴飛ばした。
「枯れる前に水分補給しに行くか! というか、痛い!痛い! 俺の足踏んでる!」
「喉かわいた」
「あ、向こう側の空が暗いな。雨が降るんじゃないか」
「……雨を飲めってぇのか?」
武蔵って年上になんて見えない。どっちかっていうと和葉の方が落ち着いてる。
「雨ってどんな味がするのか気にならないか」
「ならねぇよ。きたねぇな。いいから行くぞ」
言い合いをしながら武蔵と和葉が家に向かって歩いて行く。
そういえば俺も少し喉乾いた。
「歩、俺らもいこう」
一緒にボールで遊んでいた歩に話しかける。
「いーよー」
武蔵と和葉のあとを追うように歩いていると、歩が振り返って公園を見た。なんとなく言いたいことは察しがつく。
「なあ潤、実里達つれていかないの?」
「べつに少しの間くらい待てるだろ」
あの泉ってやつがいるし平気だろ。けど……泉って不気味だ。暗いし、何考えているんだかわからない。まぁでも、どうせすぐ戻ってくるし平気だろ。
————そして、俺らが飲み物を飲んで公園に戻った時には、事件が起きたあとだった。
「なんだよ、これ……」
祖父のところの使用人達が慌ただしく騒いでいる。
頭から血を流して倒れている泉。聞こえてくる救急車の音。
傍で実里は泣いていて、大人達は青ざめている。さっきまで楽しそうに遊んでいたじゃんか。
「意味わかんねぇよ……」
何が起きたのか。この時の俺たちにはまだわからなかった。
「こい」
泣いている実里を伯父さん——泉の父親が無理矢理連れて行く。
それが何を意味するのか、全員がわかっていなかった。
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