TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

悪魔は完全に死んだ。灰も残さずに消えた。とはいえ、最後まで希望を持ったまま死んだのは幸運だったと言えるかも知れないな。哀れではあるが。


「……それで、話を聞いてもいいですか? 老日さん」


毅然とした表情で青木は問いかけた。


「いや、良くないな。悪いが、俺は俺のことについて何も話すつもりはない」


記憶を消すか迷ったが、やめた。この悪魔の発生が報告されないのは問題になる。悪魔の発生自体が無かったことになり、何の調査も行われず、それで誰かが被害を受ければそれは俺のせいだ。俺はもう、他人の命の責任を背負いたくない。


「私も聞きたいです。最後にあの悪魔を祓った光、どうやったんですか」


「努力だ」


杖珠院の質問を切り捨て、俺は青木の方を向いた。


「講習は終わりってことで良いか? 青木さん」


「……そうですね。まだ終わってはいませんが、貴方に教えて意味のある話は無いでしょう」


それじゃあ、始めるか。記憶は消さないと言ったが、何もしない訳じゃない。


「アンタらには悪いが……『完全なる支配《コンプリート・コントロール》』」


俺は鍵言を唱え、魔術を発動した。態々これを唱えたのは、これが高度で複雑な魔術だからだ。脳内で詠唱を完了するのは、言わば暗算だ。対するこれは、筆算のようなもので脳内で完結するのが不可能なため、《ことば》を使う。


「魔術っ!? 有り得ない……本当に何者?」


「……何、これ。何をしたの、老日さん」


広がった魔力が、彼ら全員を包み込み、浸蝕した。


「俺について他人に喋ることを禁じた。それだけだ」


「な、何よそれッ!?」


まぁ、日常生活にそこまで支障はないはずだ。しかし、あまり良い気分じゃないな。記憶を消したり、行動を支配したり、まるで漫画の悪役だ。これでも、元勇者なんだけどな。


「こんなことしなくても、言わないでってお願いされたら黙ってたのにひどいですっ!」


「お願いだけじゃ、口が滑って言うかも知れない。魔術なら、そういうミスを無くせる」


「それは確かにっ! 私、良く口が滑るんです!」


目を輝かせる乙浜。何だこいつ。


「……そういえば、砂取さんが居ませんね」


「とっくに逃げたぞ」


金属棒刺されてから、復活したあたりで一目散に逃げてたな。アイツは処置しなくても良いな。俺の力を知る前に逃げていた。


「あぁ。それと、この件に関する報告は協会に帰ってから直接話すようにしてくれ」


これから、少し狩りをしていきたい。素材を買い取ってもらう際に俺も事情聴取とかされたら面倒だ。今日で犀川に金を返しておきたい。借りを残しておくのは好きじゃないからな。


「老日」


「何だ?」


もう去ろうとしていたが、野島に呼ばれて振り返る。


「頼むから、警察の世話にはなるなよ。お前みたいなのを追うことになる元同僚たちが不憫でしょうがない」


「あぁ、善処する」


そう言って、俺は踵を返した。









異界探検協会、南房総支部。支部長室に三人の男女が居た。中年の男が部屋の奥に座り、長髪の女が机を挟んでその対面に座り、若い男が机の横に立っていた。


「青木君、君の話は余りにも支離滅裂だ」


スーツを着た長髪の女が言った。


「……すみません」


「私が求めているのは謝罪ではなく、説明だ。具体的で正確な説明を求めている。報告書は見たとも。追加で送らせた報告書も見た。だが、私の感想は変わらなかった」


女はコツコツと机を叩く。


「講習に参加していた高校生四人と元警官の野島には話を聞けたが、大学生の砂取と老日 勇には接触できなかったという話だったな?」


「えぇ、それに関しては間違いありませんとも。箕浦《みのうら》本部長。事件当日の昼過ぎに魔物の素材を売りに来たらしいのですが、そこからは全く足取りが掴めずと言ったところですな」


中年の男の言葉に本部長は頷いた。


「実はね、私の方でも調査を行わせてもらったんだ」


「ほう、本部長殿の方でもですか」


言葉を交わす二人の前で、青木は蒼い顔で俯いているままだ。


「老日に関しては接触出来なかったが……砂取に関しては少し調べれば接触出来た。怯えた様子で家に籠っていたらしいが、彼は唯一……老日 勇に関する情報を話すことが出来た」


「ッ!」


青木が顔を上げる。老日の魔術によって自分から話すことは出来ない彼だが、その反応に箕浦は笑みを浮かべた。


「大した情報は持っていなかったが……途中で逃げた砂取のみは老日について話すことが可能で、他は全員名前すら出せない……余りにも不自然だ」


「ほう、それは確かに……老日が何か術をかけたように見えますな」


当たりだ。青木の蒼褪めていた肌に僅かに色が戻る。


「あぁ、間違いなくそうだろう。そして、同時に発生した悪魔……普通に考えて、関係が無い訳が無い」


「それは、つまり……老日が悪魔の召喚者であると?」


「私はそう考えている」


ハズレだ。青木はそれを否定しようとしたが、老日について何も喋れない青木はそれすらも出来なかった。


「……小戸さんはどうなったんですか?」


「小戸啓政か。悪魔の召喚、契約は特別な理由が無い限り禁じられている。それに、そもそもお前達を殺そうとしているからな。逮捕は確定だが、一先ず管理局で調査されることになった」


そうですか、と青木は力無く頷いた。


「そして、今回の講習中に勝手な行動に出た杖珠院と砂取は厳重注意と一定期間の活動停止処分だ」


「それと、青木クン。このような事態にも拘らず情報を秘匿している様子のある君にも処罰が降る予定だったがね、この事態が解決するまでは保留だ。何かの術により隠匿されていた場合も有り得るからな」


「……了解致しました。支部長」


これから、自分は……そして、老日や小戸、砂取はどうなるのだろうか。果たして、全員が日常に帰れるのだろうか。そんなことを考え、青木は窓から見える空を見た。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

42

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚