テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#knkz
琳埜
76
8,916
夜の城は静かだった。
吸血鬼の貴族・葛葉の執務室には、書類の山。
『……旦那様、本日の会議資料です』
「ご苦労」
『失礼いたします』
ローレンは淡々と書類を机に置く。
『本日の議題は三件。血液供給地区の調整と――』
「……ローレン」
『はい』
「誰もいないだろ」
『……確認しました』
扉が閉まる音。
空気が変わる。
「はー……肩凝る」
『急にだらけるな』
「秘書の前くらい許せ」
『仕事中だろ』
「ローレンがいるから仕事してんだよ」
『……意味が分からない』
ローレンは眼鏡を外す。
『それより、無茶な命令出しすぎ』
「貴族は忙しいんだよ」
『流石に倒れる』
「倒れたらお前が起こせ」
『……俺は秘書であって棺桶係じゃない』
葛葉は椅子に寄りかかる。
「……なぁ」
『何』
「俺が貴族じゃなかったらさ」
『……急にどうした』
「普通の吸血鬼だったら」
「お前、ここにいないよな」
ローレンは一瞬黙る。
『……さあな』
「即答しろよ」
『……いてもいい』
「……は?」
『……貴族だろうが』
『……吸血鬼だろうが』
『……葛葉の秘書だ』
「……それ、好きって意味?」
『……仕事だ』
「顔赤いぞ」
『赤くない』
「ローレン」
『……何』
「俺、お前いなくなったら」
「この城つまんねぇ」
『……主として不適切な発言だ』
「2人きりだろ」
『……そうだけど』
「なら本音言え」
ローレンは窓の外を見る。
『……秘書って立場があるから』
『……隣にいられる』
「立場なくなったら?」
『……それは』
葛葉は立ち上がって近づく。
「……それでも?」
『……それでも』
『……離れる理由はない』
沈黙。
時計の音だけが響く。
「……なぁ」
『何』
「人前で敬語使うの」
「やめたらどうなると思う」
『……即処刑される』
「だよな」
『……だから』
『……2人きりでいい』
葛葉は小さく笑う。
「……ズルい答え」
『……現実的だろ』
「でもさ」
「それでいい」
『……何が』
「昼は貴族と秘書」
「夜は」
『……何』
「ローレンと俺」
ローレンは少しだけ目を伏せる。
『……吸血鬼の貴族は』
『……我儘だな』
「秘書が甘やかすからな」
『……自覚しろ』
「してる」
「だから手放さねぇ」
『……脅しに聞こえる』
「事実」
ローレンはため息をつく。
『……明日の予定、覚えてる?』
「忘れた」
『……本当に貴族か』
「秘書付きのな」
ローレンは書類を差し出す。
『……さっさと終わらせろ』
「……はいはい」
「なぁ、ローレン」
『何』
「明日も来るよな」
『……当然だ』
「……よかった」
ローレンは小さく笑った。
『……仕事だからな』
「嘘つけ」
夜の城で、
吸血鬼の貴族と秘書は、
誰にも見せない顔で並んでいた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!