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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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朝から、本社の空気はどこか落ち着かなかった。
エントランスには普段より多くの警備員が立ち、会見会場となる大会議室の前では、総務や広報の社員たちが忙しなく行き交っている。
その中心で、新沼晴永もまた、手元の資料へ目を通していた。
「新沼さん。会見資料、最終版です」
「ありがとうございます」
差し出されたファイルを受け取り、ページをめくる。
登壇者の名前。
説明する内容。
想定される質問と、それに対する回答。
昨夜も確認したものだ。
それでも、今日になって変更された箇所がないか、もう一度目を通しておく。
「会場の準備は?」
「間もなく完了します。報道各社も順次到着しています」
「分かりました」
短く答え、晴永は腕時計を確認した。
会見開始まで、あと四十分。
「晴永」
聞き慣れた声に顔を上げる。
廊下の向こうから、副社長をしている母――新沼(角宮)清香が歩いてきた。
「母さん」
「ずいぶん難しい顔をしているわね」
「そうか?」
「ええ」
清香は晴永の手元にある資料をちらりと見る。
「何度確認しても内容は変わらないでしょう?」
「分かってるよ」
苦笑してファイルを閉じた。
「緊張してるの?」
「多少は」
「あら、いつも私に可愛げのない態度ばかり取っていたあなたが? ……意外ね」
「俺だって……緊張くらいする」
言い返すと、清香が小さく笑った。
その向こうでは、藤代有馬が、角実屋フーズ代表取締役社長の角宮盛晴と何やら話している。
祖父も今日はいつも以上に隙のない雰囲気を醸し出していた。
これから公の場で、自ら決めた約束に終止符を打つ。
それを思えば、盛晴にも思うところはあるのだろう。
(くそっ。なんでこんなに緊張するんだ……!)
何度資料に目を通しても不安はぬぐい切れない。けれど、その一方で晴永の心は決まっていた。
ふと、昨日の夜に聞いた瑠璃香の声を思い出す。
瑠璃香も、今日の会見を気にしていた。
『晴永さん。緊張してませんか? 大丈夫ですか?』
そう尋ねられて、
『大丈夫だ』
と答えた。
瑠璃香が心配するのも無理はない。以前の、藤井田千紗との婚約発表は、晴永のあずかり知らないところで祖父が勝手にやったから、晴永は関与していない。
だが、今回は違う。
(けど……これを乗り切れば、俺も藤井田さんも晴れて自由の身だ)
そう思うと、是が非でもしっかりと自分たちの言葉で婚約をなかったことにし、〝フリー〟である自分を勝ち取らなければならない。
(本当に愛する相手との未来を勝ち取るために)
下手な会見をすれば、批難の的になる。別に自分はそうなったところで痛くも痒くもないが、一年後、瑠璃香が隣に立つのを躊躇うような醜聞ありの男にはなりたくなかった。
(今日は絶対にうまくやる)
そうして終わらせるのだ。
祖父たちが決めた、自分と藤井田千紗を縛っていた約束を。
そして――。
そこから幸せな未来への一歩を踏み出す。
晴永は静かに息を吐いた。
***
定刻。
会見場には、多くの報道関係者が集まっていた。
壇上に並ぶのは四人。
角実屋フーズ社長の角宮盛晴。
藤井田ホールディングス社長の藤井田一誠。
新沼晴永。
そして、藤井田千紗。
舞台袖には、晴永の母・清香と、千紗の母・琴葉の姿もある。
二人とも当初は登壇する予定だったが、話し合いの末、壇上に立つのは両社を代表する二人と、婚約当事者だけということになった。
ステージ上にはいくつものカメラが向けられ、シャッター音が絶え間なく響く。
司会者の挨拶を経て、最初に口を開いたのは盛晴だった。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
普段と変わらない、低く落ち着いた声だった。
コメント
2件
緊迫した雰囲気!
おお、ついに会見当日か……!朝から張り詰めた空気がすごく伝わってくるな。晴永が「愛する相手との未来を勝ち取るために」って決意してるところ、めちゃくちゃ胸に来たわ。母さんとの軽いやり取りもいいアクセントになってるし、祖父・盛晴との対比も渋い。133話も着実に話が動いてて気持ちいいな🔥