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#第6回テノコン
───なんだこの状況は?
ビルの屋上で、フェンスに寄りかかって現地を見ていただけだぞ?
急に屋上の扉が開いたと思ったら、男に背後から抱きしめられ『死んじゃダメっス』と叫ばれながら、地面に押し倒される。軽くホラーだ。
これが普通の見た目のやつなら、何とも思わない。情に厚い人間が駆け付けてきたんだなと納得できる。
だが、俺を今止めているのは大柄のモヒカン男だ。昔のヤンキー漫画に出てくるような、丈が膝下から脛あたりまである特徴的な学ランを着ているのが余計に違和感を増幅させる。
今の時代にこんな奴がいるとは思わなかった。
もちろん抵抗する事も出来た。
怪人である俺の身体能力は一般の者とは比較にすらない。ヒーロースーツを着たヒーローか、同じ怪人でなければ俺を押し倒す事など出来ない。
だが、体格差で圧倒的に負けているのに押し倒されないのは不自然だと思い、諦めに近い境地で押し倒されている。
モヒカン男の息遣いを耳元で感じ、鳥肌が立つ。
「ひとまず離してくれないか?男に抱き着かれる趣味はない」
「飛び降りないって約束してくれるっスか?」
「そもそも飛び降りようとはしていない」
そこまで言って漸く離れた事にため息が出る。立ち上がってからスーツについた埃を払っていると、俺の顔をマジマジと見るモヒカンと目が合った。
今回は偵察がメインであったので、仮面はつけていない。俺の場合は変異は起きていないので、仮面を付けなければ怪人とはバレないからな。
「いやー、でも遠目でも分かるくらい目が死んでたんで飛び降りるかと思ってびっくりしたッスよ」
「びっくりしたのは俺の方だ」
改めてモヒカン男の姿を見たが怪しさしかない。服装もそうだが、顔の殆どが出ていないのが原因だな。目元は大きめの黒いサングラスが隠し、顔の下半分は黒いマスクが覆っている。
芸能人か何か? いや、芸能人ならまずその特徴的なモヒカンを隠すか。
それと、なんで学ランに棘付きの肩パッドがついているんだ? 屋上を開けて入って来た時も目に入ったが、見間違いだと思っていた。
こんな世紀末みたいな見た目で情に厚いときた。そういう不良がいるのは漫画の世界だけだろ? 俺の偏見だがな。
それより気になるのはこのモヒカンの発言だな。俺が今いるビルは11階建てだ。高さで言えば30メートル近いだろう。
その距離感で俺の目が死んでいるのが分かった? バカげた視力だな。
「飛び降りじゃないなら何してたんスか、こんな所で?」
「外の景色を眺めていただけだ。飛び降りようとは思っていない」
「本当っスか?」
「仕事の中休みに気分転換で来ただけだ。仕事中、ずっとパソコンと睨めっこしていたからな」
実際はヒーローの転送位置の確認と、俺たちが調べたのが『ヴレイヴ』にバレていないかこの目で確認しにきただけだ。
馬鹿正直にそんな事を言う訳にもいかず、嘘を並べているが、実体験を踏まえた言葉だ。違和感は少ないだろう。
「それならいいんスけど。仕事の疲れとかストレスとかで早まっちゃう人たまにいるんスけど、そういう時は一番親しい人に電話をかけると言いっス」
「俺は違うと言っているだろ」
「大事なのは自分が必要!死んで欲しくないって思う人がいるって認識する事っス!苦しい時もあると思うっス。そういう時は逃げてもいいんスよ!死んだら何も出来ないんっスから」
「俺の話を聞いてくれ」
自分の話に酔っているのか? あるいはコイツの目から見ると俺はそんなに飛び降りしそうに見えているのか? どっちにしろ不愉快だな。
こういうタイプはいくら否定しても無駄だ。適当に肯定して満足して帰って貰おう。
「もし、その時がきたら参考にさせて貰う。多分こないと思うがな」
「それなら良いっス!俺、職業柄で人助けをする事が多いんでお兄さんの事見捨てられなかったんスよ」
「職業柄? 見た感じ学生だと思うが」
学ランを来ているから学生というのは安直だと自分でも思う。ただ、現状を思い出して欲しい。
コスプレした情に厚いモヒカンに抱き着かれたのと、情に厚い学生のモヒカンに抱きつかれたならまだ後者の方がいい。受ける印象が違う。
本音を言えばどっちも拒否したいところだがな。
「当たりっす!俺、こんななりですけど高校一年生なんっスよ!見た目で間違われる事多いんでお兄さん凄いっスね」
学生であって欲しいとは思っていたが、これで一年生だと? 冗談は見た目だけにしてくれ。
「間違われる事が多いんだな」
「そうッスねー。妹はそんな格好してるからだって言うんッスけどお兄さんもそう思います?」
「思うな」
「そうッスかー。カッコイイと思うんスけど」
カッコイイと思ってその格好をしているのならセンスを疑う。幸いこのモヒカンの妹は正常のようだ。もっと妹に意見を貰って直した方がいい。
「それで、職業柄って言っていたな。ならバイトか何かで人を助けているのか?」
人を助けるバイトというのはパッと思いつかない。正社員なら幾つか候補が浮かぶが、このモヒカンは学生だ。学業と兼業しながらやれる職種は限られる。
「そういえば名乗るが遅れたッスね。俺、砂糖って言います」
そう言ってモヒカンがサングラスを外す。
隠していた顔の上半分が明らかになったのだが、漫画のようなつぶらな瞳が現れるでもなく、見た目から予想できる切れ長の鋭い瞳が俺を睨んでいた。ちなみに眉なしである。
「こう見えて、ヒーローやってるッス!」