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夜の城は静かだった。
吸血鬼の貴族・葛葉の執務室には、書類の山。
『……旦那様、本日の会議資料です』
「ご苦労」
『失礼いたします』
ローレンは淡々と書類を机に置く。
『本日の議題は三件。血液供給地区の調整と――』
「……ローレン」
『はい』
「誰もいないだろ」
『……確認しました』
扉が閉まる音。
空気が変わる。
「はー……肩凝る」
『急にだらけるな』
「秘書の前くらい許せ」
『仕事中だろ』
「ローレンがいるから仕事してんだよ」
『……意味が分からない』
ローレンは眼鏡を外す。
『それより、無茶な命令出しすぎ』
「貴族は忙しいんだよ」
『流石に倒れる』
「倒れたらお前が起こせ」
『……俺は秘書であって棺桶係じゃない』
葛葉は椅子に寄りかかる。
「……なぁ」
『何』
「俺が貴族じゃなかったらさ」
『……急にどうした』
「普通の吸血鬼だったら」
「お前、ここにいないよな」
ローレンは一瞬黙る。
『……さあな』
「即答しろよ」
『……いてもいい』
「……は?」
『……貴族だろうが』
『……吸血鬼だろうが』
『……葛葉の秘書だ』
「……それ、好きって意味?」
『……仕事だ』
「顔赤いぞ」
『赤くない』
「ローレン」
『……何』
「俺、お前いなくなったら」
「この城つまんねぇ」
『……主として不適切な発言だ』
「2人きりだろ」
『……そうだけど』
「なら本音言え」
ローレンは窓の外を見る。
『……秘書って立場があるから』
『……隣にいられる』
「立場なくなったら?」
『……それは』
葛葉は立ち上がって近づく。
「……それでも?」
『……それでも』
『……離れる理由はない』
沈黙。
時計の音だけが響く。
「……なぁ」
『何』
「人前で敬語使うの」
「やめたらどうなると思う」
『……即処刑される』
「だよな」
『……だから』
『……2人きりでいい』
葛葉は小さく笑う。
「……ズルい答え」
『……現実的だろ』
「でもさ」
「それでいい」
『……何が』
「昼は貴族と秘書」
「夜は」
『……何』
「ローレンと俺」
ローレンは少しだけ目を伏せる。
『……吸血鬼の貴族は』
『……我儘だな』
「秘書が甘やかすからな」
『……自覚しろ』
「してる」
「だから手放さねぇ」
『……脅しに聞こえる』
「事実」
ローレンはため息をつく。
『……明日の予定、覚えてる?』
「忘れた」
『……本当に貴族か』
「秘書付きのな」
ローレンは書類を差し出す。
『……さっさと終わらせろ』
「……はいはい」
「なぁ、ローレン」
『何』
「明日も来るよな」
『……当然だ』
「……よかった」
ローレンは小さく笑った。
『……仕事だからな』
「嘘つけ」
夜の城で、
吸血鬼の貴族と秘書は、
誰にも見せない顔で並んでいた。