テラーノベル
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「……ふぅ。朝日がまぶしいなぁ。いやぁ、こっちの世界に来てから、ほんと時間の流れがゆったりしてて助かるよ。前の世界じゃ、毎朝アラームに起こされて、満員電車に押し込まれて……正直、あの生活に戻れって言われたら、全力で断るね。ここでは鳥の声で目が覚めて、窓を開ければ山と畑。誰も文句言わないし、時計に追われることもない。最高だろ?」
「さて、と……今日はなにしようかな。畑の世話? うーん、昨日やったしなぁ。魔法で水やりしたら一瞬で終わるし、草むしりも火の玉で焼けば一発。いやぁ、便利なもんだな、魔法って。……あ、でも焼きすぎると畑ごと黒焦げになるから気をつけないと。前回、トマトが丸ごと炭になってさ。村の人に笑われたよ。『異世界の勇者様も畑仕事は初心者なんですね』って。勇者じゃないんだけどなぁ、俺」
「ん? ああ、おはよう。隣の村のリナちゃんか。今日も薬草取り? そっかそっか、がんばるねぇ。俺? 俺はこれから朝ごはん。え? 食べすぎ? ははは、こっち来てから胃袋が元気になったみたいでさ。ほら、焼き立てのパンあるから一個持っていきなよ。え? いいって? いやいや、遠慮すんなって。こっちの世界、ほんとパンが美味いんだ。小麦粉をちょっと魔力で熟成させると香りが倍増するんだってさ。そりゃあもう、前世のコンビニパンとは段違い」
「さて、飯の後は……散歩かな。ああ、あっちの森は気をつけろって言われてるんだよな。魔物が出るとか。……でも正直、スライムくらいなら怖くないんだよね。ほら、ちょっと火の玉を――って、あ、やば、燃えすぎた。ごめんごめん! 森の精霊さん怒らないで! ……よし、沈火完了。いやぁ、こういうとき便利だよな、水魔法。火をつけて水で消す。あれ、結局なにしてんだ俺」
「それにしても、この世界の人たち、ほんとおおらかだなぁ。『転生者』って名乗っても、誰も驚かないし、むしろ『ああ、またか』みたいな顔されるんだよね。なんか慣れてる? もしかして、俺以外にもゴロゴロいるんじゃないかな、異世界人。……え? リナちゃんの親戚? え、元サラリーマン? マジで!? やっぱりかぁ。道理で村の道具小屋にカラオケ機材みたいなのが置いてあったわけだよ」
「でも、俺は別に大冒険とか、魔王退治とか、興味ないんだよなぁ。だって危ないでしょ。こっちはのんびりするために来たんだから。あ、もちろん呼ばれた理由は『魔王討伐』だったんだよ? でもさ、俺が王都に呼ばれたときに正直に言ったんだよね。『すみません、そういうの無理です。筋肉もないし、戦う気力もありません』って。そしたら王様が『では好きに生きよ』って。あの人、意外と寛大だったなぁ」
「だからこうして、畑を耕したり、近所の子どもに九九を教えたり、村のじいちゃんばあちゃんと一緒に酒を飲んだりしてる。なんていうか、第二の人生、いや第三の人生か? これくらいゆるいほうがちょうどいい。……あぁ、そういえば酒。こっちの世界の酒って、やたらと強いんだよ。前に一口でぶっ倒れて、村の広場で朝まで寝てたんだよな。恥ずかしかったなぁ。でも、まあ、誰も責めないのがありがたい」
「結論? 転生、最高。異世界生活、最高。俺、もう帰らないよ。いや、帰れって言われても嫌だから。あっちじゃ仕事に追われて、休日も寝て終わりで、何も残らなかった。でも今は違う。食べて、寝て、笑って、たまにちょっと冒険して。……あ、そうだ。リナちゃん、明日釣り行かない? 川魚、炭火で焼くとめちゃくちゃ美味いんだ。え、薬草取り? じゃあ終わったら集合ね。俺、網と魔法で一気に仕留めとくから」
「はぁ……幸せだなぁ。ほんとに、のんびりっていい。なぁ、前世の俺よ。あのとき電車に揺られながら『ああ、もう全部投げ出したい』って思っただろ? 今、叶ったよ。安心しろ。ちゃんと笑って生きてる。……ま、笑いすぎてシワが増えてきたけど、それもまた良し、だな」
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